見出し画像

【1分小説】私はレシート蒐集家 シロクマ文芸部

レシートはいい。

その人の暮らしが妙に生々しく刻まれている。何を食べたか、どこへ行ったか、何時に何を買ったか。
想像の余白があるのもいい。
その人の知りたくないところを知らずに、好きに妄想を膨らませられる。

落ちているレシートを見つけると、つい拾ってしまう。保存しておくのは悪い気がして、少し眺めてから捨てる。その短い時間だけ、他人の人生を借りるような気がするのだ。

今日は午前2時過ぎのコンビニでへ出かけた。大体床に一枚くらいレシートが捨てられているから。

そこへ、一人の男が入ってきた。

黒いコートに細身のスーツ、長い足には磨かれた革靴がはまっている。深夜だというのに、髪もワックスで固められている。銀色のメガネに切長の目が映える。こんな時間のコンビニにはあまり似つかわしくない。

男は迷いなく商品を選んで会計を済ませた。財布を尻ポケットに差し込む。そのとき、一枚のレシートが足元に滑り落ちた。

私はほとんど反射でそれを拾った。もちろん男に声はかけない。

手の中のレシートを見る。

缶ビール二本。プリン。いちご味の小さなヨーグルト。

思わず、さっきの男の顔を思い浮かべた。

あの隙のない横顔と、いちごヨーグルとの組み合わせが、妙にかわいらしくておかしかった。恋人のためかもしれない。子どものおやつかもしれない。いや、案外、本人が甘党なのかもしれない。人は見た目では分からない。そういうことにしよう。

私は静かに妄想を広げる。

家に帰ると、男は袋から、いちごヨーグルトを取り出して、小さなプラスチックの蓋をはがし、無表情のままスプーンですくう。小さなプラスチックのスプーンだ。その一瞬だけ、男はやっと自分の顔に戻る。
甘いものを食べるのは今日を終えるため、自分のための儀式なのだ。

食べ終えた男は空の容器をゴミ箱に丁寧に入れて、また何事もなかったようにシャワーを浴びて、きちんとパジャマを着て、隙のない姿でベッドに入る。そうに違いない。

さっきコンビニで買ったカップ焼きそばを頬張りながら、私はそう思った。

宣伝!コラボのためのアプリ作ったよ

本日はくらしのつららさんからサムネイラストをお借りしました!
イラストとエッセイが織りなす世界観が素敵です。


いいなと思ったら応援しよう!