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15歳、ただ会いたかっただけ。第九話 いつも通りじゃない

キス…

初めてのキスをする前は、キスって、少女漫画のようにとても素敵な体験になるのかと思っていた。

だけど、初めてのキスは、全然たいしたことないと思った。

ただ唇が重なっただけ。
それ以上でも、それ以下でもなかった。

あれ、こんなものなんだ、って思った。

緊張しているから?

とも思ったけど、あまりドキドキもしなかった。
回数を重ねてもそれは変わらない。
キスってそんなにいいもの?とも思っていた。

友達が、キスをした事を、嬉しそうに話しているのを聞いても、私にはよくわからなかった。

それなのに——

としとはじめてキスをした時は、心臓がうるさいくらいドキドキした。
ときめきとか、素敵とか思う余裕もなかったし、このまま死んじゃうんじゃないかって思った。

本気で好きな人とのキスって、こういう事なんだって思った。

何回もキスを重ねるうちに、ドキドキから、心地いいものへと変わった。

もっと、したい。
もっとこのままでいたい。

こんな風に思うなんて、思ってもみなかった。


コンビニの前でなんとなく座り込む。

いつもと同じ、何もない時間。
なのに今日は、少しだけ違っていた。

「おーい、何してんの?」

不意に名前を呼ばれて、ハッとした。
見上げると、いつも通りの3人がそこにいた。

目が合って、思わず逸らす。

……ダメだ。


「なに、変な顔してんの?」

からかう声に、慌てて笑ってごまかした。

「してないし」
「いやしてたって」

「ねぇ聞いて、今日さ——」

みさきが割り込むように話し始める。
いつもの調子に、少しだけほっとした。

「それ絶対やばいやつじゃん」
「でしょ?ほんと意味わかんないんだけど!」

笑いながら相づちを打つ。
ちゃんと話せてる。ちゃんといつも通り。


「——でさ、あいつがさ」

話は続いていくのに、うまく入れない。
タイミングが、少しずつズレていく。

「どうした?」

ふいに、低い声。

見上げると、としがこっちを見ていた。

「うぅん、別に」

慌てて目を逸らす。

「なんか変」

ぼそっと、それだけ。

ドクン、と心臓が跳ねた。

「変じゃないし」

強がって笑うけど、全然ごまかせてる気がしない。

「……ふーん」

納得してない顔のまま、としが視線を外した。

——なのに。
視線を外したはずなのに
さっきより、距離が近くなった気がした。

少しの沈黙。

「……ちょっと来いよ」

低くて、短い声。

立ち上がろうとした瞬間、腕を掴まれた。

そのまま、何も言わずに歩き出す。

「え、どこ行くの?」

みさきの声が後ろから飛んでくる。

「ちょっと」

振り返りもせず、としがそれだけ答えた。

「ふーん」

深くは聞かないまま、また笑い声が戻る。

——引かれるまま、ついていく。

少し離れただけなのに、さっきまでの空気が遠くなる。

掴まれている腕が、やけに熱い。

何も言えないまま、ただ歩いた。

「……何かあった?」

不意に、としが口を開く。

足を止める気配はないまま、前を向いたままの声。

「え?」

とっさに、そんな声しか出なかった。

「さっきから、変」

短い言葉。
それだけなのに、全部見透かされてる気がした。

「別に、なんもないよ」

できるだけいつも通りに言ったつもりだった。

無言。としは納得してない様子。

そのまま、少しだけ歩く速度がゆっくりになる。

「……嘘つくの、下手だな」

ぼそっと、独り言みたいに言った。

「……そんな顔してた?」

気づいたら、そう聞いていた。

少しだけ、声が弱くなる。

「してた」

即答だった。

「ずっと、上の空」

図星すぎて、何も言えない。

視線を落としたまま、歩く。

「……別に、なんでもない」

さっきと同じ言葉なのに、今度は少しだけ小さかった。


「……俺のせい?」

「……違うし」

うまく目が合わせられない。

「ふーん」

少しだけ間があく。

「……そっか」

小さく息を吐いて、

「なんか、変だなとは思ってた」

ぼそっと、それだけ言う。

何も返せないまま、視線を落とした。

「……別に、嫌だったわけじゃない」

気づいたら、そんな言葉が出ていた。

一瞬、空気が止まる。

「……あぁ」

小さく、息を吐く音。

次の瞬間、腕を引かれて——

抱きしめられた。

「……わかってる」

すぐ近くで、低い声。

「好きだよ」

しばらく、そのままだった。

「……戻るか」

低い声がして、ゆっくり体が離れる。

さっきまでの距離が、急に遠く感じた。

「うん」

それだけ答えて、並んで歩き出す。

さっきと同じ道のはずなのに、少しだけ違って見えた。

「おかえりー」

みさきが、にやっと笑う。

「なにその顔」

「別に?」

そう言いながら、目が合わせられなかった。

隣に立った気配に、さっきのことを思い出す。

——ダメだ。

全然、いつも通りなんかじゃない。
それだけは、はっきりしていた。

なのに、戻りたいとは思わなかった。



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