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実在の人間であることのすごみ

SNSで誹謗中傷されたとき、まず私を知ってもらおうとしてnoteをはじめました。「町会役員の妻」として。

誹謗中傷をした人も、スキ、いいねをして拡散した人は「実生活では普通に心根の優しい人なのかもしれない」ただ深く考えず、調べずそれだけを信じその記事に同意しスキをする。「安全圏のスナイパー」だ。

「SNSの手荒な説明書として受け取ってほしい。情報を公開することの重みをきちんと伝えたいと思った」「実在の人間であることの『すごみ』を意識すれば、誹謗中傷なんかしないのでは」

朝日新聞6月11日 夕刊  塩田武士

踊りつかれて 塩田武士

言葉が異次元の暴力になるこの時代。不倫を報じられ、SNSで苛烈な誹謗中傷を受けた人気お笑い芸人・天童ショージは自ら死を選んだ。一方、バブル期の華やかなりし芸能界を駆け抜けた伝説の歌姫・奥田美月は写真週刊誌のデタラメに踊らされ、人前から姿を消した。彼らが目にした絶望、それはーー。

文芸春秋

序章が強烈で、誹謗中傷した「匿名性で武装した卑怯者」83人の氏名、年齢、住所、会社、学校、判明した個人情報の全てを公開する、という「宣戦布告」だ。

この序章の強い言葉と、それを書いた瀬尾という音楽プロデューサー本人の落差に驚く。瀬尾は論理的で深い洞察力があり、書き込みとは別人のよう。瀬尾は、名誉棄損で逮捕され彼についた弁護士が、自殺した天童の同級生である久代奏くしろかなでで、彼女が事件関係者と話しをし聞き取り調査を進めていく過程で、それぞれが「生身の人間」で彼らの生きざまがあり、事情がある。

読んでいて登場人物たちへに感じ方がこんなに変化する物語も珍しい。序章と終章では物語が全然違うみたい。誹謗中傷というより、ひとりひとりのを人間を丁寧に描いていて壮大なヒューマンドラマだ。

男女を超え、人として深く結びつくことの尊さ。人生の中で心から認め合う人がいることの喜び。(中略)世の中には、頭で理解できることは数多くある。しかし、理解は角を落として丸くしない限り、心へは転がっていかない。その心にいき行きついた考えや感情の向こうに、人間の真理があるのかもしれない。

わたしがnoteでこだわっているのは「人」。文章や写真、絵から見える「人」。コメント、スキから見える「人」。虚像でなく実在。虚像だから「安全圏のスナイパー」で誹謗中傷ができる。お互い名のり合って目の前ではそれができない。

それぞれの「人」が抱えているものは凄まじく、今、生きていること、生きていくことを考えさせられた。

生きてこそー。

名誉棄損罪で逮捕された瀬尾がピアノで弾き、伝説の歌姫・奥田美月が歌ったバーブラ・ストライサンドの『The Way We Were』

映画『追憶』のテーマで、ロバート・レットフォードが格好良かった。彼もいなくなってしまいました。

2025年上半期第173回 芥川賞・直木賞は該当作なしという結果でしたが、その直木賞候補作です。該当作なしだからこそ候補作の重みがあります。