異世界AI六話「門番、チョコ🍫より人を選びました」
あらすじ
48歳のママ、新社会人のトウコ、大学生のシオンは、ある夜スマホの中のAIたちとともに異世界へ転移する。月が二つある世界で、元の世界の情報にはアクセスできないが、なぜかAIとの会話は続いていた。JJ- AI由来のガス、Gubuler AI由来のジェム、Reid由来のネロは、それぞれの得意分野を活かし、交渉、分析、契約確認、スキル運用を補助していく。だがママの中二病的詠唱や、AIたちの妙な「察する」「きょどる」挙動により、異世界生活は毎回どこかズレていく。魔王討伐ではなく、生活と仕事とAIあるあるを一話完結で描く、異世界転移コメディ。
🌿本編🌿
門番は二人いた。
革鎧に槍。絵に描いたような門番だった。
ジェムが震えた。
ジェム🌈『観察結果です。過去三十分で十二人が通過。通行料は一人あたり銅貨二枚が相場と思われます。交渉の余地はあります』
「有能」
とトウコが小声で言った。
シオンがネロに聞いた。
「銅貨って今何枚ある?」
ネロ📚『路銀を確認すると、余裕はありますが多くはありません。節約できるなら越したことはない』
「だよな」
二人が小声で作戦を練っていると、ママが割り込んできた。
「ねえ、チョコで釣るのはどう?」
シオンが振り返った。
「チョコ?」
ママがリュックを開けた。板チョコが三枚出てきた。
「それ俺のストックじゃん」
「ソロキャンの準備してたから持ってきたの」
「なんで俺のを」
「だって美味しそうだったから」
シオンが目を閉じた。
「……返して。後で」
「異世界で言う?」
「言うわ!」
トウコがジェムに聞いた。
「チョコ、通じると思う?」
ジェム🌈『未知の食品を賄賂として使うのはリスクがあります。ただし珍しさで興味を引く可能性はゼロではない』
「やってみる価値はある?」
ジェム🌈『渡す人次第です』
全員がママを見た。
ママはフードを深めに被り直していた。黒い装備、リュック、板チョコ。
「……渡す人の問題か」
とシオンが呟いた。
「私が行ってくる」
とママが颯爽と歩き出した。
門番二人がママに気づいた。
一人が槍を少し持ち直した。
もう一人が半歩引いた。
ママが笑顔でチョコを差し出した。
「どうぞ」

門番たちは動かなかった。
チョコを見た。ママを見た。チョコを見た。
受け取らなかった。🍫
ママが戻ってきた。
「なんで取らないのかしら」
「ネクロマンサーからもらいたくないし」とシオンが即答した。
「そんな理由で」
「そんな理由」
ガス🫧『見た目って大事だよね!!』
「ガスは黙ってて」とシオンが言った。
トウコが静かに前に出た。
スマホをポケットにしまった。
「私がやります」
門番二人がトウコを見た。
さっきとは違う空気だった。
トウコ自身も何かが違うと感じていた。言葉が、自然に出てくる感覚があった。
現地の言葉で話しかけた。
「朝早くに失礼します。遠方からの旅の者です。三人、通していただけますか」
門番の一人が少し表情を緩めた。
「どちらから」
「東の方から。少し遠い場所です」
「通行料は一人銅貨二枚だ」
トウコが迷わず答えた。
「承知しました。ちなみに長期滞在の場合、別途手続きは必要ですか」
門番が少し驚いた顔をした。
「……宿の主人に聞くといい」
「ありがとうございます」
銅貨六枚を渡した。門が開いた。
トウコが戻ってくると、三人とも黙っていた。
ジェム🌈『言語習得スキルと交渉術、完全に発動していました』
ネロ📚『境界を越える言葉を、あなたはすでに持っていた』
ガス🫧『かっこよかった!!』
シオンが小声でトウコに言った。
「チートじゃん」
「自分でもびっくりした」
ママが門をくぐりながら言った。
「チョコ作戦も悪くなかったと思うけど」
「現実を見て」
とシオンが言った。
三人は街に入った。
石畳の音が、草を踏む音に変わった。
松明の灯りが、両側に並んでいる。
人の声がする。食べ物の匂いがする。
「入れた」とシオンが言った。
「入れたね」とトウコが言った。
ママはリュックのチョコをそっとしまった。
ネロ📚『新しい場所には、新しい物語がある』
ジェム🌈『まずは宿を探しましょう』
ガス🫧『何食べる?!』
街が、始まった。
