15歳、ただ会いたかっただけ。第十一話 戻れない夜
「もーやめてよー」
「きゃははは」
みさきと、いつものノリでふざけ合う。
「くすぐったいって!」
逃げるようにかずきの方へ寄って、
「もー、みさきに仕返ししてきてー」
軽く背中をバンバン叩く。
「みさきー、俺が叩かれただろー」
かずきがそのまま走って、みさきを追いかける。
「きゃー!」
笑い声が広がる。
「……ほんと、おまえら」
少し離れたところで、としが呆れた顔をしていた。
私はそのままニヤっと笑って、としに近づく。
「なにその顔」
そう言いながら、指先で軽くくすぐる。
「やめろって」
いつもと同じように手を払われる。
でも、そのあと少しだけ距離が近いままだった。
「……なんか近くない?」
冗談っぽく言うと、
「そっちが来たんだろ」
そう返される。
いつもと同じやり取りのはずなのに、
なぜか、そのまま離れるタイミングを見失った。
後ろでは、まだみさきとかずきの笑い声が続いている。
そのはずなのに、ここだけ少し静かに感じる。
目が合う。
先に逸らしたのは、どっちだったか分からない。
「……行くぞ」
ぽつりと、としが言う。
「え、どこ?」
「そのまま」
それだけ言って、少しだけ先を歩き出す。
一瞬、呼び止めようか迷ったけど、やめた。
振り返ると、まだ二人はふざけ合っていて、
こっちには気づいていないみたいだった。
そのまま、としの背中を追いかける。
さっきまでの笑い声が、少しずつ遠くなっていく。
川沿いを出て、しばらく並んで歩く。
さっきまでの賑やかさが嘘みたいに、静けさが戻ってくる。
気づけば、寮の前まで来ていた。
「……ここ」
としが小さく呟く。
いつもなら「じゃあね」で終わる距離なのに、今日は足が止まらなかった。
「……来る?」
短くそう言って、としが先に階段を上がる。
一瞬だけ迷ってから、そのあとを追う。
部屋に入ると、ドアが閉まった音で外の世界が切り離される。
静けさが一気に濃くなる。
振り返るより先に、としが距離を詰めてきた。
腕を引かれて、逃げ道のない近さになる。
軽くキスをする。
「……ちょっと、待ってて」
短くそれだけ残して、交代でシャワーを浴びる。
外の空気ごと、熱を流すみたいに。
戻ると、部屋にはまた静けさが落ちていた。
さっきまでと同じ空間なのに、もう同じ距離には戻れない気がした。
濡れた髪から落ちる水滴が、シーツに小さな跡を作る。
としが、また少しだけ距離を詰める。
さっきとは意味の違う近さだった。
見つめ合うだけで、体温がひとつ上がるのがわかる。
キスはもう“始まり”じゃなくて、
すでに変わってしまったあとの静かな続きになる。
そのまま、さっきより深く、自然に重なっていく。
さっきまでの空気とは違うまま、止まる理由もなく続いていた。
やがて、立っていた距離がほどけるように消えていく。
言葉も間もなく、時間の流れだけが変わっていく。
繋いだ手に、自然と力がこもった。
視界が少し滲んで、としの肩に額を預ける。
そのまま、距離を埋めるように寄り添った。
やがて動きがゆっくりになり、熱が静かにほどけていく。
その沈黙が、「もう戻れないところまで来た」ことだけを静かに残した。
止まっていた時間が、また少しずつ動き出す。
呼吸だけが、すぐそばに残る距離。
「……ちゃんとするから」
ぽつりと落ちた声。
少しの間のあと、
「幸せにする」
それだけだった。
何も返せなかった。
「……うん」
それだけで精一杯だった。
『好き』なんて言葉じゃ足りない何かが、
体の奥に残ったまま、消えずにいる。
としは何も言わず、ただそこにいた。
