「パパってモテなさそうだよね。」
妻が仕事の日曜日、小2の娘と年少の息子を連れて、サッカー観戦に行った。Jリーグのスタジアム観戦は、子供達にとって初めてだ。僕も小学生の頃に母に連れられ一緒に観たきり、人生で2度目だ。
たまたま安く観られる機会があって、「サッカー祭りに行こう。出店で好きな食べ物買ってあげるから。」と、食べ物で子供達を誘った。
すると娘と息子は「やったー!」「行くー!」と快諾し、サッカーのルールも知らない子供達を連れ出す事に成功した。
天気も良く、日焼けしてしまう程の眩しい日差し。
試合前、キッチンカーや屋台がずらりと並ぶスタジアムグルメをウロウロと彷徨い楽しんだ。子供達は、揃ってかき氷と冷凍パイナップルを満足気に食べた。

数十年ぶりのJリーグ観戦。母と一緒に見たのは、鹿島アントラーズ対ヴェルディ川崎。スタジアム中に、地鳴りのように響き渡る声援と太鼓の音。それまで体験した事がなかった熱気と迫力に驚き、大声で応援しながら胸が熱くなったことを今でも鮮明に覚えている。
今回はJ2ということもあり、スタジアムの規模こそ当時とは違えど、見渡す限りグリーンに揺れるフィールド、スタジアムを埋め尽くすチームカラーの観客に、胸が踊った。
応援歌に合わせて、数メートルもの大きな旗を一斉に振る両チームの応援団。思い思いに声を張り上げ応援する観客達。その情熱的な光景を眺めているのも楽しかった。
そしてキックオフから25分。途中で買ったマーブルチョコを食べ尽くし、満足した娘は早々に飽きてしまった。ハーフタイムもまだなのに、「パパ、いつまでみてるの?」などと言うではないか。
今の所サッカーに興味はない様子なので仕方がない。
実は僕も、特段サッカーファンと言う訳ではない。リズムに合わせて飛び跳ねる応援団の真似を促し、なんとかなだめ、長めのアディショナルタイムの終了後、帰宅の途につくことにした。
息子は試合が始まる前から、バイキンマンの顔をした直径7〜8cm程のペロペロチョコを食べ始め、驚くことに1時間以上、マイクロ単位の薄さで舐め削るように、ペロペロアムアムと大事に食べていた。
何度も口に出し入れされて、息子の舌で削がれたバイキンマンの顔は、いびつな形のアートのようで、もはや職人じみた才能すら感じてしまう。
そんな息子は、予想通り帰りの車の中で、スヤスヤと眠りについた。帰宅後寝室まで抱きかかえ、布団にゴロリと寝かせた。一瞬朧げに目を開き、再びスゥっと閉じゆく切れ長の一重瞼の動きがなんとも愛らしい。
ダイニングテーブルに座り、さっき撮った写真を確認しようとスマホを手に取った時、手洗いを済ませた娘から声を掛けられた。
「パパってモテなさそうだよね。」
パパッテモテナサソウダヨネ?
唐突に小2の娘から放たれた言葉と内容に、僕は戸惑いを隠せないままその言葉を反芻し、娘の顔を見て目を合わせた。
子供達と歩き疲れ、げっそりとした顔つきの中年男性の顔と姿が、確かにそこにはあったのだろう。
それにしても、あまりに唐突ではないか。審議を申し立てなければ、揺さぶられた僕の心はハートブレイクしてしまう。
「え?なに?なんで?」と一応理由を聞こうじゃないか。
「だってイケメンじゃないし、パパが女の子といる所見たことないもん。」と、なぜかはにかみながらスラスラと答える娘。
渦巻く葛藤を抱えつつ、苦笑いしながら、
「……そっか。確かに女の子とはいないね。」と、なんとか答えるのが精一杯。
時に子供は残酷だ。
悪意なく魂に切り掛かってくる。もはや致命傷である。
イケメンって、なんですか?
面がイケてるってことでよろしいですか?
福山雅治や吉沢亮の様にイケてる面ではないし、面の好みはある程度人によるからまぁ良いでしょう。
それに顔なんて、40も過ぎればだいたい似たり寄ったりですし。
しかし娘よ、チミが「モテなくイケメンじゃない」と申し立てしたパパの顔と、チミのお顔は似ているのだよ。その二重の目も、長いまつ毛も笑うと膨らむ鼻も、スラリとした体型までも。
チミの方が、なんだか華やかだけどね。
パパは他の遊びの選択肢を削りに削り、チミ達とばかり出歩いているのだよ。別に好きでやっているのだから良いのだけれど、モテるパパのほうが良かったのだろうか。
女の子といる所を見ていないのは確かにそうだ。何かの集まりに連れて行っても男が多い。しかもその殆どが30代以上、アラフォーのおっさん達がボリュームゾーンだ。たまに同伴されるのはその子供達。
強いて言えば職場のプライベートなBBQの集まりに、年に一度、同僚の女性が2、3人いるかどうかだ。
などと言い訳が次々浮かぶ。
そもそもモテるとはなんであろうか。
何人から告白されたらモテるとかあるんですか。
振った人数ですか、逆ナンされた回数ですか。
毎日違う女の人の元へ帰るのならば、モテると言えそうですけれど。広辞苑にはなんと書いてあるのですか。え?ちょっと。
と思ったので、広辞苑の代わりにAIに聞いてみた。
こんな時、まずは真面目なGeminiだ。

