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15歳、ただ会いたかっただけ。第四話 ふたりきり

会うだけなのに、一日中、心臓がうるさかった。

こんなに時間が長く感じたのは、久しぶりだったかもしれない。


会うのはとしが仕事が終わり、寮でのご飯を食べてから。
仕事は朝早いらしく、5:00とか6:00に出るみたい。そうとう疲れるらしく、21時に寝てしまう事も度々あるらしい。
夏だからよけいに疲れるだろうな、と思った。


だから、会うといっても短い時間。
だけど、その短時間でも会いたいと思っていた。


少しでも可愛く見られたい。
メイクもしっかりして、洋服は出かけるわけじゃないから、ガチガチにお洒落をするわけじゃない。
だけど可愛い格好。
髪の毛も綺麗に整える。


ドキドキしながら待ち合わせ場所に向かった。
もう、そこにはとしが見える。
見えた瞬間、やっぱりカッコ良いって思った。


「お待たせー。待たせちゃった?」


ドキドキしてることを悟られないように、少し離れたところから手を振りながら言った。


「今来たところ。どうする?」


少しだけ迷ったあと、


「少し歩く?」


と私が言うと、としはうなずいた。
私達は近くの川沿いを歩く事にした。


川沿いの道は、人も少なくて静かだった。
並んで歩く距離が、さっきよりも少し近い気がする。


何を話せばいいのか分からないまま、
ただ、隣にいることだけを意識していた。
私の歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれる。


としが、
「座って話そうか」
と言うから、私達は座って話すことにした。


隣に座って、川を見ながら話す。
少し動いたら触れ合いそうな距離。
今日の私は心臓が壊れるんじゃないかと思うくらいドキドキしている。


としはいろんな事を話してくれた。
家族のこと。今までのこと。友達や先輩、後輩のこと。


例のあのおっさん(親方)の事も話して来たんだけど、私の事を自分の女だから、誰も手出すなよって言ってたらしい。
結婚してて子供もいるみたいだった。
冗談でも気持ち悪いとしか思わなかった。


面白いエピソードもあってたくさん笑った。
自分とは全然違う世界に、とても興味が湧いた。


たまに向き合いながら話すけど、近い距離に恥ずかしくなって、下を向いたりしてはぐらかした。


前の彼女の話もしてくれた。

としが話す人達は私の全然知らない人。
現実味がない。
そのせいもあったのか、としが付き合った彼女たちの話をしても、過去の思い出、として聞けた。


18歳。私より3つ年上なだけだけど、としから香る香水の匂い、私に対する接し方、横顔、全てが当時の私からしたらとても大人っぽく感じた。


ふと、会話が途切れた。

さっきまで普通に話していたはずなのに、
急に静かになった空気に、少しだけ戸惑う。


隣にいるとしの気配だけが、やけに近く感じた。


「ねえ」


名前を呼ばれて顔を上げると、
としと目が合った。


少し真剣な表情に、胸がぎゅっとなる。


「付き合わない?」


一瞬、言葉が出なかった。


嬉しいはずなのに、
そのまま頷いていいのか分からなくて。


少しだけ目を逸らして、息を整える。


「……ごめん」


小さくそう言うと、としが少し深妙な顔をした。


「私、今……彼氏いるの」

「でも、好きじゃないの」


自分でも驚くくらい、言葉はすぐに出てきた。


「ちゃんと、別れる」


そんな私にとしは、

「良いの?大丈夫?」


「うん。……大丈夫。」


そう言ったあと、少しだけ沈黙が流れた。

としは、何かを確かめるみたいに私を見て、

「そっか」

って、小さく笑った。

その表情が、少しだけ安心したように見えた。


その時、ふと、――

としの手が、私の手に触れた。

一瞬だけ、時間が止まったみたいになる。

でも、としは何も言わずに、そのまま自然に手を重ねてきた。

ぎゅっと握るわけでもなく、
ただ、そこにあるだけの優しい温度。

心臓の音が、またうるさくなる。

さっきまでとは違う意味で。


気づけば、あっという間に時間が過ぎていた。

「そろそろ帰らないとだな」

としのその一言で、現実に引き戻される。

「うん……」

頷きながらも、少しだけ立ち上がるのが遅れる。

もっと一緒にいたい、なんて言えないまま。

ゆっくりと立ち上がって、来た道を並んで歩く。

行きよりも、少しだけ静かな帰り道。

さっきまであんなに話していたのに、
今は言葉が少なくても、変に気まずくはなかった。

ただ、隣にいる時間が、もうすぐ終わることだけが寂しかった。

待ち合わせしていた場所に戻ってきて、足が止まる。

「じゃあ……またな」

「うん。またね」

一歩踏み出して、少しだけ進んでから振り返る。

としはまだそこにいて、
同じように、こっちを見ていた。

目が合って、どちらともなく小さく笑う。

なんだかそれだけで、胸がいっぱいになる。

私は小さく手を振った。

今度こそ前を向いて歩き出す。

もう振り返らないって決めたのに、
少しだけ気になって――

それでも、そのまま歩き続けた。
胸の奥に、さっきの温度を残したまま。


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