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未完成を可能性に変える場所PYNTの「GARAGE」展示から生み出す共創の芽

日建設計の共創プラットフォーム「PYNT(ピント)」は、「さまざまな専門性や課題意識をもつゲスト」と「建築や都市の専門家」をつなげ、まちの未来に新しい選択肢をつくることを目指しています。noteでは、PYNTの日々の様子から進行中の共創プロジェクトまで幅広い情報発信を行っています。
今回は、PYNTの「GARAGE(ガレージ)」という展示システムに参加する3つのプロジェクトの担当者に話を聞きました。

「GARAGE」は完成された成果を披露する場ではなく、未完成の取り組みやプロトタイプを展示し、訪れる人々からフィードバックを得たり、共感する仲間を見つけたりする、共創のための実験的な場所です。展示内容は社内からの公募で定期的に入れ替わり、それぞれのプロジェクトが次のステージへ進むための接点を生み出しています。
この場を通じて何が生まれたのか、どんな可能性を感じているのか。3人それぞれの言葉から、GARAGEが持つ意味が見えてきます。

参加者
板谷 萌絵日建設計 企画開発部門プロジェクトマネジメントグループ
仙福孝太朗日建設計 DDL(Digital Design Lab)
木村 征也日建設計 エンジニアリング部門 構造エンジニアリンググループ所属・構造コンサルティング部

モノを傷つけずに継ぎ合わせながら使う

仙福孝太朗|TUGHUG(継具接具)

仙福が取り組む「TUGHUG(継具接具)」(読み:つぐはぐ)は、誰でも簡単に強固な結束ができる「TUGHUGバンド」を使い、モノを分離可能に繋ぐ手法を提案するプロジェクトです。接着剤を使わずモノを傷つけずに繋ぐことで、あらゆる素材を繰り返し新たな用途へ「適応」させていくデザインを目指しています。

モノの「あとを継ぎ」自在に「繋ぐ」

――このプロジェクトについて教えてください。

仙福:ある役割を終えたものの「あとを継ぎ」、異なる素材や形を自在に「繋ぐ」。 モノが持つ背景を受け継ぎながら、今の私たちに必要な「空間」へと組み替え、役割を終えたらまた解いて、次の環境に合わせて形を変えていくことを目指しています。 一度きりで終わらせるのではなく、変化する状況に合わせて何度でも適応し続ける、よりフレキシブルで自由な循環のあり方を提案したいと考えています。
その実現のために、釘や接着剤を一切使わず、解けば元に戻る「非破壊・再利用性」を実現する独自のバンド機構(特許出願中)を開発しました。これなら、素材を傷つけず、次の使い道を閉ざすことなく使い続けられます。

写真1 展示しているTUGHUGバンド

――どういう経緯でGARAGEに展示することになったんですか?

仙福:最初は、毎週水曜の夜に開催される「PYNT BAR」に合わせてプロトタイプを展示したのが始まりでした。それが好評で、そのまま常設展示として置かせてもらえることになりました。
そうしてGARAGEで実際にモノを見て、触れてもらう機会を作っていたところ、そこでの反響や出会いがきっかけとなり、「Good Design Marunouchi」での企画展(『視点の拡張譜』展)にお声がけいただきました。
まずは身近な場所で実物を体験してもらったことが、結果として出展という次のステップに繋がったんだと思います。

写真2 仙福 孝太朗

――展示を通じて感じた課題はありますか?

仙福:3Dプリンターを用いて作成しているので、既製品のような材料規格や強度が保証されていないのが現状で、そこが社会実装における一番のハードルです。
展示品として見せている限りは、いつまでも「実験」の域を出られません。この壁を越えるためには、前例のない挑戦に対して勇気を持ってプロジェクトを共創してくれるパートナーの存在が不可欠だと感じています。

――具体的にはどんな方々でしょうか?

仙福:たとえば、イベント主催者の方には、仮設什器や空間演出として実際に使ってみてほしいですね。また、TUGHUGバンド自体の製品化に向けて協力していただけるメーカーの方とも繋がりたいと考えています。
また、こちらは商品名「TUGHUGバンド」(巻きつけるだけで縛れるバンド)としてテレビ番組でも最近紹介いただきました。今後もこうして知っていただく機会を作りつつ、作り手、使い手、そして素材の供給者──様々な立場の方々と接点を持ち、社会実装への道を一緒に切り拓いていきたいですね。

建物が建った後も設計者として関わり続けたい

木村征也|ダイレクトモニタリング(愛称「なまず」)

構造設計部の木村が手がける「ダイレクトモニタリング」は、地震後の建物の損傷を即座に検知し、迅速な復旧につなげる構造モニタリングツールです。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻の鋼構造研究室・伊山潤教授と共同開発し、建物の柱や梁の"ひずみ"を直接センサで測定することで、従来の目視では難しい、仕上げで覆われた構造部の損傷を検出できます。親しみやすい愛称として「なまず」と呼ばれています。

写真3 なまずの絵が映えるダイレクトモニタリング展示風景

「建てて終わり」への違和感から始まった

――このプロジェクトは、どんなきっかけで始まったのでしょうか?

