ウサギの校舎 8話
まずは犯行の手順である。
まず、犯人は、花を校堂へ呼び出し、なんらかの方法で気絶させた。
ビニールプールの上に、花と、蓋を開けたジクロロメタンの瓶を置く。
空気の入口にチューブを繋ぎ、一端を下窓から校堂の外に出す。外に出る。
ここまでで、九時を跨いでも、犯人は花を直接手にかける事なく殺す手はずが整う。
科学室から、ガスボンベとコンプレッサーを持ち出し、まずはガスボンベをチューブに繋ぎ、ビニールプールを膨らます。
チューブ越しに振動を与えれば、細長い瓶は安定を失い簡単に倒れる。零れ出たジクロロメタンの相当量を花は吸うことになっただろう。
よく生きていたと感心する。
間を置いて、今度はコンプレッサーにチューブを繋ぎ、ビニールプールの空気を抜く。ビニールプールを潰した後は、チューブを引っ張るか、予めプールに繋げておいた紐状のもので、プールを手繰り寄せ、はめ殺しの格子の隙間から、殺人の証拠を持ち去ったのだ。
同じく瓶も回収されるが、花の死体だけは格子に引っ掛かる。
校堂の溝にあった青いしみは、ビニールプールの塗料が脱色されて付いたものだ。
一晩のこと、床の表面は塗料で誤魔化せても、溝にこびり付いたシミまで消すには時間が無かったか。
それとも、このふざけたゲームのヒントに、わざと残したのだろうか?
「ふうん。なるほどね。ところでそれだと、誰にでも犯行可能のようだけど」
「そうだな。窒素ガスボンベとコンプレッサーを別々に運び、校堂と科学室の裏口までを二往復したとしよう。女の力でも一時間あれば犯行は可能だろう。しかし、この中で花が襲われる前夜、アリバイを証明できる者はいるのか」
授業に使用される教室の施錠は全て午後9時だが、談話室や映写部屋、バスルームなどは深夜十二時まで利用可能だ。
静は、と言えば、三日前、夜10時頃まで俊郎と過ごしていたし、同室の七海も別の部屋の友だちと話していて、戻ってきたのは静よりも遅かったのではないか。
静の説得により、場に居合わせる事を了承したものの、俊郎は爽の一件で、静と口論した事に、また気を病んでいるらしく、ムッツリと押し黙っている。美香と三郎は涼しい顔をしていたが、アリバイを証明する者と言ってもピンとこないらしく、やはり何も言わない。七海はキョロキョロと瞳だけを忙しなく動かし、場の空気を読むことに必死に見えた。
たとえ殺人犯の容疑がかかっていても、この場に無実を証明しようと、必死に自己弁護する人間はいない。無実という定義すら曖昧なのだ。殺人は、この学校で起こり得ないものとして、扱われてきた。
「ねえ、静。ひとつハッキリさせておきたいんだけど」
美香が言った。
「アナタの話が筋の通ったものである以上、みだりに異議を唱えるつもりはないの。ただ、どうすればいいかしら?静。アナタが犯人で、全て、アナタの作り話かも知れないという可能性については?」
「それは・・・」
「おい、美香。お前、いい加減に」
「私はアナタの事も疑っているのよ。三郎からいろいろと聞いているわ。ちょっと黙っていてくれる?」
張り詰めていながら、肌に粘りつくような緊張感が場を支配していた。
なんだろう、何か嫌な予感がする。もう、悪い予感は「底を付いている」はずなのに。
「証拠なら、あるの」
緊張に唇が渇いているけれど、静は話し続けた。
「あら、そうなの。それを早く言ってね」
美香の怜悧な瞳。
自信に溢れている。
その眼を睨みすえながら、世界線第一において勝者は美香なのだ、と、それを認めざるを得なかった。けれど、今は、それが劣等感になることは無い。劣等感に苛まれていたほうが、幸せだったのかも知れないが。
「美香と爽は、二日目、ミス研に来なかったね」
「ああ」
「ええ、それがどうかした?」
「その時、私は七海と三郎、それから俊郎の前で『犯人は何かミスしているかも知れないから、もうちょっと調べてみる』と言ったの」
「・・・そう?それで」
「それから今日の放課後、私は俊郎たちに頼んだのとは別に、自分でも科学室を調べたの。そうしたら、変なことが起きていた。一昨日はあったはずの指紋が消えていた」
「犯人が消したんだろう。まあ・・・トロイ犯人だ。一昨日あったという指紋はどうした?」
三郎が言った。
