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懸命に生きている人へ

『神さまのビオトープ』
歪んだ人物を描かせたら右に出る人はいない――そう思わせてくれるのが凪良ゆうさんの作品です。どうしようもないほど救いようがない状況の中にあっても、なぜか希望の光を感じさせてくれる。その不思議な感覚が、私はとても好きです。『神さまのビオトープ』もまさにそんな一冊でした。


神さまのビオトープ
凪良 ゆう (著)

夫の幽霊と暮らすうる波を取り巻く、秘密を抱えた彼ら。 世界が決めた「正しさ」から置き去りにされた人々へおくる救済の物語。
密やかな愛情がこぼれ落ちる瞬間をとらえた四編の救済の物語。

神さまのビオトープ
凪良 ゆう (著)
Amazonより

✻あらすじ✻

① 神さまのビオトープ

夫はもう死んだのに、私はまだ彼と暮らしている。台所で湯気を立てる鍋の匂いも、寝室の布団の重みも、そこに彼がいると感じれば、たとえ幽霊だとしても十分だった。
けれども世間は「前に進め」と私に迫る。再婚や仕事、子供や家族のかたち。正しさから外れた私は間違っているのだろうか。――それでも、私の小さな世界の中で彼と息をする、このひとときこそが、私にとっての救いだった。

② 海の底で君を待つ

あの日、誰にも言えない秘密を抱えたまま、私は水面に沈んだ。呼吸が苦しくなるほどの孤独と後悔を抱えて。
でも、深いところで君と出会った。声は届かないのに、目だけが語りかける。君の存在に触れた瞬間、私はまだ生きていていいのだと知った。世間が許さなくても、君が「ここにいていい」と思わせてくれたから。

③ ほころびの部屋

私は「普通」に生きているふりをしてきた。仕事も結婚も、形だけは整えて。でも心の奥には、誰にも見せられない裂け目があった。
その裂け目を、ある日あなたは見つけてしまった。嫌われると思ったのに、あなたはただ黙って、ほころびの向こうに腰を下ろした。――人は不完全なまま寄り添っていいのだと、初めて思えた。

④ 光の舟

家族からも、社会からも、私は見えない存在にされていた。何をしても正しくない、何をしても浮いてしまう。
そんな私をあなたが舟に乗せてくれた。揺れる光の上を渡るように、私たちは小さな時間を分かち合う。たとえ明日、舟が消えてしまっても、この夜だけは私のものだ。救いは未来ではなく、今ここにあると知ったのだから。

◆感想◆

本を閉じたあと、しばらく動けなかった。
凪良ゆうさんの物語は、いつも“痛み”を抱えているのに、なぜこんなに優しいのだろう。今回もそうだった。

表題作「神さまのビオトープ」では、亡くなった夫の幽霊と暮らす女性の視点で物語が進む。読んでいて、「前に進め」と迫る世間の声が、まるで自分に重なった。正しさから外れてもいいじゃないか――そう背中を撫でてくれるようで、涙が出た。

他の三編も、それぞれに“生きづらさ”を抱えた人たちが登場する。
沈んでいく心の奥で出会う相手、ほころびを受け止めてくれる存在、光の舟に乗せてくれる人。みんな「救い」という言葉だけでは片付けられない、ささやかな温もりを差し出してくれる。

私は読みながら、自分の中にある“正しさからはみ出した部分”に触れてしまった。普段は隠している弱さや孤独が、物語を通して静かにほどけていく。
気づけば、「私はこのままでいい」と小さく呟いていた。

読後感は決して明るくはないのに、なぜか光を見ているような温もりが残る。
それはきっと、凪良ゆうさんが描く人々が「正しい人」ではなく「懸命に生きている人」だから。

この本は、誰かに“救いの言葉”を探している人にこそ読んでほしい。
きっとページをめくるたびに、「ここにいていいんだよ」と言ってもらえるから。

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