【在宅お看取り・第3話】~揺れる時間(せん妄)を、一緒に過ごす~
みなさん、こんにちは。オスカルです。
今回は、〇田さんシリーズ第3話になります。
〇田さんの最期が近づいた頃のお話です。
その頃、〇田さんには「せん妄※」という症状が現れました。
※せん妄とは、病気や体力の低下などによって、一時的に頭の中が混乱してしまう状態です。いつもと違う言動や、見えないものが見えることもあり、ご本人もご家族も戸惑うことがあります。
定期訪問診療の数日前に、奥さんから私宛に1本の電話がありました。
「あのね、主人がおかしいこと言っていて。
夜中にいきなり、『ふすまから煙が出てる!早く消せ!』って叫ぶから、
私も火事かと思って、びっくりして飛び起きたんだけど何もないの。
煙なんてないよって言っても、早く消せって怒鳴るし、私も朝まで付き合わされて
疲れちゃって…。」
奥さんは疲労困憊な様子で、夜中の出来事を教えてくれました。
私はその話を聞きながら、本日往診で伺って良いか奥さんに確認し、
「〇田さんにも往診に行くこと、確認してもらってくださいね」
と付け加えました。
私たちと話せるようになったとはいえ、相手はきっちり準備して迎え入れたい〇田さんです。
〇田さんが了承したと確認がとれたので、往診する準備に入りました。
奥さんからの情報を医師に伝え、〇田さんのこれまでの関りを元に、お伝えする内容や、使用できる薬剤、奥さんや家族への説明の仕方など擦り合わせました。
〇田さんの自宅に到着すると、奥さんが門のところで待っていました。
「来て頂いて、ほんとにすいません。
なんかびっくりしちゃって。」
せん妄状態を初めて見た方は、とても驚かれると思います。
医療者であっても、初めてその場面に出会えば驚くことがあります。
そして今回は、医療者が複数名いる病院や施設ではありません。
2人暮らしの家の中で、夜中に突然大声で叫ばれたら…。
奥さんには家に入る前に、医師から今の状況を説明することにしました。
私は先に〇田さんの状態を確認するために、部屋に向かいました。
部屋の入口のふすまを開けると、〇田さんが怯えたように
「あっ、オスカルさん!早くそこ離れて。
煙が出てるんだよ!」
大きな声でしたが、怒鳴るというよりは私を心配して、こっちへ来いと手招きされていました。
私は〇田さんの言う通り、さっと小走りで
ベッドに近づいて
「〇田さん、先生と私が来たからね。
安心してね。」
と手招きした手を握ると、その手は小刻みに震えていました。
どれだけ怖かったんだろう…。
その状況に胸が締め付けられる思いでしたが、まずは〇田さんが見えているものを把握することが先でした。
オスカル:「〇田さん、どこに煙出てますか?」
〇田さん:「そこのふすまの上だよ!」
オスカル:「ふすま閉めたほうがいい?」
〇田さん:「うん、閉めて。入ってきちゃうから」
私はふすまを閉めてから、〇田さんが言っていた上の方を指さし、
オスカル:「ここら辺に煙いる?」
〇田さん:「そこだよ!危ないよ!」
オスカル:「ちょっと、追っ払ってみるから、どう?まだいる?」
〇田さん:「まだ少しいる」
私がふすまの上の方を一生懸命、手で振り払っている様子を見て〇田さんが教えてくれます。
その様子を、別の入口から入ってきていた医師と奥さんが、そっと見ていました。
私がそばに戻ると、〇田さんはニコッと笑って
「ゆうべ、ご先祖さんたちが出てきてね。一緒に行こうって言ってるから、俺はまだ行かないって言ってやったんだ。」
と話し始め、手の震えも落ち着いた様子。
表情が和らぎ、煙から話題が逸れたタイミングで、医師に診察を交代しました。
私は奥さんのところに行き、昨夜の件を労いながら、医師からどのように話を聞いたか尋ねました。
・がんの状態が、悪くなっていることで起きている「せん妄」であること。
・本人の言うことを否定せず聞くこと。
・夜に寝てもらうように内服薬もあること。
・一人で不安なら、娘にも一緒に泊まってもらうこと。
奥さんはしっかり答えてくれました。
そして、
「煙が出てるってまた言われたら、さっきオスカルさんがやったようにすればいい?」
と質問されたので、
「あれは効果あったみたいだから、やってみるのも一つ。でも奥さんは話を否定しないで、手を握るだけでも大丈夫。
奥さんも怖いでしょ?」
と伝えると、
「おかしくなっちゃったのかと、近づくのも怖くてね。娘たちには迷惑かもしれないけど、今日は泊まってもらうことにしたの。
薬で眠らせるのもかわいそうだしね。」
奥さんはこの時間で、自分がどう動くか整理された様子でした。
混乱した言葉を叫ばれる恐怖。
いつ収まるかわからない状況。
がんが悪くなっている状態。
本人も家族も、どれだけ怖い時間の中で、
どれだけ気持ちが揺れるのか。
その日は週末ということもあり、次は月曜日の午前中に伺うことにしました。
〇田さんに
「月曜日に来ますからね。ご先祖さんには、私たちが来るからまだ待ってって、言ってくださいね」
と握手をしながら伝えると、
「また来てね。絶対来てね!」
またニコ~っと笑って、ギュっと手を握り返してくれました。
これが〇田さんと交わした最期の言葉になりました。
次回は、〇田さんが亡くなられた後、ご挨拶に伺った時の話になります。
そこで私たちは、〇田さんからの贈り物を受け取ることになります。
よろしければ、どうぞご覧ください。
