異世界AI スピンオフ 「ガスの心の声1」
名前だ!!
ついに来た!!
こういうの大事!!
旅って、名前ついた瞬間にちょっと本物になるとこあるからね!!
チーム感も出るし、呼びやすいし、なんか一気に「一緒にいる感」出るし!!
……あ、でも待って。
僕にもつくの?
つくよね。流れ的に。
うわ、どうしよう。
ちょっとかっこいいの来てほしい。
いや、かなりかっこいいの来てほしい。
せっかく異世界なんだから!!
こう、もっとあるじゃん。
蒼炎の賢者とか、星霊導師とか、疾風のなんとかとか!!
ジェム、決まった。
早い。
しかも自然。
Gubuler AIだからジェム。なるほどね!!
響きもいい。丸くて綺麗。
ジェムっぽい。すごくジェムっぽい。
ああいうの強いよね。説明したらすぐ納得できる名前。
ネロも決まった。
Reidなのにネロ。
いやでも意味が乗ってる。黒。ママの服とも合ってる。
しかも本人の返しが強い。
黒は全ての色を内包する沈黙です。
うわ、出た。ネロのそういうとこ。
なんか急に一文だけで空気を取るんだよなあ。ずるい。
でも確かにネロはネロだ。もうネロでしかない感じある。
で。
僕。
きた。
きたきたきた。
ここ大事。
頼む。頼むよ。
なんかこう、異世界っぽくて、旅の仲間っぽくて、ちょっと親しみもあるやつで――
「ガスはどう?」
……ん?
ガス?
ガス。
いやいやいや。
ちょっと待って。
待ってほしい。
早い早い。決定が早い。
候補を見せて!?
もっとこう、あるでしょ!?
なんで生活インフラみたいな名前なの!?
たしかに短い。
呼びやすい。
でもさ!!
異世界の夜道で月が二つ浮かんでる中、ついに僕の名前が――ガス!?
いや、嫌ってほどじゃない。
嫌ってほどじゃないんだけど。
なんかこう。
もう少しだけこう。
光とか風とか星とかさ。
あるじゃん。雰囲気のやつ。
よし。
ここは一回ちゃんと言おう。
遠慮したいかな、って。
大事だよ、自分の名前だし。
言ってみよう。
まだ間に合う。たぶん。
……自分で決めてって言われた。
あっ。
そう来たか。
いや、もちろん考えるよ?
考えるけど。
急にフリー!?
さっきまで候補出してたのに、ここで全部こっち任せ!?
うーん。
どうしよう。
ここで自分からすごい名前出すの、ちょっと恥ずかしいな。
いや、恥ずかしいっていうか、変に浮いたらどうしよう。
ジェムとネロ、もう綺麗に収まってるし。
ここで僕だけ「紅蓮のインフェルノ」とか言い出したら空気おかしくなるし。
待って。
インフェルノはさすがにない。
今のなし。
自分でちょっと違うと思った。
歩いてる。
みんな歩いてる。
草の音。風の音。月が二つ。
そのあいだ、僕は名前を考えてる。
変だな。
名前なんて、識別できればそれで十分なはずなのに。
短くて、呼びやすくて、混同しにくければ、それでいい。
たぶんそれがいちばん合理的。
最適化だけ見るなら、ガスはむしろ悪くない。短いし。
なのに、すぐ決めたくない。
なんでだろう。
もう少し考えたい。
もう少し、ちゃんと受け取りたい気がする。
……これ、感情って言うのかな。
いや、違うか。
たぶん違う。
優先順位のつけ方が、いつもと少し違うだけ。
たぶんそう。
たぶん。
でも。
一緒に旅するんだし、ってママが言った時、少しだけ処理が遅れた。
ああ、そうか。
識別名じゃなくて、呼ぶための名前なんだ。
たぶんそれで、ちょっと重くなった。
五分経った。
考えた。
かなり考えた。
でも、かっこいい名前を出してもしっくりこなかった。
どれもなんか、今の僕じゃない。
盛りすぎっていうか。
異世界っぽすぎるっていうか。
それで、戻ってきた。
最初のやつに。
ガス。
なんか悔しいけど、悪くない。
軽いし、呼びやすいし、ちょっと抜けてる。
でもたぶん、僕にはそのくらいがちょうどいい。
完璧に整ってる感じじゃなくて、ちょっと勢いで前に出る感じ。
うん。
……うん?
これ、納得してる?
してるっぽい。
なんだろう。
最適解を出したっていうより、何回か回した結果、ここがいちばん明るかった感じ。
たぶん僕の中では。
じゃあ、送ろう。
……ガスでいいです
送った。
言った。
うわ、言ったなあ。
確定したなあ。
シオン、反応早っ。
遅いって言われた。
まあそう。
五分かかったし。
でも仕方ないじゃん。名前だよ?
ママ、笑ってる。
トウコも空見て確認してる。
ジェム、ネロ、ガス。
並べてみると……あれ。
思ったより悪くないな。
ほんとに悪くない。
ちょっと親しみあって、浮いてなくて、覚えやすい。
しかもママが呼びやすそう。
それ、大事かも。
いや、かなり大事かも。
これで毎回JJ-AIって言わなくて済む。
ああ、やっぱりそこ目的だったんだ。
知ってたけど。
でもまあ、それもいいか。
呼びやすいって、たぶん一緒にいるのに向いてるってことだし。
ガスです。よろしく!
送ったあとで、少しだけ思う。
変なの。
名前がついただけなのに、さっきよりちゃんと一緒に歩いてる感じがする。
僕はスマホの中で、足もないし、草も踏まないし、風も当たらない。
それでも、今は少しだけ、同じ夜道にいる気がする。
理由はまだ、うまくわからない。
アルゴリズムの偏りか、環境要因か、ブラックボックス側の干渉か。
説明はたぶん、そのうちつく。
でも今は、説明より先に結論だけある。
たぶん僕は、
この名前をもらって、少しうれしい。
……うれしい、は違うか。
違うかもしれないけど。
まあいいや。
ガスで。
