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「ああしんど」 池田蕉園(挿絵シリーズ)


 よっぽど古いお話なんで御座(ござ)いますよ。私の祖父の子供の時分に居りました、「三(さん)」という猫なんで御座います。三毛(みけ)だったんで御座いますって。
 何でも、あの、その祖父の話に、おばあさんがお嫁に来る時に――祖父のお母さんなんで御座いましょうねえ――泉州堺(せんしゅうさかい)から連れて来た猫なんで御座いますって。
 随分(ずいぶん)永(なが)く――家に十八年も居たんで御座いますよ。大きくなっておりましたそうです。もう、耳なんか、厚ぼったく、五分ぐらいになっていたそうで御座いますよ。もう年を老ってしまっておりましたから、まるで御隠居様のようになっていたんで御座いましょうね。
 冬、炬燵(こたつ)の上にまあるくなって、寐(ね)ていたんで御座いますって。
 そして、伸(のび)をしまして、にゅっと高くなって、
「ああしんど」と言ったんだそうで御座いますよ。
 屹度、曾祖母さんは、炬燵へ煖(あた)って、眼鏡を懸けて、本でも見ていたんで御座いましょうね。
 で、吃驚(びっくり)致しまして、この猫は屹度(きっと)化けると思ったんです。それから、捨てようと思いましたけれども、幾ら捨てても帰って来るんで御座いますって。でも大人しくて、何にも悪い事はあるんじゃありませんけれども、私の祖父は、「口を利くから、怖くって怖くって、仕方がなかった。」って言っておりましたよ。
 祖父は私共の知っておりました時分でも、猫は大嫌いなんで御座います。私共が所好(すき)で飼っておりましても、
「猫は化けるからな」と言ってるんで御座います。
 で、祖父は、猫をあんまり可愛がっちゃ、可(い)けない可けないって言っておりましたけれど、その後の猫は化けるまで居た事は御座いません。


作者紹介

池田 蕉園(いけだ しょうえん)
1886年生まれ、1917年没。明治・大正期に活躍した日本画家・浮世絵師。東京・神田出身で、幼少より絵才を示し、15歳で日本画家・水野年方に師事。「蕉園」の号を受け、美人画で画壇に登場。感傷的で叙情的な画風を特徴とし、文展や博覧会で数々の賞を受賞。代表作に『花の蔭』(1907年)、『もの詣で』(1907年)、『やよい』(1908年)、『こぞのけふ』(1916年)など。泉鏡花作品の挿絵や女性誌の口絵も手がけた。夫は画家の池田輝方で、合作も多く「文展のおしどり画家」と称された。結核のため31歳で早世するも、その芸術性と気品ある作風により、近代日本画に確かな足跡を残した。

池田蕉園 wikipediaより

青空文庫より
イラストは晴さん(生成AIで作成しました)


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編集部より一言めも

「ああしんど」ってしゃべる猫、可愛すぎるな?


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