15歳、ただ会いたかっただけ。第十話 変わってないのに
「ねぇ、これ絶対似合うって」
「可愛いー」
「これは?」
「それも良いねー」
そんなやり取りをしながら、地下街をなんとなく歩いていた。
不意に——
腕をグイっと引かれる。
「ぶつかるだろ」
としの声が、すぐ近くで落ちる。
一瞬、何が起きたのかわからなくて、ただ立ち止まった。
「ごめん」
少し遅れて、そう言った。
「怒ってないから」
そう言いながら、頭をグイっと寄せられて、少し乱暴に撫でられる。
何も言えないまま、視線を逸らした。
「髪がぐちゃぐちゃになったー」
わざと軽く言うと、
「大丈夫だって」
としはそれだけ言って、もう前を向いている。
何事もなかったみたいに、また歩き出す。
――なのに。
さっき掴まれた腕の感覚だけが、やけに残っていた。
「ねぇ見て、あれ可愛くない?」
みさきの声に、はっとして顔を上げる。
「あ、ほんとだ」
少し遅れて返しながら、みんなの方に歩み寄る。
ちゃんと話せてる。ちゃんと笑えてる。
いつも通り。
――のはずなのに。
さっきから、少しだけタイミングが合わない。
みんなの会話に入るたびに、ほんの少しだけ遅れる。
「それさ、絶対似合うって!」
「え、無理でしょ」
笑いながら返したつもりなのに、自分の声だけ、少し遠くに聞こえた。
「なにそれ、今日テンション低くない?」
みさきが不思議そうに顔を覗き込んでくる。
「そんなことないって」
すぐに返したけど、ちゃんと笑えている自信はなかった。
「ふーん?」
納得していない顔のまま、みさきが視線を外す。
その隙に、少しだけ息を吐いた。
――なんか、変。
自分でもわかるくらい、落ち着かない。
「ちょっと疲れたー」
みさきが大きく伸びをする。
「わかる、なんか人多くない?」
「とりあえず座りたくない?」
「じゃあご飯行こーよ」
そんな流れで、なんとなく店に入ることになった。
近くにあった店に入って、空いている席に座る。
気づけば、としが隣にいた。
「なに食べる?」
「どうしよっかなー」
メニューを見ながら、みんなであーだこーだ言い合う。
「それ多くない?」
「いやいけるって」
「絶対残すでしょ」
いつも通りのやり取りに、思わず笑った。
ちゃんと楽しい。
ちゃんと、いつも通り。
――のはずなのに。
隣にいる気配が、やけに近い。
メニューを覗き込むと、肩が少し触れた。
ほんの一瞬。
それだけなのに、
「……あ、ごめん」
反射的に、少しだけ体を離す。
「ん?」
としが軽くこっちを見る。
「なんでもない」
すぐに目を逸らして、メニューに視線を落とした。
「これにしよっかな」
話を戻すように言うと、
「いいじゃん、それ」
隣から、すぐに返ってくる。
近い。
声も、距離も。
それだけで、さっきのことを思い出しそうになる。
「じゃあ私もそれにしよー」
「え、マジで?」
また笑いが広がる。
ちゃんと混ざれてる。
ちゃんと、いつも通り。
なのに、
少しだけ、息がしづらい。
「飲み物どうする?」
不意に、としが小さく聞いてくる。
「え?」
顔を上げると、すぐ近くに視線があった。
「セットにする?」
それだけのことなのに、
距離が近くて、うまく頭が回らない。
「あ、うん……する」
少しだけ間が空いたのが、自分でもわかった。
「じゃあ一緒に頼むわ」
としはそれだけ言って、何事もなかったみたいに前を向く。
――やっぱり、普通だ。
変わらないのは、としの方で、
変わってしまったのは、多分——
自分の方だ。
注文したものが運ばれてきて、自然と会話が途切れる。
「いただきまーす」
「それ絶対多いって言ったじゃん」
「いけるって」
「いや無理でしょ」
そんなやり取りに、また笑いがこぼれる。
何気なく隣を見ると、同じタイミングでとしが水に手を伸ばしていた。
少しだけ指が触れそうになって、
反射的に手を引く。
「……あ、ごめん」
小さく言うと、
「ん」
それだけ返して、何もなかったみたいに水を飲む。
みんなで話して、笑って、食べて。
何も変わってないはずなのに、
自分だけ、少しずつズレていく。
「ごちそうさまー」
「食べすぎた」
「絶対残すと思ったのに」
「ほら全部食べたし」
席を立って、店を出る。
「次どうするー?」
「もう満足じゃない?」
「じゃあ帰る?」
そんな流れで、自然と帰ることになった。
来た道を戻りながら、他愛もない話が続く。
ちゃんと会話に入れてる。
ちゃんと、いつも通り。
――のはずなのに。
隣を歩く気配が、ずっと意識から離れない。
何度か目が合いそうになって、そのたびに逸らす。
気づかれてないはずなのに、
なんとなく、落ち着かない。
「じゃあここでー」
「またねー」
近所に着いて、いつもの場所で立ち止まる。
それぞれが軽く手を振って、帰ろうとする中、
「また明日な」
としが、当たり前みたいにそう言った。
「うん」
それだけ返して、背を向けかけたとき、
「——ゆう」
呼ばれて、振り返る。
「ちゃんと前見て歩けよ」
さっきと同じことを、少しだけ低い声で言う。
「見てるし」
そう返すと、
としは少しだけ笑って、
軽く、頭に触れた。
「嘘つけ」
それだけ言って、先に歩いていく。
――なんで。
それだけなのに、
また、心臓がうるさくなる。
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