サンティアゴ巡礼 #14 王室の避暑地から夕陽の入り江へ:Santander - Mogro
距離:約16.0km
累積上り:約155m
天気:晴れ(12℃ / 21℃)
一般難易度:★★☆☆☆
疲労度:★★★☆☆
今日のルート
Santander → Boo de Piélagos(鉄道で一駅移動)→ Mogro
この日は公式ルートに向かう前に少しだけ観光名所を見物することにして、サンタンデールの東に突き出したマグダレナ半島に向かった。スペイン王室の避暑地として建設されたマグダレナ宮殿がある他、半島全体が公園になっており小さな動物園もあるようだ。
半島の一角には、Vital Alsar という現代のスペイン人探検家が1970年代の航海で使った木造船やバルサ製の筏が展示されていた。どれも近くで見ると意外に小さく、これほどの船で大洋を渡ったという事実には驚かされる。

半島の先端付近にはマグダレナ宮殿が現れる。白い石壁が印象的なファサード、ギリシア・ローマ風の円柱、少し古風な塔などを組み合わせたイギリス風の折衷様式の建物で、スペインというよりイギリスの邸宅を思わせる。

宮殿わきの遊歩道からは開放的な風景が広がり、沖あいを船がゆっくりと航行していた。これまで歩いてきたバスクやカンタブリアの海岸風景とは違う、デザインされた美しさのようだ。

海岸通りには瀟洒な建物が並び、サン・セバスティアンやビルバオともまた違う、落ち着いた豊かさを感じる町だった。古典的な外観の建物が多いが、全体としては思っていたより新しい町という印象を受けた。

海辺には宙に浮きあがるような白い建築物が目を引いた。関西国際空港でも知られる建築家レンゾ・ピアノが設計した現代美術館 Centro Botín(ボティン・センター)とのことだ。細い柱で建物全体を持ち上げ、海への眺めを遮らない軽やかな造りが印象的だった。内部を見学する時間はなかったため、外から建物を眺めるだけにした。

続いて向かった Catedral de Santander(サンタンデール大聖堂)では、ちょうどミサの時間帯で内部を見学することはできなかった。巡礼中は教会を訪れる機会が多いが、開いている時間と歩くタイミングが合わないことも珍しくない。そのまま町を離れ、再び巡礼路へ戻った。

郊外へ出ると景色は一変し、国道沿いを歩く時間が長くなる。日陰が少ない上にアスファルトの照り返しもあり、この日の最高気温は21℃だったが、歩いているとかなり暑く感じた。
途中、塀いっぱいに描かれたカミーノ・デル・ノルテのグラフィティが目に入った。右端のバスクから左端のサンティアゴ大聖堂まで巡礼路が絵地図として描かれている。さらにピンク色の巡礼路にからみあうように何本もの色帯が描かれている。最初は単なるデザインかと思ったが、赤と白はカンタブリア州、青と黄色はアストゥリアス州、水色と白はガリシア州の州旗を思わせる。写真には収まりきらなかった右端には、おそらくバスク州が続いていたのだろう。自治州ごとの個性を残しながら、一つの巡礼路としてつながっていることを表現した作品なのかもしれない。

サンティアゴ大聖堂の上には髑髏の絵が描かれている。日本では髑髏というと不吉な印象が強いが、巡礼路では教会や巡礼を描いた絵の中にも自然に現れる。キリスト教文化ではメメント・モリ(死を忘れるな)の象徴であり、同じ髑髏の図像でも文化が違うと受ける印象がずいぶん異なるようだ。
昼食は Boo de Piélagos(ボオ・デ・ピエラゴス)という村のバルで、この旅では初めて Menú del Peregrino(巡礼のメニュー)を注文した。巡礼者向けに価格をおさえた日替わり定食だが、どう見ても巡礼ではなさそうな客も注文していた。この日はサラダ、豚ロースのソテー、アイスクリームという組み合わせで13.2ユーロと良心的な価格だった。北スペインでは比較的安価な定食の肉料理には、目玉焼きとフライドポテトがついてくることが多い。またちゃんとしたレストランでもアイスクリームはスーパーで売っているようなコーンアイスが普通だ。

公式ルートはボオ・デ・ピエラゴスから Río Pas(パス川)に沿って大きく南に迂回してから上流で川を越える。一方この日のホテルはパス川河口の Ría de Mogro(モグロ入り江)にあるので反対方向だ。カミーノをそのまま歩くとかなり上流まで橋がなく、ホテルまで2時間以上かけて大きく迂回しなければならない。そこでボオ・デ・ピエラゴス駅から川を越えたモグロ駅まで一駅だけ電車で移動することにした。
ボオ・デ・ピエラゴス駅は小さな無人駅だった。ホームにはプリペイドカードの認証機らしきものはあったが、券売機は見当たらない。切符の買い方がわからず困っていると、ホームにいた地元の若者が、隣の駅までならそのまま乗れば良いと教えてくれた。半信半疑のまま列車に乗り込み、車掌が来たら事情を説明して切符を買おうと思っていたが、検札もないまま列車は3分でモグロ駅へ到着した。内心ひやひやしたが、地元の人はプリペイドカードで利用するのが一般的で、旅行者が現金やクレジットカードで乗るケースはほとんど想定されていないようだった。

モグロ駅で電車を降りると風景は大きく変わった。湿原には牛がのんびり草を食み、その先にはモグロ入り江が広がっていた。映画では湿原に馬がいる場面をよく見るので、この組み合わせは少し意外だった。


宿はクラシックな雰囲気の海辺のリゾートホテルだった。レストランもあり、夕食も朝食もホテルで済ませられる。この旅で初めて浴槽に湯を張ってゆっくり浸かった。シャワーだけの日々が続いていたので、体が温まると驚くほど汗が噴き出してきた。

少し胃が重かったので、夕食は魚介のスープとパンだけにした。魚介の出汁がきいたスープにパンを浸して食べるととても美味しく、久しぶりに浴槽で入浴できたこともあって気分がよくなった。

夕日で染まったモグロ入り江を部屋のバルコニーから眺めると穏やかな気分になった。たまにはこういった静かなリゾートホテルに泊まるのも良いものだ。

