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ふたりの軌跡と共に「急に具合が悪くなる」を読んで

カンヌ国際映画祭「最優秀女優賞」を獲得したと話題になった「急に具合が悪くなる」を読んだ。
本屋さんでこの本の帯を見るまでは、仕事や何かイベントに行こうとすると体調が悪くなる人の話だろうかと、思っていた。
ところがだ。
帯を見ると全く違う様子。
重病にかかり、残り僅かな命と向き合うと書かれている。
本をパラパラとめくると、哲学者と人類学者の往復書簡だと。

一気に読んでしまった。
往復書簡をしている二人の関係がどんどんと深まっていく様子を見届けなければならない気持ちになった。

言葉を紡ぎ、考察し、深めてきた二人。研究者として、先人たちの言葉を引用しながら、今ある事象を考察していく。
研究者としての姿を保ちながら、後半にかけて「人」が見えてきた。

宮野さんの声はいつでも静かに語られる。
自分の生きてきた軌跡をたどるように。
そして、磯野さんの熱を帯びた声によって、どんどんと二人の線が太くなり、遠くでしか聞こえなかった声が、とても大きく聞こえる感覚になる。

ページをめくるたびに見えてきたのは、病気の進行ではなく、一人の人間の輪郭。

『急に具合が悪くなる』を読んでいて私が惹かれたのは病気の話ではなかった。

むしろ、病気によって説明しきれない「人」がそこにいたことだ。

医師は病状を伝える。
データをもとに予後を語る。
残された時間について話し合う。

それは必要なことだ。

そこには、残された時間をどう生きるかを共に考えようとする願いがある。

けれど、人は病気だけでできているわけではない。

宮野さんは病気になっても研究者であり、友人であり、誰かと対話する人だった。

往復書簡を読みながら、私は二人が言う「ラインを描く」という言葉を、二人の軌跡を辿ることだと感じた。

病気の記録ではなく、人が人として生きた軌跡。

だから読み終えたあとに残ったのは、終末期医療について再考したい思いと同時に、「人をひとつの言葉で閉じ込めてはいけない」という感覚だった。

映像化がどんな形になるのか、確かめにいかなくては。

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