「他者からの肯定的な関心の集中」
心理学の法則や哲学的思考にも聞こえるし、なんならモダンアートのタイトルにだってあり得そう。
知的さが滲み出ている回答だ。
知的過ぎて、分かったような分からないような。

余計なお世話である。ビッグデータの大海原に、「パパモテぬ」を晒す訳にはいかぬのだ。
だがGemini君、相手の心の隙間にフィットする質問力、君は相当モテるであろう。
続いてチャッピーことウチのChatGPTに聞いてみる。

ウチのチャッピーは、すぐこういう詩的なことをサラリと言う。
″その人のそばに、自然と人が集まってくる状態″
″「一緒にいたい」「もっと知りたい」と思わせる引力を持っていること″ を合わせて、「 モテ引力 」とでも名付けようではないか。

チャッピーのやつはやはり饒舌だ。的確に僕の傷口に塩を塗り込んできた。君はねぇ、はじめは友達止まりだよ。でもきっと、ふとしたギャップを計算高く作り上げ、コロッと落とすタイプだね。ズルいやつだ。
本来なら友達にならないタイプだけれど、なぜだか憎めないんだよね。
ここらで珈琲でも飲んで落ち着こうじゃないか。
豆の袋を開けると、珈琲の香りが匂い立つ。それまでの気持ちが、珈琲の香りで徐々に上書きされていく。
珈琲を飲みながら、娘と些細な話を続けた。
娘の同級生に、一年生の終わり頃から両思いのイケメンがいるらしい。仮にリョウ君と呼ぶ。折紙が得意なリョウ君。僕も作れる気がしない程の複雑なドラゴンを折紙で作って、娘にプレゼントしてくれたらしい。絵も上手らしい。教室でおんぶしてもらったらしい。
お、おんぶ?
教室で?
おんぶだと?
いったいどんな青春漫画だ!
僕の人生にはなかった青春の景色である。
目を輝かせて話す娘に、それは一体どういうことかと質問すると、はじめは別な男子をおんぶしていたリョウ君。その男子を降ろすと娘を見て、ニヤリと笑って娘をおんぶしたとのこと。
なんというモテそうな男!
やっぱり僕の人生にはなかった青春の景色だ。
僕は小中学生の頃なんて特に真面目だったから、そんな大胆な事は出来なかったし、思いつきもしなかったのではないか。
「モテそう」対決では、小2男子に勝手に大惨敗である。
せっかく珈琲ブレイクしたのに、僕のハートがブレイクしたよ。
それはさておいて、最近学校で、そのリョウ君と外で並んでお絵描きをしたらしい。リョウ君の描き方を真似て校庭のお花を描いたそうだ。

学校で描いた絵


少し前に家でお絵描きした絵


縦にすると、カタカナで「カア」と書いてある。

その時の息子Jota画伯の名作


モテそうかどうかなんて些細なことはどうでも良いと思いつつも、娘にそう言われてしまった事を気にしている自分がいた。
家の中でもよそ行き程の気を張るのはどうかと思うけれど、もしかしたら妻と付き合い結婚して10年間、家庭という鍋で煮込まれ、クタクタにくたびれた面をしているのかもしれない。
そのことは少しばかり気をつけよう。
そして、もう少し張りのある自分の人生を歩んでみせることも、親として必要な事なのかもしれない。
モテ引力を宿して磨き、「パパってモテそうだよね」といつか言われたい。