「それが、誰の指紋だとか、それ以前に・・・ぐちゃぐちゃでよくわからなかった」
「なんだそれ。つまり結局犯人は分からないって事じゃないか」
「それが、そうでもないの。ひとつ仮説が成り立つ」
「勿体ぶらずに早く言え。一端の探偵気取りか」
探偵、か。
ミステリー小説の探偵は、世界そのものだ。ストーリーテラーとしても、圧倒的存在感を持つ。泰然自若。
世界から今にも追い出されそうになっていて、教師に媚びる気持ちや恐怖、不安に負けそうで、それに負けじと、探偵になり切ることで恐怖に打ち勝とうとしている静とは、根本から違うのではないだろうか。
爪は、世界線第二に逃げ延びる可能性を仄めかしたが、そんな交渉が、静にできるんだろうか。
「俊郎は一日目、指紋採取キットがあまり役に立たないことを知っていた。二日目、美香と爽はミス研に来ていない。私が『犯人は何かミスしているかも』と言ったことで、指紋を消さなければ、と。そう思う可能性があるのは、三郎か七海、どちらか」
三郎は目を見開いた。
「そして、三日目の午後、科学室で授業を受けてきた七海。アナタが、いちばん怪しいの」
「違う」
七海は即座に否定した。
「私じゃない」
その目に、先程までの挙動不審な動きは無かった。人柄に似合わない、頑なな姿勢が、静の確信を強めた。
「なぜ隠すの?」
「私じゃない」
「なるほどね。異論はないわ。採決に移っていいんじゃない?」
美香が言った。
「犯人は確固たる証拠がないと、自白などしないようだし・・・。この様子だとその通りだわ」
「私じゃ、ない」
静は切り札を出した。
「証拠ならあるのよ。七海。ここにある空瓶は、アナタが花を殺そうとした時使ったもの。これの蓋には指紋が残っていた。アナタの指紋と照合すれば、確実だわ。」
七海の眼が、不気味な輝きを灯し始めた。静とはまた別の何か。ここで、七海をその「確信」まで追い詰めるような証拠を、出すべきでは無かったのではないか?
「そう、〇〇に会ったの・・・やっぱり静は、私と同じ運命なんだわ!」
「なんですって?」
「私じゃない。全部。そう、全部、静に指示されて、したの。犯人は、静」
七海は言った。
「何、それ?」
美香が言った。
「ふうむ。それだと、どういう事になるかしらね。実行犯か首謀者か?」
「殺人か呪いか・・・どうだろうな。首謀者の方かも知れないな」
「そうね。もともと静が怪しかった事もあるし、爽の件でも・・・」
「アレは俺がやったんだよ・・・犯人は俺だ」
「え?そうなの?アハハ。それでも首謀者は静よね?凄いわね、静。花と爽の、何がそんなに気に入らなかったのかしら」
「私じゃない」
静は言った。
「私は七海に何も指示してない。どうして、そんな嘘つくの」
「・・・・・・」
七海は押し黙った。
静は言った。
「わかった。じゃあ私がやったという事にしてもいい」
爪は全てを話せと言ったけれど、これが誤答になれば、「他の全員が死ぬ」ようなことまで知らせずに、済むのではないか、と、静は思った。静は探偵でなない。死にたくは無いが、全員を死に追いやってまで、生きていたくはない。異様な雰囲気を増し始めている七海の表情に、希望が灯った。いや、それもまた異様さの増す要素となっていた。
「その代わり教えて。なぜ、花を殺そうとしたの?何故隠したの」
「何故、なぜって・・・」
七海は微笑んだ。
「好きだったから。花は俊郎が。私は、静が!大好きだった。大好きなの。静。罪作りな人。アナタが私をこんなにしたの。静が気にしなければ、私だってあんな日記、興味なかった」
「ちょ」
静は背筋が凍った。
読んでいたのか・・・。あの日記、確かに隠していたわけではない。ただ、引き出しに入れていただけ。
けれど、日記の存在を人前で暴露されること、静は望まなかった。
目の前で急速に壊れてゆく七海の独白が続いた。
「私、花に、想いを遂げるには、死ぬしか無いって言ったの。どうせ届かない想いなら、来世でって。でも、私は全く別な事を考えていた。殺そう。殺してみよう、人を殺す事が、静と・・・世界線第ニに繋がる唯一の手段・・・!!」
「ちょっと何を言っているのか分からないわ。おかしくなっちゃったのね・・・。お気の毒に」
美香が言った。
それと同時に、パアン!
