『近畿地方のある場所について』映画版は、原作の読み心地まで再現していた
映画版『近畿地方のある場所について』を観た。面白かった。
もともとこの作品は、ネット小説投稿サイト・カクヨムで公開されていた作品で、さっき確認したら今も無料で全部読めるようだ。
原作も面白いので読んでいない人は読めばいいと思う。
原作はかなり特殊な形式だった。
短い文章が連なっていて、ネットの書き込みだったり、週刊誌の記事だったり、取材テープの文字起こしだったり、様々なテキストデータが積み重なっていく。
それぞれは断片なのに、読み進めるうちに怪異がなんとなくつながって見えてくる。
モザイクアートみたいな作品だった。
そして映画版は、その原作の面白さを、ちゃんと映像でやっていた。
2026年時点では、かなり珍しい映像体験だった
映像として、あまり見たことがない表現だった。
将来的には、この作品に影響を受けたフォロワー的な映画が出てくるかもしれない。
でも2026年現在では、かなり珍しい仕上がりだと思う。
正確に数えたわけではないけど、10以上の数の映像素材が使われている。
昔のワイドショーの映像
ニコニコ動画っぽい動画
昔の日本昔話みたいな映像
SNSの動画
ホームビデオ
いろんな時代、いろんな媒体の映像が連なって見せられる。
VHSとか、USBメモリとか、焼いたDVDとか、ネットの映像とか、その記録媒体の違いもあって面白い。
でも不思議と、ただの寄せ集めには見えない。
“資料から推測する物語”だから自然に見られる
物語としては、失踪した編集長に代わって、残された資料をもとに「どういうオカルト記事特集を作ろうとしていたのか」を推測していく話になっている。
だから、様々な映像が次々に出てきても違和感がない。
観客も一緒に資料を見て、つながりを探していく感覚になる。
この構造がかなりよくできていた。
原作の「断片がつながっていく面白さ」を、映画側でも別のやり方で再現していたと思う。
怖すぎない。でも、なんか怖い
この作品、一本一本の映像が強烈に怖いわけではない。
ジャンプスケアもそこまで多くない。
こっちの視線を誘導しておいて、急にドン、みたいな演出も少なめだった。
でも怖い。
不穏な映像が羅列していく。
しかも、それぞれがなんとなく関連している。
その積み重ねで、「なんか怖いぞ」という感覚になっていく。
ここが新しかった。
現実と地続きに感じる怖さ
出てくる映像が、投稿動画だったり、テレビだったり、家庭用ビデオだったりする。
僕らが実際に見たことのある媒体ばかりなので、無意識に現実と地続きに感じてしまうのかもしれない。
作り物の世界の恐怖というより、日常のすぐ横にある感じ。
そして、そこからなんとなく逃げられない感じがある。
菅野美穂のキャスティングが効いている
菅野美穂 をキャスティングしたのも面白かった。
かなり乱暴に言えば、老けてる感じ、年齢を重ねた存在感そのものが役柄に乗っている。
若い男性社員との距離感。
言葉にされない職場の空気。
そういう、説明されない人間関係まで画面に出ていた。
そして終盤、そこに感じていた違和感がちゃんと爆発して終わる。
ここはかなり良かった。
白石晃士監督の魅力も出ていた
白石晃士 は個人的に好きな監督なんだけど、魅力は怪異をしっかり映像に映してしまうところだと思う。
一般的なJホラーって、怪異は気配だけとか、一瞬だけ見せることも多い。
でも白石監督は違う。
見えている怪異に対して、僕らは現実で見たことがないから知らないだけで、もし本物がいるならこうなんだろうな、と思わせる説得力がある。
海外ホラーの、襲ってくるモンスターともまた違う。
海外のホラーは、モンスターが実際にこうゆう感じで存在してるんだったら多分世間に見つかってるなって思ってしまう。
白石監督は、この現実の中に、怪異として存在している何かを、そのまま映してくれる感じがある。
霊感のない僕は、それを見れてなんか得じゃんっていう気分になる。そこが好きだ。
総評
『近畿地方のある場所について』映画版は、かなり良い映画化だった。
原作の面白さを消さず、むしろ映像ならではの方法で広げていた。
新しい表現が生まれる瞬間に立ち会えた感じがある。
こういう作品に出会えると、映画ってやっぱり面白い。
