eye 瞳に宿るもの
白い天井や四角い窓を見つめる瞳。
その奥にある気持ちは、私に見えるのはほんの一部かもしれない。
瞳に宿る感情に寄り添い、時に覗き込み、目を逸らさずに受け止めたい。瞳には、見えるものも見えないものも、すべてが宿っているから。
病室の静けさを破るように、患者さんが突然、白い天井を指さして叫んだ。
『ねずみがいる、早く捕まえろ!』と恐怖に震える声。私には何も見えない。けれど、その瞳は確かに怯えている。
『わかった、私が捕まえるわ。どの辺にいる?』と問いかけながら、椅子に上がり、手を振り回してみる。
幻覚かもしれない。でも、見えないからといってなかったことにはできなかった。
一緒に探すうちに、怒りは少しずつ和らぎ、違う話題を少ししているうちにやがて天井のことは忘れられていった。
その瞳に、いつもの穏やかな色がともる。
四角い小さな窓をじっと見つめる瞳。
その奥には、治療への強い意志が宿っているように見える。
医師の言葉を前に、はじめは色を失ったかの様に見えた瞳。そして、医師を射るような鋭さを持つ。
『少しでも可能性があるなら、賭けたいんです』と震える声。
その瞳は、未来を見据えているようにまっすぐで、揺らぎがなかった。
窓の外に広がる景色は、ただの空かもしれない。
けれど、その瞳には家族の顔や愛する人の姿が次々と浮かんでいるのか。
何も浮かばなくてもいい。真っ白なままでもいい。
それでも、その瞳の奥には確かに希望が灯っていた。
私はその視線を逸らさずに受け止める。
『あなたの思いを一緒に支えたい』と、言葉だけでなく自分の瞳にも力を込めて伝える。
自分の気持ちを整理できず、言葉にすることができない患者さんもいる。
ただ一点を見つめ続ける瞳。
視線を逸らさず、まっすぐにこちらを見てくる瞳。
その奥にある気持ちを正しく読み取るなんてことはできない。
けれど、瞳の陰りに気づけたなら。
私は時に顔を覗き込み、目に力を込めて伝える。
『あなたの気持ちを尊重する』と言葉だけでなく自分の瞳で示す。
瞳と瞳が交わる瞬間、沈黙の中に確かな対話が生まれる。
それは声よりも深く、心に届く看護の時間になると信じている。
瞳には、見えるものも見えないものも、すべてが宿っている。
恐怖に震える時もあれば、未来を見据えて希望を灯す時もある。
言葉を持たない沈黙の中でも、瞳は確かに感情を語り続けている。
だから私は、目を逸らさない。
その瞳の奥にある思いを尊重し、寄り添う覚悟を瞳で伝える。
看護とは、見えるものだけでなく、見えないものをも共に受け止める営みなのだと思う。
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