まもなくさよなら、とうもろこし
髭付きのとうもろこしを見ると、となりのトトロのメイちゃんを思い出してしまう。
お母さんのために必死に抱えて走る姿。
何度金曜ロードショーで観ていても、子どもの純粋無垢な気持ちに心打たれる。
私にも、そんな純粋無垢に母へ何かを渡そうなどという時はあっただろうか。
私の母は物欲がない人だ。
それは欲しいものがないというよりも、慎ましやかに生きたいという心の表れだと思う。母の日に何かねだってくるということもなかった。
だから、私は何かをわざわざお土産で買ってくるということをしなくなった。もちろん、買って帰ればありがとうと言われるが、慎ましやかな母に「何か買ってくるね!」と言っても、「私はいいから自分の好きなものに使ってきなよ。」と言うだけだった。
修学旅行の時、お土産を要らないと言われて、「なんだかつまらないな。」と思ったこともあった。私はただ純粋に喜んで欲しかったから。
でも、今になったら分かる。
大人になって、自分で手に入るものが多くなった瞬間に、お金で買えるものにはそこまで価値がないのだということを。
それよりも、その時の経験に最大限にお金を使って欲しいという願いだったのだ。母の頑なポリシーによって、私はきっといつでも買えるあぶらとり紙を母のお土産にせずに済んだのだった。
夏のとある日。スマホにメッセージが届いた。
「今日、夕方お時間はありますか?渡したいものがあって。」
知人からの連絡だった。唐突な連絡に、何を渡されるのかも想像がつかない。ただ、この急な会いたいのラブコールには二つ返事でお返しした。
「もちろん、会えますよ!」
その日は夕方から急激な豪雨の予報だった。私が誘ったわけではないのに気が重い。なぜなら、私はかなりの雨女だからだ。楽しみにすればするほど局地的に雨が降る。今日は警報級だと。どうしたものか。せめてもの罪滅ぼしに、待ち合わせは駅近くにしようと決めた。
彼女は仕事帰りの疲れている中、笑顔で私の最寄り駅まで来てくれた。雨は幸いなことにまだ降っていない。急いで目星をつけているお店へ向かう。
そのお店は、まだ行ったことのない小さなこだわりのあるお店だった。
コーヒー、焼き菓子がメインだけれど、クラフトビールも取り揃えている。
私はちょっと一杯にちょうどいいかなとその店を提案した。
店内はこぢんまりとしている。
冷蔵庫に並ぶ、きれいなデザインの奈良県のクラフトビールを頼んだ。
「ロング缶しかないので、お二人でシェアしてもいいですよ?」
と優しく微笑むオーナーさん。
その言葉を聞いても「あ、私1缶飲めますよ!」と言い切る、彼女。
いい。すごくいい。
私もすかさず「私も1缶いただきます。」とお互いに気になるものを1缶ずつ頼んだ。
さて、酔いが回る前にと、彼女が”渡したかったもの”を私に差し出してくれた。
リュックの中から出てきた、白いビニール袋。
「お裾分けです!」
袋を覗くと、黄色くつやつやな髭付きのとうもろこしが1本入っていた。
「知人に送っていただいたんですけど、ひとりでは多いのでよかったら食べていただきたくて。」
メイちゃんはここにいたと思った。
黄色い、つやつやなとうもろこしを必死に抱えて、彼女はこの豪雨予報の中やってきてくれたのだ。
これってお金で買えないやつだ…。
とても嬉しかった。とうもろこしが好きなのもあるけれど、自分がいただいたものをお裾分けしてくれる気持ち、わざわざ届けてくれる姿に感動した。
無事に任務完了となり安堵した彼女と、皮付きの甘めのジャガイモに荒めの塩をまぶした、とてもおしゃれなフライドポテトをつまみにビールを飲みながら、とても幸せな時間を過ごした。
帰り道は、思った通りの豪雨。傘なんて意味のない滝のような雨。駅までお見送りをし、私は帰ってからいただいたとうもろこしをまじまじと眺めた。
この嬉しい気持ちを、どうにか残しておきたい。
とうもろこしは食べると消えて無くなってしまう。
こんなにも愛しい思い出なのに、すぐにさよならしなきゃいけない寂しさが切なかった。だから、私は急いで絵を描いた。
メイちゃんの気持ちを忘れないように。
この日のとうもろこしを忘れないように。
サムネイルのイラストがメイちゃんにいただいたとうもろこしです。
私自身はメイちゃんになったことはなかったけれど、メイちゃんになってくれる人はいました。それが嬉しくてイラストとエッセイに残してみました。
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