木村:僕は構造設計を担当していて、建物の耐震設計や安全性に関わる部分を決める仕事をしています。他の設計者もそうだと思うのですが、一度建物を設計してしまうと、それが建ったら終わり、ということが多いんです。意匠設計者だったら雨漏りに付き合ったり、設備設計は機器の更新でずっとお付き合いすることもあるのですが、基本的には建ったらかっこいい建物ができて雑誌に載って終わり、というのが多くて。
僕が関わっている構造設計は「いつ大きい地震が起きるかわからない。」「わからないからお金かけたくないから一旦放置」というような話がずっとあります。でも最近、地震が多く起こっているでしょう。能登もそうだし、熊本もそうだし、山陰地方も。そこで自分の身近にいる人が結構被害にあっていて、怪我をしたり亡くなったりすることもありました。
そんな経験から、かっこいい建物や優れた建物を作り出して雑誌に載って終わりというのは、なんか違うと思いました。設備設計がやっているように、構造も地震が起きた後、建物が建っている限りは大きな地震が来るかもしれないから、建物が地震を受けた後の復旧や、人が早く使えるようリカバーすることに取り組みたいと考えました。
ダイレクトモニタリングは、具体的に建物のどこがどう壊れているかを検知する仕組みです。どこがどう壊れているかがすぐわかると、すぐに修復・復旧につながっていきます。建物が建って終わりではなくて、建った後に来る地震の後までずっと関与できるし、そもそも設計者はそこまで関与しなきゃいけないと思っています。
ダイレクトモニタリングはそれができるツールなので、まずは社内に理解して欲しかった。構造設計は、よくわからない部門で小難しいことやっていて、とにかく安全安全ってコンサバなチームのように思われているので、僕達も一般の人々のことまで考えているということをわかってほしくて。小難しいこともありますが、とにかくキャッチーにしないと誰も見てくれないと思い、地震から想起されるアイコンである「なまず」と愛称をつけました。

写真4 木村 征也

――それでPYNTのGARAGEで展示することにしたんですね。

木村:ちょうどPYNTが立ち上がった頃、構造の展示がひとつもなかったので声をかけられました。受け入れられるかどうかわからなかったのですが、ダイレクトモニタリングの話をしたら「すごくいい」とすぐ賛同してくれたんです。ここは社会共創の場であり、ニーズや社会課題を共有して、多くの人々と新しいサービスや技術を開発していく一個前のステージだと言ってくださいました。それで、あっという間に場所を貸してくれたのです。

――展示を通じて、どんな反応がありましたか?

木村:メーカーやデベロッパー、工場を持っているオーナーさんといった方々との接点が生まれました。正直、自分一人ではつながるきっかけなんて無かったと思います。
ダイレクトモニタリングは、設計時から地震時・復旧までを一貫して支える「性能設計」から「NSmosⓇ(地震時建物被災度判定システム)」、そして「ダイレクトモニタリング」という流れの中に組み込まれていて、建物の機能維持とライフサイクルコスト最適化に貢献するシステムなんです。日建設計はこれをレジリエンスサポートサービスの一環として実用化・商用化を目指しています。
実は防災科学技術研究所の余剰空間貸与制度を活用して、10層鉄骨造オフィス試験体でダイレクトモニタリングの検証を実施していて、PYNTでも検証を継続しています。こういった具体的な取り組みを見せることで、訪れた方々が「こういう使い方もできるんではないか」と新しい視点を提供してくれることもあります。
ただ、まだまだ課題はあります。地震後の復旧に関する指針や制度がまだ整っていません。国の研究機関や省庁と連携して、標準化や指針、いわゆるルールメイキングを進めていかないと、社会的な普及は限定的になってしまう。そこにPYNTが橋渡しの役割を果たしてほしいと思っています。

――今後、どんな方々とつながりたいですか?

木村:まだ私が気づいていない課題や可能性を気づかせてくれるような方々と出会いたいです。
例えば、保険会社の方々。リスク評価をしている彼らにとって、地震後の建物の状態を即座に把握できるセンサリング技術は、地震保険のサービス設計に活かせるはずだと考えています。あるいは、サプライチェーンの一角として生産工場を持っている企業のオーナーさん。工場の維持管理に投資家から資金を調達する際、「地震が来ても早期復旧できる仕組みがある」という安心材料があれば、投資判断にもプラスに働くと思います。
いち構造設計者、いちエンジニアには、そういう方々と会うツテが何も無い。会ったことはないけれど、おそらく必要だと感じてくれそうなステークホルダーと出会いたい。PYNTがそういうきっかけを作ってくれる場になったらいいなと思っています。

