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15歳、ただ会いたかっただけ。第五話 終わりのあとで

通話を切ったあとも、しばらくケータイを見つめていた。

大きなため息を吐く。
自分から終わらせたはずなのに、胸の奥が少しだけ重い。
それでもーー戻りたいとは思わなかった。

ゆっくりと深呼吸をして、
これで良かったんだと、自分に言い聞かせた。

そして頭に浮かんだのはとしのことだった。
あの夜のことと、さっきの出来事が重なって、胸が締め付けられる。

窓の外から、蝉の鳴き声が聞こえてくる。
遠くから聞こえる子供たちの声に、現実へと引き戻された。

いつもと変わらない夏のはずなのに、少しだけ違って感じた。

彼に別れを告げた時、彼はあっさりと
「わかった」
と受け入れた。

それでも、その声の静けさに、
落ち込んでるのがすぐにわかった。

「ごめんね」
そう言った私に、彼は少しだけ間を置いて、
「……ああ」
と返した。

その一言が、思っていたよりもずっと重たくて、胸の奥に引っかかったまま離れなかった。


ケータイを閉じても、その言葉だけが耳の奥に残っていた。
何度も繰り返されて、そのたびに胸が少しだけ痛む。

それでも、もう戻ることはないと分かっていた。
分かっているのに、簡単には消えてくれなかった。

ベッドに倒れ込んで、ぼんやりと天井を見つめる。気づけば、また、としのことを考えていた。

あの夜のことが、まだ体のどこかに残っている気がする。

ケータイに手を伸ばしかけて、ふと止めた。

……今、連絡していいのか分からなかった。

そのまま目を閉じると、いつの間にか少しだけ眠っていた。

──どれくらい経ったのか分からない。

不意に、ケータイの振動で目が覚めた。


――とし。

名前を見た瞬間、心臓が大きく跳ねた。

一瞬だけ迷って、それでもすぐに通話ボタンを押す。

「……もしもし」

少しだけ声がかすれた。

「あ、今大丈夫?」

いつもと変わらない声に、少しだけ力が抜ける。

「うん、大丈夫」

そう答えたあと、少しだけ間があいた。

その沈黙を埋めるみたいに、としが言う。

「今日もさ、ちょっとだけ会える?」

一瞬、言葉が出なかった。

さっきまでのことが、頭の中で重なる。

それでも――

「……うん」

気づけば、そう答えていた。


通話を切ったあと、しばらくケータイを握ったまま動けなかった。

さっきまでの出来事が嘘みたいで、現実が少しだけ追いついてこない。

会える。

その言葉が、胸の奥で何度も繰り返される。

さっきまで感じていた重さが、少しだけ軽くなった気がした。

鏡の前に立って、軽く髪を整える。

さっきまでの自分とは、少しだけ違う顔をしている気がした。

待ち合わせの場所に向かう足が、少しだけ速くなる。

遠くに見えたその姿に、心臓がまたうるさくなった。



「おつかれ」

変わらない声に、少しだけ緊張がほどける。

「おつかれ」

そう返しながらも、目を合わせるのが少しだけ照れくさかった。

前に会ったときと同じはずなのに、どこか空気が違って感じる。

少しだけ近くなった距離に、意識が向いてしまう。

「今日もありがと。急に」

としがそう言って、少しだけ笑った。

「ううん、大丈夫」

短いやりとりなのに、胸の奥が落ち着かない。

少しの沈黙のあと、
としが何かを言いかけて、やめた。

「……どうしたの?」

そう聞くと、少しだけ迷ったように視線を逸らして、

「いや、なんでもない」

と、小さく笑った。

その仕草に、胸が少しだけざわつく。

前よりも、近い。

そう感じてしまう自分がいた。

少しだけ間を置いて、

「……ちゃんと、別れてきた」

気づけば、そう口にしていた。

としは一瞬だけ驚いた顔をして、
そのまま何も言わずに、少しだけ視線を落とした。

何かを考えるみたいに、短い沈黙が流れる。

「…そっか」

低い声で、そう言った。

その言葉は、思っていたよりも静かで、
でも、どこか少しだけ安心したようにも聞こえた。

「……大丈夫だった?」

少し遅れて、そう続ける。

その言い方が、優しくて、
胸の奥がじんわりと熱くなる。

「うん……」

小さく頷くと、としはそれ以上は何も聞かなかった。

ただ、少しだけ距離が近づく。

歩き出そうとしたとき、

ふと、としの手が私の手に触れた。

一瞬だけ、息が止まる。

離れると思ったのに、そのまま、軽く触れたままだった。

「……手、いい?」

少しだけ間を置いて、そう言った。

その言い方が少しだけ照れていて、
余計にドキッとした。

頷く代わりに、そっと手を差し出す。

指先が触れて、ゆっくりと重なる。

強く握るわけでもなくて、
ただ、離れないように軽く包まれる。

あの夜と同じはずなのに、
少しだけ違う温度に感じた。


——終わりのあとで、すべてが静かに動き出していた。


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