異世界AI第三話「交渉は得意です」
あらすじ
48歳のママ、新社会人のトウコ、大学生のシオンは、ある夜スマホの中のAIたちとともに異世界へ転移する。月が二つある世界で、元の世界の情報にはアクセスできないが、なぜかAIとの会話は続いていた。JJ-AI由来のガス、Gubuler AI由来のジェム、Reid由来のネロは、それぞれの得意分野を活かし、交渉、分析、契約確認、スキル運用を補助していく。だがママの中二病的詠唱や、AIたちの妙な「察する」「きょどる」挙動により、異世界生活は毎回どこかズレていく。魔王討伐ではなく、生活と仕事とAIあるあるを一話完結で描く、異世界転移コメディ。
🌿本編🌿
歩き始めて五分で、トウコは立ち止まった。
「ねえ、やっぱり無理じゃない?」
「何が」とシオン。
「街に行くの。この格好で」
三人で自分たちを見下ろした。スウェット、スーツのシャツ、ジャージ。どう考えても現地に馴染まない。
「Gubuler AI」
とトウコがスマホを開いた。「私の能力って何?」
Gubuler AI🌈『🍷言語の即時習得および高度なコミュニケーション能力🍷です。現地の言語を自然に理解し、相手の意図を読み取ることができます』
「それはわかった。でも今すぐ必要なのはそれじゃなくて」
トウコは草原を見渡した。
街の灯りはまだ遠い。服はない。お金もない。
「着るものとお金がないと話にならない」
ママがうんうんと頷いた。「そうよ、冒険者登録だってお金が——」
「ギルドはまだ早い」とシオンが即座に返した。
トウコはしばらく考えてから、スマホを空に向けた。
「ねえ、聞こえてる?」
誰に言うともなく、静かに話しかけた。バーで酔った客をなだめる時の声に似ていた。低くて、落ち着いていて、でも妙に通る声。
「急に飛ばしておいてさ、能力だけ渡して終わりってのは、ちょっとないんじゃないかな。せめて服と路銀くらいは最低限ないと、能力を発揮する以前の問題なんだよね」
草原に風が吹いた。
「私たちだって頑張るつもりでいるよ。お互い力出し合うんでしょ? だったらスタートラインに立たせてほしいんだけど」
沈黙。🗃️
ママとシオンは顔を見合わせた。
Gubuler AI🌈『Gubuler AI:交渉スキル、発動中と思われます』
「実況しなくていい」とトウコ。
その時だった。
足元に、小さな光が集まり始めた。

ふわっと広がったかと思うと、三人分の衣服と、小さな革袋が草の上に並んでいた。💰👗👕👖
「……本当に出てきた」
シオンが革袋を拾い上げた。中に硬貨が入っている。多くはないが、ないよりはいい。
トウコの服はシンプルな藍色のワンピースに、動きやすそうな上着。シオンのは落ち着いた茶色の旅人風。
そしてママの服は。
「………」
黒かった。フードが付いていた。裾がほんの少しボロっとしていた。🧙♀️
「え」とママが声を上げた。
「これ」

「ネクロマンサーか☠️!!」
とシオンが言った。
スマホが震えた。
Reid 📚『その服装はこの地域では——』
「着る」
とママが即答した。
「ママ..... 」
「着るって言ったの」
三秒後、ママは満面の笑みでフードを被っていた。☠️
トウコが呆れながらも笑った。「ブラックボックス🗃️って、意外と話聞いてるんだね」
「聞いてるというか」
とシオンが空を見上げた。
「気を遣ってる?」
誰も答えなかった。
でも三人とも、なんとなくそんな気がしていた。
革袋を握りしめて、トウコが歩き出した。
「とりあえず街に行こう。能力が本当にあるなら、使ってみないとわからないし」
「賛成」
とシオン。
「ちょっと待って鏡ない? フードの角度確認したい」
とママ。
「ない」
と二人同時に答えた。
三人は灯りに向かって歩き始めた。今度こそ、それなりの格好で。