と「何か」が爆ぜる音が響き、その場にいた全員が状況を呑み込むのに、しばらくかかった。
七海がリボルバーを手にしていて、銃口は美香に向いていた。幸い玉は美香に当たらず、その後ろに壁に穴を開けただけだが、それでも彼女がことばを失うのに十分だった。
「な」
七海はm確かにおかしくなっていた。
表情は喜色満面といったところ。
なぜ、銃を持ってオーガズムを迎えられるか、静にはまるで理解できない。
同じ日記を読み、おそらく同じ人間と会い、影響を受けながら、その結果がなぜ、ここまで違うのか。
死にたいわけじゃない。
七海だって殺されたいわけでも、殺したいわけでもないはずだ。
「七海、やめて。それを下ろして」
静が嘆願すると、七海は言った。
「うん、良いよ。でも」
パアン!パアン!と、2発、銃声が響いた。
悲鳴が響いた。胸から血が弧を描いて飛び散り、それとは逆の曲線を描いて、俊郎は倒れた。
「俊郎!」
静は叫んだ。
「コイツは許さないって決めてた。私の静を汚した」
「うわ」
三郎は言った。
美香は耳を塞いでいた。
確かに間近で聞く銃声の音は、鼓膜をビリビリ揺さぶった。
それが水面への投石のように、静の記憶も揺さぶった。
「この子、好きだな」
誰かが言った。
静はその顔を見ていない。パイプ椅子に座らされ断罪を待つしかない静は。自分のスカートを握りしめて、白くなっている指先だけを見詰めていた。
「静かで。必死に堪えている感じが可愛い」
「何いってんの?生意気よ。不適合で死ぬに決まってるわ」
「そっちこそ何言ってる。この子は死ぬんじゃない。『殺される』んだ。僕たちが殺す。舌先で、人殺しの罪悪感から逃れようとするのは止めろ」
死ぬとか、殺すとか、そういうことばが、ガツンガツンと頭を殴るような衝撃を与えた。けれど、そのときにはもう、その衝撃は静にとって初めてではない。
目の前の連中は、静から両親を奪っていた。間近で見たわけでは無いにせよ、彼女はそれを知っていた。
静を生意気だと言った女は出てゆき、爪は残った。
「さて」
爪は静に向き直って、俯き続ける静の顔を覗き込み言った。
「アイツはね。同僚の湯子という。いつも頭から湯気を出している。彼女にピッタリの名前じゃない?」
爪は長年の知己のように、静に話しかけてくる。深い悲しみと恨みでいっぱいだった静をも、ハッとさせるほどの美しい顔。白い髪、白い肌、淡桃の瞳の奥は、底しれぬ水面のよう。
なぜ、そんな顔ができるの?私の両親を、殺しておいて。
「悪いね。仕事なんだ。この書類にはこう書かれている。『僕たちは君を殺さない。子どもたちには更生のチャンスと教育を与える決まりだ。そのために、ある手術を受けてもらわなくちゃならない。それは君の苦痛を取り除くことにもなる。拒否はすなわち死を意味する。この同意書にサインしますか?』と」
静は、差し出されたペンを払い除けた。
担当が、さっきのように頭に血の登りやすい性格なら、その場で殺されているかも知れなかった。いや、あの女は、それでも自分で手を下すことを躊躇い、あくまで略式法廷の上に死刑宣告を下すという形にこだわったかもしれないが。爪は、湯子とはまた違ったタイプだった。彼女は「おかしい」。冷酷なサイコパスであるというより、彼女は、愛を持って人を殺す。湯子より、遥かに悪質かも知れない。静は、無意識にそう感じた。
戸のところまで転がっていったペンを眺めながら、鷹揚に言った。
「お節介は承知だけど、安易に死を選ばない方が良いと思うよ。なんでも命あっての事だし」
「・・・・・・」
爪の言う通り、静はこの場で両親の後を負い、死ぬつもりだった。彼らが、殺される可能性のある仕事をしていること、常日頃から言い聞かされていた。だから、静が日中を過ごす学校に、彼らが乗り込んできて拘束されたとき、静はすぐに両親の死を察知する事ができた。彼らにこれ以上、情ある者への悲しみを見せてやるつもりは無かった。
