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チャッピーが来た夏

チャッピーは、おじいちゃんがある日突然、連れてきた犬だった。

私は転勤族の家庭で育ったので、おじいちゃんの家の近くには住んでいなかった。というか、長崎と札幌という、それなりに距離のある場所にいたので、会えるのは年に二度、夏と冬の長期休みだけだった。

今の私は大人になって、姪っ子ができた。彼女に会うのがとても楽しみだ。だからこそ、おじいちゃんにとっての私たち孫も、こんなふうに楽しみな存在だったのかな、と思う。年に二度しか会えなかったなんて、あの人なりにずいぶん我慢してくれてたんだなあ、と、今ならよく分かる。

だからこそ、おじいちゃんは、年に二度の再会を、全力でおもてなししてくれた。

正直、いらないって思ってたけど、知り合いの洋服屋さんに連れていかれて服を買ってくれたし、そんなに好きじゃなかったけど、自分の好きな干し柿をくれた。
夏は川にも連れて行ってくれた。水が冷たくて唇が紫になってるのに、「まだ入って遊べ」と言ってくる。ブルブル震えながら、子ども心に「おじいちゃん、全然わかってないな…」と思ったものだった。

そんなおじいちゃんは、突拍子のないことをしでかすのがチャームポイントでもあり、迷惑ポイントでもあった。いつも破天荒な行動で、母やおばあちゃんに全力でツッコまれていた。

ある夏、小学生だった私と妹は、いつものように帰省した。空港から車でおじいちゃんの家へ。道中、並びが変わったお店や、新しくできたショッピングセンターを、おじいちゃんは自慢げに解説する。まるでバスガイドのような語り口に、母は「●●さんは元気?」と相槌を打ち、私たちはというと、「何して遊ぼうかな?」と前回来た時の思い出をたどりながら、やりたいことリストを頭の中で作っていた。

もうすぐ到着、という頃だった。

見慣れたはずの家の脇に、見慣れないスペースがあった。動物園の檻のような囲い。入口がついていて、手作り感満載なそれは、おじいちゃん製作の何かだとすぐ分かった(彼は大工さんなのだ)。

「え、なにあれ? 駐車場に何したの?」
母が怪しげな空間に食いつく。

「内緒たい。」

いやいや、もうだいたい察するけどね、と母は思っただろう。でも、この破天荒じじいのやることは予測不能。一旦黙っておくことにしたようだった。

家に入るとすぐ、母のチェックが始まる。

「も〜、なにこれ? 買ったの?」
「ちょっと、これは何?」

おじいちゃんは新しいものが大好きで、すぐ何かを買ってしまう。でも大して使いこなせず、家電も便利グッズも、ただの置物になっていく。そしてまた、じじいコレクションがたくさん増えていた。

私と妹は、そんなことお構いなしに、おもちゃの山へダイブ。リカちゃん人形やお絵かきセットを広げて夢中になる。

母は、長旅でくたびれているのに、家の中が気になって仕方ないらしく、せかせか片づけを始めている。私たちは、リカちゃんの取り合いで忙しい。

そんな中、おじいちゃんが突然言った。

「ちょっと出かけてくっけん。」

いつものことだった。誰も特に気に留めなかった。

しばらくして、玄関のドアが開いた。

「ただいま〜」

おじいちゃんの声。意外と早かったな、と思ったそのとき。

チャカチャカ……と何かの音。何かがぶつかる音?

……え、何? 今度は何?

そう思った矢先、リビングの引き戸が開いた。

犬と、じじい。


そこには、犬とおじいちゃんが立っていた。

ふっくらした毛並みに、くりくりの瞳。はふはふと息をし、小ぶりな体。すぐに子犬だと分かった。

「えっ、その犬どうしたの!?」

母が叫ぶ。

じじい、満面の笑みで答える。

「もらったばい。」

……は???


いやいやいや、貰うってさ。モノじゃないんだから。生き物なんだから。飼えるの?

いま大人の私なら、そう思う。でもあの頃の私は小学生。

可愛い子犬が来た。

ただそれだけで、妹と一緒に大喜びで子犬に駆け寄った。

その子犬は、シェットランド・シープドッグの女の子。元気いっぱいだった。

すぐに「名前どうする!?」と、スケッチブックを取り出して、妹と一緒にああでもない、こうでもないと書き出した。

その間、母はおじいちゃんに詰め寄っていた。

「散歩は? ちゃんとできるの?」
「世話は? 自分のこともちゃんとできてないのに?」

矢継ぎ早に繰り出される問診に対し、おじいちゃんは「大丈夫ったい」と一点張り。その能天気さがまた母の怒りに火をつける。

そう、じじいは孫の気を引くために、犬を連れてくるという暴挙に出たのだ。

作戦は大成功だった。孫たちは大喜び。おじいちゃんの株は爆上がり。感謝の言葉をかけられて、じじいはにっこにこ。

手放しで喜べる話ではないけれど、これが私とチャッピーの出会いだった。

名前は、毛の色の「茶」と、語感で「ハッピー」を合わせて「チャッピー」。
思いつきのようで、妹と真剣に考えて決めた名前だった。とても気に入っていた。

この夏休みは、チャッピーと一緒の夏。毎日が、楽しくてたまらなかった。

次の帰省が、今までよりずっと楽しみになったのは、言うまでもない。
だって、チャッピーがいるから。

※ちなみに、じじいは最期まで、きちんとチャッピーの世話をしましたので、ご安心を。

余談ですが、チャッピーは血統書付きのブリーダー出身だったそうで、その価値がまったく分かっていないじじいの手によって、一般家庭に迎えられることになった子でした。笑
もしかしたら、財閥みたいなおうちに貰われていたかもしれないと思うと、ちょっと不憫。でも、あの破天荒なじじいのコミュ力、私はなんだかんだ憎めなくて、けっこう好きなんです。

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