「これ、好きなんですよ」と言える売り場を作りたい。「売れるものを売る」から脱却する、物産館の新原則。
物産館の棚を作るとき、いつも頭の片隅に置いていることがあります。
「自分が好きなものを、おすそ分けする気持ちで揃える」ということです。
「売れそうなもの」と「好きなもの」は違う
商売をしていると、どうしても「売れそうなもの」を優先したくなります。
データを見て、利益率を計算して、売れ筋を並べる。それは正しいことです。間違っていません。
でも、そこだけで棚を作ると、どこかに「よそよそしさ」が漂う棚になる気がしています。
「売りたいもの」ではなく「好きなもの」を並べる棚は、見た目からして違います。
コンビニの棚とセレクトショップの棚が、なんとなく違って見えるのと同じです。
コンビニは「効率」で棚を作る。セレクトショップは「好き」で棚を作る。
どちらが良い悪いではなく、どちらを目指すか、という話です。
当社が運営する南小国町総合物産館きよらカァサは、「地域のスーパー」でありたいと思っています。でも同時に、「誰かの好きが詰まった場所」でもありたい。
おすそ分けの本質
「おすそ分け」という言葉には、独特の温度感があります。
「買って」とか「食べて」ではなく、「これ好きだから、あなたにも」という感覚。
押しつけではなく、でも確かな熱量がある。
おすそ分けをもらったとき、人はたいていそのものを受け取る前に、「この人が好きなもの」という文脈を受け取っています。だから美味しく感じるし、嬉しい。
棚でも同じことが起きると思っています。
「当社の物産館のマネージャーが実際に食べて、本当に好きなもの」が並んでいる棚は、そうじゃない棚と何かが違う。言語化しにくいのですが、棚の前に立った人に、なんとなく伝わるものがあると思っています。
「これ、美味しいんですよ」と自信を持って言える商品しか置かない、という覚悟が棚ににじみ出る、とでも言いましょうか。
「好き」は、地域への敬意でもある
南小国町には、地域の生産者さんや事業者さんが丹精込めて作ったものが溢れています。
早朝から山に入って採ってきた山菜。手間暇かけて作られた豆腐。地元の牛乳を使ったお菓子。
こういったものを「仕入れて売る」のと、「好きだから並べる」のとでは、棚の説得力が変わります。
「この地域のものだから」という義務感で並べるのではなく、「本当に美味しいから、来てくれた人に知ってほしい」という気持ちで並べる。
その違いは、売り場に立つスタッフの言葉にも出てきます。
「よかったらどうぞ」と「これ、本当に美味しいんですよ」では、受け取る側の印象がまったく違います。
「好き」で仕入れているから、自信を持って勧められる。顔が見える人が作っているからなにがいいのかを具体的に伝えられる。
これは、地域の生産者さんへの敬意でもあります。
一生懸命作ったものを、「まあ置いておきましょう」ではなく、「これを知ってほしい」という熱量で売り場に出す。
それが、作り手への誠実な向き合い方だと思っています。
「好き」は伝染する
旅行先で、お店のスタッフに「これ、うちで一番好きなんですよ」と言われてつい買ってしまった経験は、誰にでもあると思います。
おすすめを聞いてもいないのに、自然とそのひと言が出てくる。
あれは、「売るための台詞」ではなく、「本当に好き」という感情が溢れ出た瞬間です。だから伝わる。
観光地で「また来たい」と思ってもらうために必要なことは何か、とよく考えます。
景色や温泉は、一度来れば体験できます。
でも、「あの人にまた会いたい」「あのお店にまた行きたい」という気持ちは、「好き」が伝わったときにしか生まれません。
南小国町を支えてくださっているのは、ありがたいことに90%以上がリピーターの方々です。
この数字の裏に、どれだけの「好きが伝わった瞬間」が積み重なってきたかを思うと、売り場作りは決して軽い話ではないと感じています。
「おすそ分け」の経済学
少し視点を変えると、「好きなものをおすそ分けする」という感覚は、地域経済の話にもつながってきます。
観光地の売り方には、大きく二つの方向性があります。
一つは「売れるものを売る」。
需要に合わせて商品を揃え、価格競争に対応し、たくさん売ることを目指す。
もう一つは「好きなものを届ける」。
自分たちが本当に価値があると思うものを、その価値ごと伝える。
前者は効率的ですが、「どこにでもある場所」になっていきます。同じものがより安く買える場所が出てくれば、すぐに選ばれなくなる。
後者は手間がかかりますが、「ここでしか出会えない体験」になっていきます。
2040年には日本全体で1,100万人の働き手が不足します。圧倒的な人手不足の中で、「薄利多売」「量を追う」モデルを続けることは、物理的に難しくなっていきます。
そのとき生き残れるのは、「安いから来る場所」ではなく、「ここが好きだから来る場所」だと思っています。
「好きなものをおすそ分けする」という、ちょっと素朴な感覚は、実は時代が求める方向と一致しているのかもしれません。
売り場は、その土地の「好き」の集積地
旅先で、その地域に暮らす誰かの「好き」に出会う。
「あ、ここの人たちはこういうものが好きなんだ」とわかる瞬間は、ガイドブックには載っていない発見です。
きよらカァサの棚が、南小国町に暮らす人たちの「好き」の集積地になれたらいいな、と思っています。
地元の方が「これ、本当に美味しいのよ」と言いながら買っていく横で、観光でお越しの方が「なんか気になる」と手に取る。
そんな、人の「好き」が伝染していく場所。
それが、どんな時代にも「また来たい」と思ってもらえる物産館の姿なのかもしれません。
おしまい。
