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15歳、ただ会いたかっただけ。第八話 静かに変わる距離

それからも、変わらずとしと会う日が続いていた。

特別なことをしているわけじゃないのに、
一緒にいる時間は、いつも自然と隣にある。

並んで歩くのも、手を繋ぐのも、
もう当たり前みたいになっていた。

ふざけて笑い合ったり、
何でもない話をしているだけなのに、
それだけで十分だった。

会わない時間の方が、少しだけ落ち着かなくなるくらいで。

並んで歩いている途中、
としが何気なくこっちを見て、少しだけ笑った。

「ん?」

そう聞く前に、
抱き寄せられて距離がなくなった。

次の瞬間、
当たり前みたいにキスをされる。

一度離れたあと、
何も言わずにもう一度近づいてきて、
今度は少しだけ長い。

それが“特別な動き”じゃないのが分かるから、
余計に意識してしまう。

心臓が追いつかなくて、
思わずとしの服を軽く掴んでしまう。


「…ずるい」

そう言うと、
としは小さく笑って、

「何が?」

って、何も分かってないみたいな顔をする。

「慣れてる感じするんだけど」

そう言うと、
としは一瞬だけこっちを見て、

「慣れてるよ」

その余裕がまた腹立つのに、
嫌じゃない自分がいる。

少しだけ間を空けてから、
としが何でもないように言う。

「だって、俺のだし」

冗談みたいな声なのに、
なぜか冗談に聞こえなかった。

そのまま私の手を握り、
何事もなかったみたいにまた歩き出すその横顔が、
やっぱり少しだけずるいと思った。

一瞬、言葉が出てこなかった。

「……なにそれ」

やっとそれだけ返すと、
としは少しだけ笑って、

「なにって、そのまま」

当たり前みたいに言われてしまって、
それ以上何も言えなくなる。

握られている手だけが、やけに意識に残って、
さっきよりも心臓の音がうるさい。

「ほんとそういうとこ」

小さくそう言うと、
としがふっと笑う。

「そういうとこってなに」

軽く聞き返してくるその声が、
さっきより少しだけ優しくて。

「ずるいとこ」

そう言った瞬間、
としは一瞬だけ黙ってから、

「じゃあやめる?」

って、わざとみたいに聞いてくる。

「やめないけど」

思わずそう返すと、
としは満足そうに笑って、

「だろ」

ってだけ言った。

その一言が、一番ずるかった。

少しだけ空気がゆるんで、
私は視線をそらすしかなかった。

としはそれ以上何も言わずに、
当たり前みたいに手を繋いだまま歩き続ける。

繋がれた手は、さっきよりも少しだけしっかりしていて、
離れる気配はなかった。

その温度だけが、やけに静かに残っていた。


そんな日々の中、
またみんなで集まることになった。

前と同じメンバーのはずなのに、
どこか少しだけ空気が違っている気がした。

気のせいかと思っていたけど、
ふとした瞬間に、その違和感の正体に気づく。

かずきとみさきの距離が、
前よりもずっと近い。

特別なことをしているわけじゃない。

ただ、並んでいるだけで、
その空気が、もう出来上がっているように見えた。

少し席を外したタイミングで、
みさきが隣に来た。

「ねぇ」

何気ない声に振り向くと、
少しだけ楽しそうな顔をしている。

「かずきと、付き合うことになった」

あまりにもさらっと言われて、
一瞬、言葉が追いつかなかった。

「え、ほんとに?」

思わずそう返すと、

「うん」

軽く頷いて、
みさきは少しだけ笑った。

「いつから?」

そう聞くと、

「んー、なんか気づいたら?」

その答えに、思わず笑ってしまう。

みさきと話したあと、
なんとなく、そのままとしの隣に戻る。

「ねぇ」

小さく声をかけると、
としがこっちを見る。

「みさき、かずきと付き合ったって」

そう言うと、
としは一瞬だけきょとんとして、

「あー、やっぱり?」

あっさりと、そう返した。

「気づいてたの?」

思わず聞くと、

「なんとなく」

少しだけ笑いながら、そう言う。

その反応が、
妙にしっくりきてしまう。

「てか、いつからなんだろ」

そう呟くと、

「さぁ。あいつらそういうのなさそうだし」

としは特に気にした様子もなく、
軽く肩をすくめた。

なんとなく、
こうなる気がしていた。

あの時の空気は、
やっぱり間違っていなかったんだと思う。


それでも、
ただそれを静かに受け止めるだけだった。

外に出ると、夜の空気が少し冷たくて、
さっきまでの賑やかさが遠く感じる。

それなのに、胸の奥だけはまだ、
あの時間のまま暖かかった。

みんなで並んで歩く帰り道、
特別な会話が続くわけでもないのに、
なぜかその空気は心地よかった。

かずきとみさきは、いつの間にか隣同士が当たり前みたいになっていて、
としは相変わらず、何も言わずに私の隣にいる。

誰かが何かを変えたわけじゃないのに、
勝手に形ができているみたいだった。

ふと、としが軽く手を握る。

何も言わずに、ただ自然に。

それだけなのに、さっきよりも少しだけ、
この時間が好きだと思った。





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