【応募作品】焚き火 のぞみ(虹色創作部)
僕、宮森 翔太(みやもり しょうた)、十四歳。
僕の吐く息は、凍てつくようなノルウェーの夜気の中で、白く濁っては消えていく。
中学二年生になったばかりの頃、一度だけ体調を崩して学校を休んだ。
その日から、なぜか僕の足は学校へ向かうことを拒否するようになった。
きっかけは、自室のベッドの上で、ただぼんやりと眺めていたテレビだった。

画面いっぱいに映し出されたオーロラの特集。
僕のモノクロだった世界に、突然、鮮やかな緑色の光が差し込んできたようだった。
心を奪われた僕は、すぐにパソコンを開き、「オーロラ」について夢中で検索した。
その神秘的な光の画像に目を奪われていると、背後から母さんの静かな声がした。
「綺麗なオーロラね、翔太」
母さんは僕の部屋に入ってくると、隣に座ってしばらく一緒に画面を眺めていた。
そして、リビングにいる父さんに向かって、弾んだ声でこう言ったのだ。 「ねぇ、お父さん。私たちも、オーロラを見に行きましょうよ」
その夜、リビングの暖かい光の下で、久しぶりに家族会議が開かれた。
僕が「でも、お金とか……」と口ごもると、父さんは僕の目をまっすぐに見て、力強く笑った。
「翔太の顔が、久しぶりにそんなに輝いたんだ。こんな時にお金を使わなくて、どうするんだ」

最近、会社の経営が苦しそうだったのを僕は知っていた。
けれど、父さんの言葉に嘘はなかった。
こうして僕たちの、オーロラを目指す旅が始まったのだ。
そして今、僕は、あの画面の向こうにあった場所に、本当に立っている。
バンガローの庭の真ん中でぱちぱちと燃える焚き火が、僕たち家族を暖かく照らしている。
そして、ふと夜空を見上げると───息をのんだ。
言葉にならないほどの、巨大な光のカーテンが、満天の星空を舞台に、静かに、そして雄大に揺らめいていた。
果てしなく広がる夜空で、あんなにも自由に、美しく形を変え続けるオーロラ。

それに比べて、僕はどうだ。
自分の部屋の、ベッドの上という小さな世界で、ずっと同じ場所に立ち止まっていた。
(こんなに広い世界があるのに)
焚き火の温かさと、頬を刺す冷気が、生きていることを実感させる。
(このオーロラみたいに、僕ももう一度、動いてみたい。自分の足で、前に進んでみたい)
「学校に、行きたい」
それは、誰に言うでもない、けれど今までにないほど力強い、翔太自身の心の声だった。
この凍てつく夜空の下で見つけた小さな希望の光が、彼の止まっていた時間を、きっと溶かしてくれる。
翔太は、オーロラの揺らめきを見つめながら、そう強く信じていた。
作者紹介!
編集部から一言コメント
一歩を踏み出すことの大切さを、あらためて感じました。オーロラを見に行くことで、翔太くんの人生は大きく大きく変わったように思います。オーロラを見に行くという決断によって、彼はテレビの中の映像を、現実の光景として体験しました。行動を起こすことで、写像(映像)が実在に変わるという経験は、何ものにも変え難いものではないでしょうか。自然の偉大さと、人間が持つ潜在能力の無限さを感じます。(馨)
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