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【読者連動】アトラと虹色の本① 夕焼け色

「あー、つまんない」
部室の机の端で肘をついていた文野アトラは周囲の女の子たちに聞こえないように口だけを動かした。
文芸部に入部して1ヶ月。部員はみんな黒いメガネをかけた前髪が目にかかりそうな女の子たち。男の子は幽霊部員が一人だけ。青春が始まりそうな気配は全くない。

「昨日のWIND BREAKER見た?」
「まだ!あれネトフリにあったっけ?」
「あるよ!絶対見て」

話題は漫画とアニメばかり。
机の上に一応、各々が持ち寄った書籍は置かれていたが、彼女らの手が伸びているのはカントリーマアムの袋だけだった。校則で菓子の持ち込みは禁じられているはずだったが、先輩たちは特に気にする様子はなかった。

「県内一番の高校っていってもこんなもんか」
先輩にも同級生にも川端康成もカズオ・イシグロもアニー・エルノーも読んでいる子はいなかった。一人太宰治が好きな子がいたけれど、本の趣味がメンヘラみたいであんまり好きじゃない。
本の話をしようよ。文芸部なんだからさ。

「スイッチ2の抽選結果が気になるからもう帰るね」
よくわからない言い訳をして部室を出た。
自宅に帰ってもやることは特にない。図書室でダラダラと本を読むことに決めた。適当に本を引き出すと、奥にオレンジ色の本が挟まっているのが見えた。いつから押し込まれていたのだろうか、本を触ると指先が埃で真っ黒になった。

奇妙だったのは背表紙にも中のページにも文字が書かれていない。ページ数すらなく、真っ白だった。
一方で表紙には海や花などが描かれるなど意匠はかなり凝っていて、日記帳には見えなかった。
借りられる本なのか疑わしかったが、中には貸し出しカードが挟まっている。

2011年3月10日萩原偲

15年くらい前に誰かが借りたらしい。
ちょっとした掘り出し物を見つけた気分だった。アトラは図書委員に黙ってカードを突き出し、誰にも見られないように本をカバンに入れた。

帰宅後、アトラは、カバンを廊下の隅に放り投げて、無音の玄関を抜けリビングへ向かった。スマホを取り出すと、文芸部のグループLINEの通知が来ていた。
「土曜日、新しくできたクレープ屋に行きませんか?」
すでにたくさんのいいねがついている。
私が三日前に送ったおすすめの本には一つしかいいねがついていなかった。
少し寂しいと感じた自分に驚いた。

冷蔵庫から冷凍食品を取り出し、レンジに放り込む。タイマー音がやけにうるさく感じた。食事を取るのが面倒くさくなって、自室のベッドに寝転がった。しばらく蒲団(田山花袋)を眺めていたが、目が滑り全く内容が頭に入ってこない。

「つまんない」
いやだ。つまらないが口癖になっている。ふと目を落とすと、ベッドの下にオレンジ色の本が転がっていた。
あれ?持ってきたかな」
不思議に思ったが、さらに奇妙なことが起きていた。白紙だったはずのページに文字がびっしりと書かれている。行間は狭く、文字は小さい。昔の本みたいなやつ。

「こわ」
アトラは思わず写真を撮ったが、特に送る相手が思いつかなかった。インスタグラムのフォロワーは3人。写真に写った文字をチラッと見る。夕焼けについての文章のようだ。呪いの手紙ではなさそう。
「まあ、暇だしね」
アトラは本を取り上げ、机に向かった。


イラスト、文 しのぶ


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アトラの設定的なやつ

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