【今週の1本】 「赤とんぼはパンの匂いを知らない」 もへさん
泥で汚れた軍手を外して空を見上げた。
秋の高い空が、夕暮れのピンク色に染まり始めている。
稲刈りの終わった田んぼが、静かにその景色の一部になろうとしている、
赤とんぼが一匹、目の前を静かに横切って行った。
小さい頃の夕焼け空はもっとオレンジ色だった気がする。今は、この季節でも日中は汗ばむくらい暑かったり湿気があったりするからなのか。
ばあちゃんと、家の縁側で見た赤とんぼ。飛び方が面白くて、俺はずっとそれを見ていたのを覚えている。
「尚人ー!けぇるべ!」
軽トラを回してきた兄さんが俺に声をかける。
「あぁ、ありがと兄さん」
少しだけ長靴の泥を落として助手席に乗り込む。運転席には米は乗っていないのに、刈り立ての稲と米の香ばしい匂いが鼻をくすぐる。
「いやぁ、この季節が来ると本番って感じと今年も終わりだ!って感じがするな。疲れたべ尚人。初めての稲刈りの季節」
「いや、パン屋でこき使われていた時より自然な感じがするよ」

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編集部より
夢を追って、敗れて、また立ち上がる。
この間まで無職だった私にブッ刺さる作品でした。
とても丁寧で優しい物語ありがとうございました!