そんな静の頑ななのを見て、爪は言った。
「ねえ、君の両親が最期になんと言ったか、知りたい?」
「!」
静は思わず顔を上げた。
「・・・教えて」
いけ好かない笑顔である。
「同意書にサインしたら教えてあげる」
屈辱。静は、サインした。
手術まで幾日か間があるはずだ。その間に舌を噛み切って死んでやる。
「なんて言ったか、教えなさい」
サインを殴り書きした紙を、爪に押し付けて言った。
「この紙どおりの事。何があっても生きてほしい、と。娘が生きることだけが私達の望みです。以上」
ヒラヒラと静の前に紙をかざし、小馬鹿にしたように笑う。
「ああ、そう。もう一人にして」
ここは、静が手術を受ける前まで過ごす独房である。
「悲しいね。君たち親子の間には理想の絆があるのに、願いは真逆だ」
「そんな事は、あなたに言われる筋合いじゃない」
「そうだね。じゃあこうしよう。これ、貸してあげる」
そう言って、爪は独房の小さな机、静の眼の前に六発式のリボルバーを置いた。
「僕を撃って、逃げれば良い」
「なんですって?」
静はすぐに思い至った。
暴発するように仕組んでいるに違いない。そうまでして、静の命を、冒涜したいんだろうか。
「ためらう理由なんか無いはずだろ。僕が、銃に細工をしてようがしていまいが、君は死にたい。僕が嘘つきじゃなくてただのバカなら、君はタダで親の敵が討てるんだ。拳銃一丁じゃさすがに逃げる事は難しくだろう。でも、道連れは増やせる。どちらにしても、この絶体絶命の状況ではオトクな話だ」
「・・・・・・」
静が黙って拳銃を見つめてばかりだと、
「そう。じゃあもうイイよ」
と、爪が拳銃に手を伸ばした。
反射的に静はグリップを握りしめた。
「ひねくれ者だな」
そう言う爪は楽しそうだった。
「手が震えている。両手で持った方が良い。シングルアクションにしてあるけど、素人には、その方が安全。撃鉄を起こして引き金を引くだけ」
「死にたいわけじゃない。殺したいわけでもない」
人の命は、どんな天秤にもかけてはいけないものなのだと、両親から繰り返し教わった。泣いてなるものか。この冷徹漢の前では。静は歯を食いしばった。
「そう、じゃあ、自分で考えて、生き残る可能性の高い道を選びな」
爪の声音は優しかった。
「私は」
お前たちの言いなりになるのが、癪なのだ。そう言いたいのにことばにならない。嗚咽を堪えるのに精一杯で、声が出てこなかった。
「よく考えなよ?記憶を無くしても、死ぬわけじゃない。それに、君はたぶん思い出すよ」
「・・・どうしてそんな事言えるの。あなたに、何が分かるの。全て忘れてしまう。あなた達が奪う」
「別に。根拠は無いけど、君は尊敬する両親の教えですら、忠実に守ろうとはしなかっただろ。学校でだって、なんでも知ろうして、その知識を、自分のやりたいようにやるのに、使うんだろうさ」
「知ったふうな口を聞かないでよ」
「そうか。じゃあ、とっとと口をふさぎな」
そう言って爪は、数秒待ったが、尚を逡巡する静から簡単に拳銃を奪い取った。
「腐ってないで、勉強しなよ。死ぬのも殺すのも、大した事じゃない。でもねぇ、やってから学ぶのじゃ、遅いんだ」
爪は軽やかな足取りで出て行った。どこまでも人をナメた態度だった。
「アナタを、殺してやりたい!」
静は叫んだ。
魂からの叫びだった。
格子戸に鍵をかけても尚、爪はニヤニヤ笑いをやめなかった。
「待ってるよ」
静は机を乗り越え、七海が持つ拳銃に手を伸ばした。爪が静にしたように、撃鉄を抑えた。
残弾は最大で3発。
撃鉄は既に起こされていた。
七海の腕を絡み取り、銃口を下に向けさせた。
パアン。
空薬莢が飛び出て、静の太ももを軽く炙ったが、構っていられない。
視点が変わって、分かった。
やはり弾は6発込められていた。
あと2発。どうする?七海はがむしゃらに抵抗して、静を振りほどいた。
