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【ショートショート】あざとい以外の武器がない 片思い文芸部

婚活パーティーの会場に足を踏み入れた瞬間、しのぶはあざとさを全身に身にまとう。笑顔は長めに、分からないことがあれば首を傾げて、食べ物は必ず両手で口に運ぶ。真っ白のシャツワンピース、緩く巻いた髪、身長が高く見えないように滅多に履かないバレリーナシューズ。「男ウケがいい」だけを目指した投げやりなファッション。あざとさの効果はテキメンで、婚活パーティーではいつも誰かから好意を寄せられるようになった。

あと3ヶ月で30歳。2歳下の妹は3年前に結婚して、すでに2人の子供がいる。焦りから結婚相談所とマッチングアプリに手当たり次第に登録した。早く結婚したいという気持ちは日に日に高まっている。

今話しているのは金色の時計を身につけた経済力が自慢の男性。45歳、年収3千万、都内のタワーマンション、軽井沢に所有する別荘。話を聞くに、どうやらすごい人らしいが、どうにも私には遠い世界のように感じてときめけない。

「しのぶさんはどういう男が好みなんですか?」
自分の考えが出てくるより先に、母の「経済力のある人を選びなさい」の声がこだまする。うまく答えられなかったが、彼からその後も何度も話しかけられた。多分私をある程度好きになってくれているんだろう。

好きなタイプ?例えば、向こうで女性に食事を取り分けている彼。さっきは私のあざとい仕草が全く通用せずずっと困ったような顔をしていたが、今は楽しそう。趣味はダイビング、テニス、ダーツと内向的な私とは真逆の性格で、いい話題がずっと見つからなかった。

それでも、食事を持ってきてくれたり、私が好きな小説を調べてくれたり、私との時間を精一杯盛り上げようとしてくれたことが嬉しかった。誰に対しても優しい人なのだろうと思う。

マッチングの時間。こっそりと彼の名前を書いて、提出したが、当然不成立。彼の方も、不成立のようで気の毒に感じたのと同時にちょっとだけ安心した。

会場を出ると、先ほど少しだけ降った雨が昼間の熱気を取り去ったようだ。公園で雨上がりの舗道に反射したネオンを眺めていると、彼が自動販売機の前に立っているのが目に入った。何を買うのだろう、おいしい水?三ツ矢サイダー?、それとも十六茶かな。

カルピスウォーターをそっと取り出す彼の姿を見て、めちゃくちゃに可愛いと思った。男性を可愛いと感じたのは多分初めてだ。

誰かが言っていた。男の仕草を見て、可愛いと思うならそれは「沼にハマってる」ってこと。絶対逃しちゃいけないと。

自販機の周囲を蛾が舞っている。どんどん中身が減っていく彼のペットボトルを見つめながら、どう話しかければ自然かを必死にシミュレーションしていた。


一言

年収三千万円と軽井沢の別荘は嘘。


ずっと応募したかったのだけれど、ようやくお題に沿った話が思いつきました!


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