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廃棄が怖くて仕入れを絞ったら、売上も一緒に縮んでいった話。機会損失と縮小均衡について。


当社では、南小国町総合物産館「きよらカァサ」の運営を行なっております。

その活動を通じて、小売の現場で失敗を重ねながら学んできたことを書きます。

今回のテーマは「機会損失」と「縮小均衡」です。

難しそうな言葉ですが、要するにこういうことです。

「売れ残りが怖くて仕入れを減らしたら、売れるものも売れなくなって、じわじわと店全体が小さくなっていく」

物産館に限らず、地方の小さな小売店が陥りやすい罠で、しかも「ゆでがえる」のように気づいた時には手遅れになりがちです。私自身も長い間この罠にはまりかけていました。

「廃棄ロス」を悪者にしすぎると、もっと大きな損をする。

小売業をやっていると、廃棄ロスは目に見えてわかる「悪者」です。売れ残った野菜、売り切れなかった弁当。廃棄すれば仕入れコストがまるまる損になります。

数字として残るので、責任者は必ず怒られます。

だから人は、廃棄を減らすために自然と「仕入れを絞る」という行動を取ります。今日売れた量だけ明日も仕入れる。売れ残りそうな日は少なめにする。一見合理的に見えます。

しかしこれが、「縮小均衡」の入口です。

縮小均衡の発注

販売実績そのものを発注のベースにするような発注は、じわじわと売上を下げてしまいます。廃棄という販管費を抑えられたとしても、小売業としては顧客の支持を失い衰退していきます。

なぜそうなるのか。

陳列量が少なくなると、棚が「売れ残り感」のある見た目になります。お客様はその棚の前で「あれ、今日は少ないな」「もう残りものしかないのかな」と感じる。そして「また今度にしよう」と帰っていく。

店頭に陳列している量が多いほど、お客様の目に留まりやすく、注目度が高まって売れるようになるのですが、少ないとお客様に見過ごされ、本来売れたはずのものも売れなくなってしまいます。発注量を抑えると、廃棄ロスと機会ロスの両方が増えるという二重のロスが発生します。

「廃棄を減らした」のに「機会損失が増えた」という、まったく逆の結果になるのです。

機会損失は「見えない損」だから、気づきにくい。
廃棄ロスは数字として帳票に残ります。経営者も、スタッフも、見ようと思えば見える。

しかし機会損失は数字に現れません。

「買いたかったけど売り切れていたお客さん」「棚が寂しくて素通りしていったお客さん」の数は、どこにも記録されません。

これが機会損失の本当の怖さです。

機会ロスは現在の売上を逸するだけでなく、将来の売上まで逸するところにその怖さがあります。

今日来て「ないな」と帰ったお客さんは、次回また来てくれるかもしれません。

しかし2回、3回と「ない」を繰り返されたお客さんは「あの店はいつも品揃えが悪い」という印象を持ちます。そして来なくなります。これが「将来の売上を逸する」という意味です。

きよらカァサでも、以前は「廃棄が出たらダメ」という空気が現場にありました。当然スタッフは仕入れを絞ります。廃棄は減ります。

でも売上も一緒に下がっていく。経営者から見ると「廃棄が減ったのに売上も下がった。なぜだ」という不思議な状況になる。

実はこれ、全然不思議じゃありません。
廃棄を減らした結果として、機会損失が増えていたというだけの話です。

「売れ残り」が出るのは、挑戦している証拠でもある。

これは当時の私にとって、かなり意識を変えなければならない考え方でした。

廃棄ゼロを目指すこと自体が間違いではありません。
食品ロスの問題は深刻です。

しかし、廃棄をゼロにしようとすることが目的になってしまうと、必然的に「絶対に売り切れる量しか仕入れない」という行動につながります。

ロスは利益を圧迫する要素には違いありませんが、ゼロにすることは不可能です。ゼロということはチャンスロスが出ているということを意味します。

つまり、適度な廃棄ロスは「お客さんの需要に応えようとした痕跡」でもある。攻めた仕入れをしたからこそ、一部が売れ残る。守りに入った仕入れをすれば廃棄は出ないが、機会損失という形で売上が消えていく。

大切なのは「廃棄ゼロ」ではなく、「廃棄と機会損失のバランスを取りながら、売上総額と利益を最大化すること」です。

縮小均衡が「怖い」のは、ゆっくりと進むから。

縮小均衡のもう一つの怖さは、そのスピードにあります。

廃棄を絞って機会損失が増えると、売上は下がります。売上が下がると「もっと仕入れを絞ろう」という判断が生まれます。さらに機会損失が増え、売上はさらに下がる。また仕入れを絞る……。

この螺旋を下り続けても、経営者からは「廃棄が少ないから問題ない」と見えてしまいます。数字に残らない損失を見ていないから。
そしていつの間にか、棚は寂しくなり、お客さんは来なくなり、仕入れ先は「ここは注文が少ない」と優先度を下げ、良い商品が回ってこなくなる。結果として、店全体が小さくなっていく。