パアン。
よろけた七海の発砲、意図したものでは無いらしく、弾は、戸の窓ガラスを突き抜け向かいの壁にめり込んだ。
あと一発。
七海は笑顔だった。
銃口は静に向けられていた。
「アナタが私の気持ちに応えてさえくれていたら」
「七海・・・お願いだから、やめて!」
静は七海が嫌いだった。
血まみれで床に伏している俊郎にだって、恋愛感情は無かったかも知れない。
けれども、死にたいわけではないし殺したいわけでもなかった。それは皆同じで、彼らの狂気を止めたいと心から願っていた。それは七海も、同じなはずだ。
「ねえ、私を殺しても、あなたは」
「さようなら。〇〇によろしく」
七海は、爪に、神々しい名前を付けていた。
「七海、やめて」
七海は、最後の残弾を自分のこめかみに向けて、撃った。脳漿と赤い血が四方に飛び散り、七海は倒れた。
俊郎と七海。ミステリー研究室は、一瞬で血の海と化した。
「うっ」
美香はそれを見て、おええ、と床に吐いていた。
「はあ・・・ひどい匂い。もう、最悪、最悪。それで、課題はどうなったの?これでいいの?」
一瞬で血の海となった凄惨な部室に、静は呆然としていた。この世界では、美香が普通なのだ。そして、静には、今やその感覚が、全く理解できなくなっていた。
スピーカーから流れてくる声は、「生きている者は即時退出」と言った。
「答え合わせをしましょうか」
爪は、カウンセリングルームで、静と向き合っていた。
「まあ、概ね君の考えていた通り。君は、エリートクラスにいながら、上層部から嫌われた、排除対象だ。無能だと。そういう嫌われ方なら別に、問題ないけれど。僕だって保身ばかりで無能な同僚にはイライラする。そうではなくて、君がダメなのは、無能だからじゃない。なかなか過激で、華のあるところが、一部の人を魅了して動かす。それがもう、放っておくには危険だと認知されている。今、『排除』の実権を握っているのは、僕。卒業までに君を殺さなくちゃいけない。以上」
「・・・もうめちゃくちゃ。 七海は死んだ。俊郎も助からなかった。私を助けてくれるんじゃなかったの?」
「そんな事言ったっけ?忘れた」
「爪が、七海に薬や銃を渡して、唆したんでしょう。私を試すためだけに、どうしてこんな酷いことするの。なんで平気なの」
「なんでかな。忘れた」
「アナタ、最低よ。私達が従順なのが気に入らないって、わざとハチの巣をつつく様な真似」
爪は、パッと笑顔になり、言った。
「そう。そうだよ、静。学校に舵を取られて、教育の権利と義務を履き違えながら、仲間が殺されているのに、それすら気付かず生きている生徒なんて、見ていても、面白くもなんともない。管理っていうか、餌付けだ。だから、君はどうするのか、知りたい。ねえ、僕も昔、死に損なった。生き残る可能性を提示されては、それに賭けるしかない。君は、これからどうする?僕の仕事は、君たちの管理だ。けれどここでは、懐かしい友達の面影を見ることがあって、とても苦しいことがある。ねえ、君は生きるよね?まだ、死ねないはずだ」
「・・・」
「諦めてしまうとね。僕には殺すしかなくなる」
「最低よ。あなた、最低。下劣。悪趣味」
「ごめん。死んで詫びよう」
「やめて。死ぬとか殺すとか、もうウンザリ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「静」
「分かってる。もうアナタに説教されるのもウンザリなのよ。爪のやっていることは最低だけど、私は今、それをどうこう言っている場合じゃない。考えてるだけだから。邪魔しないで」
「その意気だ。静」
ここはウサギの校舎。
私はウサギ。生きる本能に従いながら、好奇心に歯止めがかからず罠にかかったウサギだった。神も仏もない世の中で、ここから逃げるために、自分の学びを邪魔されないために、頭を働かせなければならない。
