「老化した細胞」だけを消す。資生堂が見つけた、肌の中の小さな革命
肌の曲がり角、という言葉があります。でも実際に肌の中で起きているのは、曲がり角というよりも「積み重ね」に近い現象です。
紫外線や酸化ストレスにさらされ続けた細胞は、ある日を境に分裂を止めます。死ぬわけではなく、そこに居座り続ける。これが「老化細胞(セネセント細胞)」と呼ばれるものです。厄介なのは、この細胞がただじっとしているのではなく、周囲にSOSのような炎症物質をまき散らし、隣にいる元気な細胞まで巻き込んでいくことです。
シワ、たるみ、ハリの低下──。私たちが「歳をとったな」と感じる肌の変化の背景には、こうした細胞同士の連鎖反応が隠れているのかもしれません。
そんな中、資生堂が興味深い発表をしました。今回はこのニュースを、専門用語をなるべくかみ砕きながらお伝えします。
見つかったのは、身近なハーブの中の力
今回、鍵を握っていたのはセリ科のハーブ、コリアンダー由来のエキスでした。もともとは毛髪の再生医療研究の過程で、毛包の細胞を増やす働きを持つ成分として見出されたものだといいます。そこに含まれる成分を詳しく調べたところ、非常に高い生理活性があることが判明し、今度は肌の細胞への応用が試みられました。
実験は、酸化ストレスによってあえて老化状態にした皮膚の線維芽細胞に、このエキスを加えるという形で行われました。結果は明快で、老化した細胞だけがアポトーシス(細胞死)を起こして除去されていったのです。一方、老化していない正常な細胞にはこの反応が見られませんでした。まるでエキスが「老化した細胞」と「元気な細胞」を見分けて、前者だけに働きかけているような結果です。
「減らす」だけでなく「増やす」
さらに興味深いのはここからです。正常な細胞と老化細胞をおよそ半分ずつ混ぜ合わせた状態でエキスを添加する実験も行われました。すると、老化細胞が減るのと同時に、正常な細胞の数そのものが増えるという結果が確認されました。老化のサインとされる指標の値も下がっており、あわせて肌のハリを支えるコラーゲンの産生を後押しする可能性も見えてきています。
「悪いものを減らし、良いものを増やす」。この二つの効果が同時に起きるというのは、美容の研究においてはかなり理想的な結果です。老化細胞を取り除くアプローチ自体は、セノリティクスと呼ばれる分野として近年世界的に注目されていますが、今回の発見はその中でもひとつの具体的な手がかりを示したものといえます。
なぜ資生堂がこの発見にたどり着けたのか
背景にあるのは、資生堂が20年以上にわたって積み重ねてきた、肌と毛髪の再生医療研究です。基礎研究から臨床応用まで幅広く取り組んできた中で培われた、細胞を丁寧に観察・評価する独自の手法が、今回の発見を支えています。
もともと毛髪の研究から見つかった成分が、肌の老化研究へと形を変えて応用される。この流れそのものが、ひとつの分野で得た知見が別の分野の突破口になるという、研究開発の面白さを物語っています。
この先、私たちの肌はどう変わるか
資生堂は今回の成果について、今後さらに有効性と安全性の検証を重ね、新しいスキンケア製品への応用を検討していく方針を示しています。すぐに店頭に並ぶわけではありませんが、もし実用化が進めば、これまでの「保湿する」「守る」といった発想とは少し違う、「老化細胞そのものにアプローチする」という新しいエイジングケアの選択肢が生まれることになります。
肌の変化を、諦めて受け入れるものから、細胞レベルで働きかけられるものへ。そんな未来が、少しずつ近づいているのかもしれません。
この記事のポイント
肌の老化には、蓄積した「老化細胞」が周囲に悪影響を与える連鎖反応が関わっている
資生堂は、コリアンダー由来のエキスに、老化細胞を選択的に除去しつつ正常な細胞を増やす効果があることを発見
この成果は、資生堂が長年取り組んできた再生医療研究の知見を応用したもの
今後は検証を重ね、スキンケア製品への応用を目指す方針
続報が発表され次第、またこのnoteでもお伝えしていきたいと思います。
本記事は資生堂の研究発表内容をもとに、筆者が独自の視点でまとめたものです。詳細は資生堂の公式発表をご確認ください。