「気づいたら小さくなっていた」というのが、縮小均衡の典型的な末路です。

きよらカァサの2025年度の過去最高売上は、この縮小均衡の罠に気づいて、意識的に「攻めの仕入れ」に切り替えたことが大きな要因のひとつです。
廃棄を恐れずに、「売れると信じて仕入れる」「売り切る努力をする」という文化を作りました。当然最初は廃棄も増えました。

でも売上はもっと増えた。

物産館が陥りやすい、もう一つの縮小均衡。

物産館や道の駅には、仕入れだけでなく「品揃えの縮小均衡」という問題もあります。

売れない商品の棚を整理して、売れ筋だけを置く。
一見合理的です。しかし問題は、「何のために来るか」という来店動機が消えていくことです。

死に筋商品と定番品の見極めも重要です。単に販売実績だけで判断して売り場から撤去すると、本来揃えておくべき代替の利かない商品が売り場から消えてしまいます。顧客にとっては、そこに店舗が無いことと同じで、品揃えのある店舗へ足を運ぶことになります。

これは観光地の物産館に特有の問題でもあります。

観光客は「何があるかわからないから、とりあえず見てみよう」という期待感を持って来ます。

しかし品揃えが絞られていると、「いつも同じものしかない」という印象になる。すると「あの店はもう行かなくていい」という判断になる。

売れ筋だけを残した結果として、「来てみたいと思わせる売り場」ではなくなってしまう。これも縮小均衡の一形態です。

きよらカァサが「ただのお土産屋」から「地域のスーパー」としての機能を磨くことに力を入れた理由の一つは、ここにあります。

観光客にとっての「発見と驚きのある売り場」と、地元住民にとっての「日常使いできる品揃え」を両立させることで、どちらの客層も来店動機を持てる店にしたかった。

では、どう考えるべきか。「機会損失を見える化する」こと。

廃棄ロスは帳票に残りますが、機会損失は残りません。だからまず、機会損失を「見える」状態にすることが第一歩です。

具体的には、「売り切れた時間帯・商品・曜日」を記録する習慣をつけること。「今日は何が足りなかったか」を毎日スタッフが共有する仕組みを作ること。これだけでも、機会損失の実態が見えてきます。

きよらカァサで取り組んでいる「単品管理の徹底」も、本質はここにあります。どの商品が、いつ、どれだけ売れているかをデータで把握することで、「攻めるべき仕入れ量」と「守るべきライン」が見えてくる。感覚ではなくデータで仕入れを判断できるようになる。

そして最も重要なのは、「廃棄が出ることを責めない文化」を作ることと、「仕入れたんだから売り切る努力をしよう」ということです。

廃棄を恐れて萎縮すれば、機会損失が増え、売上が下がります。
廃棄が出ても「攻めた結果だ、次はデータを見て判断しよう」「どうやって売れるようにしようか?」という文化があれば、適正量を仕入れることができます。

これは現場の士気の問題でもあります。「廃棄を出したら怒られる」という環境では、スタッフは誰も責任ある仕入れ判断をしようとしません。経営者や管理職が「機会損失の怖さ」を理解して、現場に伝えることが前提条件です。

「縮小均衡」から抜け出すには、数字ではなく「哲学」を変えることから。

最後に、本質的な話をします。

縮小均衡という現象は、「売上を最大化しよう」という思想ではなく、「損失を最小化しよう」という思想から生まれます。

守りの発想は大切です。

でも、守ることだけを考え始めると、じわじわと小さくなっていく。「どうすれば売れるか」ではなく「どうすれば損しないか」を考え続けた結果として、縮小均衡に入っていきます。

物産館に限らず、地域の小売業全体が縮小均衡に向かうことは、地域経済の縮小そのものです。地元の生産者の販路が消え、雇用が減り、「買える場所」がなくなっていく。

きよらカァサが「地域のスーパー」として機能し続けることは、南小国町の経済インフラを守ることでもあると、私たちは考えています。だからこそ、廃棄を恐れずに攻める仕入れを続ける。

利益を確保しながら、地域に「買える場所」を残す。

「廃棄ロスを減らす」と「機会損失を減らす」は、常にトレードオフの関係にあります。どちらかをゼロにしようとすれば、もう一方が膨らみます。その均衡点を、データを見ながら常に更新し続けること。それが小売業の本質的な仕事だと思っています。

【参考文献・出典】
∙ 株式会社セブン&アイ・ホールディングス「ブームのライフサイクルを決める4つの要素」(鈴木敏文氏インタビュー)
∙ 株式会社エス・ピー・ネットワーク「店舗運営における廃棄ロスと機会ロス」
∙ 経済産業省「商工業実態基本調査(小売業売上高営業利益率)」
∙ 観光庁「旅行・観光消費動向調査 2024年年間値(確報)」

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