【人事担当者向け】退職代行から連絡がきたときの対処法
こんにちは、日本綜合社会保険労務士法人の山田です。
ある日突然、あなたの会社の電話が鳴って……
「〇〇(従業員名)様の退職手続きの件でご連絡いたしました。わたくし、退職代行サービスの△△と申します。本日より残っている有給休暇をすべて消化し、〇月〇日付で退職させていただきます。業務の引き継ぎは行いません」
人事担当者の皆様、このような連絡が来たら、どう対応しますか?
「引き継ぎなしなんて、あまりに無責任だ!」
「有給を全部消化するのは仕方ないとしても、会社の損害はどうしてくれるんだ!」
もしかすると驚きや戸惑いを通り越し、そんな強い憤りを感じるかもしれません。
しかし、退職代行からの連絡はもはや特別なことではありません。冷静に、法的に正しい手順を踏み、そして何より「事前の備え」をすることで、トラブルと損害を最小限に抑えることが可能です。
そこで今回は、突然の退職代行からの連絡に対する実務フローと、会社の重要なリスク対策となる就業規則の活用法までを徹底解説します。
「退職の意思」と「有給取得」は労働者の権利

最初に持つべき心構えは、「退職代行は、従業員の法的な権利を主張するための『使者』である」という認識です。
労働者には「退職の自由」と「年次有給休暇の取得」という、法律で保障された強い権利があります。
退職代行を通じて伝えられたとしても、その意思表示は法的に有効であり、会社は原則として拒否できません。
ここで感情的になるのではなく、まずは冷静に相手の要求を整理することが重要です。
初動対応でつまずかない!最初に確認すべき2つのこと
退職代行から連絡があったら、以下のステップで対応を開始します。

Step①相手の身元(委任状)を確認する
本当に従業員本人が依頼した正規の代理人(または使者)なのかを確認することが全てのスタートです。
「〇〇さんから退職に関する委任を受けているとのこと、承知いたしました。大変恐縮ですが、ご本人様からの委任状をメールかFAXでご送付いただけますでしょうか」
委任状が確認できるまでは、具体的な話を進める必要はありません。「確認でき次第、こちらからご連絡します」と伝え、一旦電話を切りましょう。
Step②退職の意思と有給取得の申し出を「受領」する
委任状が確認できたら、退職の意思と有給取得の申し出を会社として正式に受け止めます。
「委任状、拝見いたしました。〇〇さんの退職の意思、および有給休暇取得の申し出、確かに承りました。今後の事務手続きは、御社を窓口として進めさせていただきます」
本人への直接連絡は絶対に避けてください。トラブルを最小限に抑える鍵です。
全ては「代行業者」経由で。退職手続きの実務フロー
ここからは、退職代行業者を「従業員の窓口」と位置づけ、淡々と事務手続きを進めていきます。退職手続きの実務フローは以下のとおりです。

① 有給休暇の残日数を確認し、退職日を確定させる
従業員の有給休暇の残日数を確認します。
会社には事業の正常な運営を妨げる場合に有給の取得日を変更させる「時季変更権」がありますが、退職予定日を超えて時季を変更させることはできないため、退職を控えた従業員の有給消化は、会社は拒否できません。 これが法律の原則です。
② 貸与品の返却
PC、スマートフォン、社員証、制服、健康保険証などの返却リストを業者経由で本人に伝え、郵送での返却を依頼します。
③ 退職関連書類のやりとり
離職票や源泉徴収票の送付、退職届の受理なども、すべて代行業者を通じて行います。
④ 業務の引き継ぎ【ここが最重要のリスク対策ポイント!】
「引き継ぎ拒否」は、会社にとって最もダメージの大きい問題です。ここで泣き寝入りしないために、事前の「就業規則」の整備が決定的に重要になります。
就業規則に何を定めるべきか?
就業規則の退職に関する項目に、以下の2点を必ず明記しておきましょう。
◎退職時の引き継ぎ義務
「退職する従業員は、会社の指示に従い、業務の引き継ぎを誠実に行わなければならない」
◎引き継ぎ拒否に対する懲戒処分
「正当な理由なく前項の引き継ぎ義務を怠り、会社に損害を与えた場合は、懲戒処分の対象とする」
なぜこの規定が有効なのか?
労働者には、労働契約上の信義則として「引き継ぎを行う義務」があります。
上記を就業規則に明記することで、この義務を明確化し、正当な理由なき引き継ぎ拒否が「服務規律違反」であることを会社として示すことができます。
これにより、以下のような対応が可能になります。
◎退職金の減額・不支給
退職金規程に「懲戒解雇の場合は退職金を減額または不支給とする」と定めてあれば、悪質な引き継ぎ拒否に対して退職金の支払いを一部または全部拒否する正当な根拠となり得ます。
◎損害賠償請求の根拠
実際に損害賠償請求を行うハードルは非常に高いですが、就業規則違反という明確な根拠があることで、会社としての主張の正当性が格段に高まります。
実際の対応フロー
就業規則に規定があったとしても、現実には十分な引き継ぎは期待できません。しかし、会社としては「引き継ぎを正式に要求した」という事実を残すことが重要です。
◎依頼方法
最低限必要な引き継ぎ事項(ID/パスワード、データ保管場所など)を文書でリスト化し、「就業規則第〇条に基づき、業務の引き継ぎをお願いします。
ご対応いただけない場合、同規則〇条に基づき懲戒処分の対象となる可能性があります」と一文を添えて、退職代行業者経由で回答を求めます。
この一手間が、会社の権利を守るための重要な布石となります。
これだけはダメ!トラブルを招くNG対応

なお、退職代行から連絡がきた場合、以下の対応はトラブルを招く恐れがありますので控えてください。
本人や家族への直接連絡
有給休暇の取得を拒否する
感情的に「損害賠償だ!」と騒ぐ
離職票の不交付などの法的に義務付けられた手続きを怠る
まとめ

退職代行からの連絡は、もはや他人事ではありません。
重要なのは、①慌てず、②相手の身元を確認し、③法律と就業規則に則って、④淡々と事務処理を進めることです。
そして何より、将来のリスクに備え、就業規則に「退職時の引き継ぎ義務」と「違反時の懲戒処分」を明記しておくこと。これこそが、会社の秩序と利益を守るための最強の防衛策です。
これを機に、全ての従業員が安心して働ける、そして万が一の際にも円満に手続きが進められる職場環境とルールづくりを、ぜひ進めてみてはいかがでしょうか。

