📙レモンと殺人鬼 -酸っぱさの奥に残る、ほんのわずかな甘さ。🍋🔪
💬真実は、いつも綺麗な形では現れない。
それでも人は、誰かを信じたいと思ってしまう。
『レモンと殺人鬼』
私は、妹のことを知っているつもりだった。
十年前に父を失って、母もいなくなって、それでも妃奈は、どこか明るく笑う子だった。だから、あの子が人を騙していたとか、保険金のために誰かを殺したかもしれないとか、そんな話を聞かされても、どうしても信じることができなかった。
人は簡単に言う。「証拠がある」「事実は変わらない」と。でも、その“事実”の中に、あの子がどんな顔で笑っていたかなんて、誰も入れてくれない。
もしかしたら、私が見ていた妃奈も、本当の妃奈じゃなかったのかもしれない。それでもいいと思ってしまう。たとえ真実がどんな形でも、私にとっての妹は、あの頃と同じままだから。
レモンみたいに、この世界は少し酸っぱい。でも、ほんの少しだけ甘さが残っている。私はその味を、まだ信じていたい。
レモンと殺人鬼
くわがきゆあ(著)
・著者:くわがきあゆ
・出版社:宝島社
・発行年:2023年
・ジャンル:ミステリー/サスペンス
十年前、洋食屋を営んでいた父親が通り魔に殺されて以来、母親も失踪、それぞれ別の親戚に引き取られ、不遇をかこつ日々を送っていた小林姉妹。
しかし、妹の妃奈が遺体で発見されたことから、運命の輪は再び回りだす。
被害者であるはずの妃奈に、生前保険金殺人を行なっていたのではないかという疑惑がかけられるなか、
妹の潔白を信じる姉の美桜は、その疑いを晴らすべく行動を開始する。
くわがきゆあ(著)
Amazonより
概要
物語の中心にいるのは、小林姉妹。
十年前、父親が通り魔事件で命を奪われ、母は失踪。姉妹は別々の親戚に引き取られ、ばらばらの人生を歩むことになる。
やがて妹・妃奈が遺体で発見される。
しかしその死は、単なる事件では終わらなかった。
妃奈には、生前に「保険金殺人をしていたのではないか」という疑惑がかけられる。
被害者であるはずの妹が、加害者だったのかもしれない。
姉・美桜は、その疑いを否定するため、真相を探り始める。
この物語が静かに投げかけている問いは、
**「人はどこまで、誰かを信じ続けることができるのか」**なのかもしれない。
テーマについて
この作品の表面は、もちろんミステリーだ。
妹の死の真相を追う物語として、緊張感を保ちながら進んでいく。
しかし読み進めていくと、
中心にあるのは「事件」ではなく信頼の問題だと感じた。
信じたい気持ちと、疑わざるを得ない現実。
愛情と不信。
記憶と真実。
被害者と加害者。
それらの境界が、少しずつ曖昧になっていく。
これは「犯人探しの物語」のようでいて、
実は「人間の見方はどこまで歪みうるのか」という物語なのかもしれない。
タイトルの“レモン”も象徴的だ。
酸っぱさと清涼感を持つ果実。
そのイメージは、
この物語に漂う苦味と、わずかな透明感を思わせる。
② 登場人物について考える
主人公の美桜は、決して完璧な人物ではない。
むしろ、妹を信じたいという気持ちが強すぎるあまり、
現実を見誤る危うさも抱えている。
それでも読者は、彼女を否定できない。
なぜなら、
大切な人が疑われたとき、
私たちも同じように振る舞うかもしれないからだ。
この作品の人物たちは、
善人と悪人に綺麗に分かれているわけではない。
それぞれが事情を抱え、
それぞれの正義で動いている。
だからこそ物語は単純な勧善懲悪にならず、
読後に複雑な感情が残る。
演出について
物語は、過去の出来事と現在の捜索が交差する形で進んでいく。
この構造は、単に情報を小出しにするためではなく、
記憶と真実のズレを強調する役割を果たしている。
人の記憶は、必ずしも正確ではない。
そして、感情によっていくらでも変形してしまう。
姉が知っている妹。
周囲が見ていた妹。
その間にあるズレが、
物語の不穏さを生み出している。
この演出が、
「人を知るとはどういうことか」というテーマと、
静かに結びついているように感じた。
印象に残ったところ
① 妹への疑惑という構図
被害者が疑われるという設定は、読者の感情を揺さぶる。守りたい存在が疑われるほど、人は冷静さを失ってしまう。その構図が、物語に強い緊張を生んでいた。
② 家族という曖昧な関係
血のつながりがあっても、人は必ずしも相手を理解しているわけではない。この作品は、その残酷な事実を静かに描いている。近い関係だからこそ見えなくなるものがあるのだと思わされた。
③ タイトルの余韻
「レモン」という言葉が、読み終えたあとで不思議な意味を持ち始める。爽やかなはずの果実が、どこか苦い後味を残す。その感覚が、作品全体のトーンと重なっている。
🤔感想
この物語を読み終えたとき、
私は「真実」よりも「信じること」について考えていた。
人は、誰かを信じたいとき、
無意識に都合のいい解釈を選んでしまう。
それは弱さなのかもしれない。
けれど同時に、人間らしさでもある。
主人公の美桜は、妹を信じ続けようとする。
その姿はときに危うく、
見ていて苦しくなる場面もある。
それでも私は、
彼女を責めることができなかった。
もし自分の大切な人が疑われたら、
きっと同じことをしてしまう気がするからだ。
この作品はミステリーとしての面白さを持ちながら、
人の記憶や信頼の曖昧さを丁寧に描いている。
そして読者に問いを残す。
私たちは、
誰かのことを本当に理解しているのだろうか。
それとも、
理解していると思い込みたいだけなのだろうか。
読み終えたあと、
その問いだけが静かに残った。
🎯まとめ・おすすめ
✔️ こんな人におすすめ
・人間ドラマの強いミステリーが好きな人
・心理サスペンスをじっくり読みたい人
・読後に考えさせられる物語を求めている人
📌 一言で表すなら
「信頼のミステリー」
📚 比較できる作品やジャンル
心理サスペンス/家族ミステリー
🧠 深読みの視点
・記憶の信頼性という観点
・家族という関係の幻想
・「被害者と加害者」の境界
🌙余韻
夜の台所で、
レモンを切ると、静かな香りが広がる。
その爽やかな匂いの奥に、
少しだけ苦味が混ざっている。
人の記憶や、
誰かを信じる気持ちも、
きっとそれとよく似ている。
あなたは、
大切な人のことを、どこまで知っているだろうか。
次の感想本
ジュミ・ソンさんの『自分にあるものだけを見る』
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自己紹介
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