レモンティーの私と、キャラメルマキアートの先輩 馨(応募作品)
昼休み、給湯室で入れたレモンティーが、思ったより苦かった。
たぶん、お湯の温度が低かったんだと思う。けど、なんとなく、それだけじゃない気がした。
第一志望は、最終面接で落ちた。落ち込んだ。それも、かなり。
第二志望は、面接官のおじさんが気持ち悪くて辞めた。
それで、ここ、第三志望の会社に入った。
自分で選んだ道だけど、やっぱり、選ばされた気分になる。入社して1ヶ月だけど、ため息も吐きたくなる。名刺交換、挨拶の仕方などおざなりの新人研修を終えて迎えた配属初日、品川の高層ビルに入るオフィスは思ったよりもにぎやかだった。
先輩たちは明るくて、声も大きくて、お昼には誰かが必ず誘ってくれる。しかも全部奢ってくれる。嫌な人なんていない。
でも、ふとした瞬間、自分のことを見つめて笑っている自分がいるように感じる。「あなた、それでいいの?」って。社会を斜めに見たいわけじゃない。一生懸命に働いている人たちのおかげで、この壊れそうな世界のなかで、この国は、ぎりぎり、なんとかなっている体裁は保っている。

ちゃんと働いて、誰かの役に立って、生きるのは素晴らしいことだと思う。でも、上京するまで来たことのなかった駅のホームで、スーツを着た人たちの中に紛れ込んでいるとき、「私、これでいいんだっけ」って思ってしまう。
そんなとき、教育係だった先輩が辞めることになった。
入社して3ヶ月。毎日となりで、メールの書き方からエクセルの関数まで、本当に細かく教えてくれた人だった。美人で、2人で夜まで飲んだときには、化粧の仕方まで教えてくれた。
先輩の最終出勤日、午後に少し時間をもらって、駅ビルに入っているカフェで2人でお茶をした。照れくさそうに「ごめんね、転職活動していたこと秘密にしてて」
「いや、とんでもありません。ただ驚きました。あと、ちょっと、残念ではあります」
「実はね、資格の勉強してたの。去年からずっと」
甘党の先輩はキャラメルマキアートのストローをくるくる回しながら言った。
「平日は帰ってからオンラインで授業受けていて、土日もだいたい勉強してた。それが報われたかな、って思う」
先輩は、誰もが知る会社に転職してしまう。だからか、先輩の陰口を言っている人もいた。
「平日もですか?すごいですね」
「うーん…でも、やっぱりやりたいことできる人生がいいよね、って思う」
先輩はふふっと笑う。
「新しい会社は8月からだから、7月は海外旅行行くの。ずっと勉強しかしてなかったから、お金貯まったし、パーっと使っちゃおって思ってさ。最後にこの会社からボーナスもしっかりいただくし」

羨ましいなと思いながらも、頑張った先輩にはちょうどよいご褒美なんだとも思う。
「ね、だから、あんたも頑張りなさいよ」
先輩はなんだか、本当に私のお姉さんみたいに思えてくる。たぶん、この3ヶ月で、私のことわかってくれていたのだろう。私も頑張ろう。先輩みたいに。そう思った。
作者:馨
イラスト:はるさめとも&晴
編集部よりひとこと
「転職」をテーマにした投稿企画に応募いただきました!上記の小説みたいな感じて、皆さんから応募いただいた小説や短歌、エッセイにイラストをつけます!
今週の募集テーマは「旅」。
下記をチェックして、#nijiclipとつけてnoteに投稿してみてね!こちらから投稿を検索して、イラストをつけさせていただきます。
おまけ
「美人な先輩、地中海リゾートでバカンス、ロイヤルブルーのワンピース、日本のアニメ風」でGeminiが考えついた代物。なんじゃこりゃ。