難民キャンプを日本の組織設計事務所から考える

板谷萌絵|GLONS 国を超えた居住と移動を考える会 Global Nestscape Planning Studio

私たちは、気候変動、政治体制、歴史、民族や宗教の対立、南北問題、貧困問題など複合的な要因により国境を越えた移動を強いられる人々の「居住/定住」を、建築・都市計画・エンジニアリングの専門性で横断的に捉え直す社内の有志団体です。今後、世界で強制的に居住地を追われる人々の数が増える中で、「居住/定住」の問題は、建築・都市分野と密接な関係にあり、私たちは、Planners, Architects, Engineersとして難民・移民・多文化共生問題に取り組んでいます。

写真5 難民キャンプやシェルターを考えられる、GLONSの展示風景

――このプロジェクトは、どのような経緯で始まったのでしょうか。

板谷:これは、人権や環境問題への問題意識を持つ私たちが、自己研鑽として始め、PYNTで出会った仲間とともに育ててきたプロジェクトです。例えば「建築組織設計事務所と難民」と聞くと、かけ離れた遠い存在に感じますが、難民キャンプって実は小さな都市をつくる行為に近いんです。1人あたりの面積基準や避難生活に必要な機能を見える化することで、実際の支援計画につながる。実は建築・都市計画の知見をもっと生かせる分野なのではと思っています。
私たちが支援の対象としているのは、大きく分けて2つです。1つ目が、実際の難民キャンプなどに対する「海外現地支援」。これまで、難民キャンプ、シェルターに対する都市計画や、土木、建築視点でのアイディアソンなどを実施してきました。2つ目が「国内支援」。先進事例紹介のトークイベントなどを通して、日本における多文化共生まちづくりに対してできることを検討してきました。

――GARAGEでの展示は、どんな反応でしたか?

板谷:触れる展示やワークショップで、身近に理解してもらえるようになりました。日本女子大学の教授やケニアで活動している方、学生さんが来てくださったり、日建設計のファミリーデーでは子ども向けの色塗り体験をやったり。社内外に「日建設計が難民領域に関与してるの?」っていう新鮮な認知が広がったのは大きかったですね。
展示は、テント配置を自由に試せる模型エリアを設けて、来場者が「自分が現場担当者だったらどうするか?」を思考・体験できるようにしました。ポストイットでアイデア投稿ができる仕組みも用意して、提案や質問、改善案をいただけるようにしました。

写真6 板谷 萌絵

――今後の課題は何でしょうか?

板谷:まだコラボレーションフェーズで、具体的な案件化までは距離があります。CSRやブランディングとしての評価軸が社内に定着していないので、もっと経営企画や上位層の関与が増えるような取り組みをしていきたいと考えています。
日建設計の仕事はプロジェクトベースで、基本的にはクライアントさんがいて初めて仕事になります。でも、世の中ってクライアントがいない活動はたくさんあるはず。これをやることがビジネスはもちろん、ブランド価値向上にも繋がっていくということを伝えられるよ うにしたいと思います。

――今後、どんな方々とつながりたいですか?

板谷:大学・NPO・国際機関とつながることで、共同実験やワークショップの継続と将来的には案件化がしたいです。また、公営住宅など、国内の多国籍住民の居住課題もリサーチ活動を本格的に進めています。建築分野にこれらの民族や人権に関する課題に明るい人は多くなく、掛け合わせるとニッチな分野になるので、GARAGEでの展示を通して業界先行事例や人とのつながりを構築したいです。地球上で最も困難な状況に置かれた人々に少しでも良い都市環境・建築環境を提供したいという思いは、建築に携わる人ならきっと一度は持ったことがあるはず、、、!そんな思いのある人を探しています。
ひと昔前なら環境問題のためにコストをかける企業は少なかったですが、近年はサステナビリティやSDGsの考え方が当たり前のように普及し、企業の社会的責任にもなっています。多文化共生・難民問題と聞くといまの日本社会ではあまり実感がないと思いますが、きっと10年後、20年後には環境問題への投資と同じように当たり前になってくるはず。今のうちから未来を見越した投資として、一緒に課題解決に立ち向かってくれる方がいればとても心強いです。

GARAGEが組織と社会をつなぐハブになるために

3つのプロジェクトの話を通じて見えてきたのは、GARAGEが持つ「初動の場」としての価値と、そこから次のステージへ進むための課題でした。
社内認知の促進、社外からの来訪者との対話、想定外のユースケースの発見、教育的効果。GARAGEは異分野越境の話題を接続する「ハブ」としてのポテンシャルを持っています。一方で、ルールメイキングや制度接続、実装支援、資金や評価指標、社内の巻き込みに対する機能はまだ十分ではありません。
3人の担当者が共通して語ったのは、「まだ会ったことのないステークホルダーとつながりたい」という思いでした。それぞれのプロジェクトが次のステージへ進むためには、何があると良いのでしょうか。

写真7 談笑する3名

――最後にGARAGEの可能性について教えてください。

木村:GARAGEを通じて、PYNTがもっと多くの可能性を広げていけると感じています。例えば、社内外のインプレッション数や、どんな接点が生まれたかを可視化して、さらに改善していくサイクルを回していけたら。そういう戦略的な活用が進むと、もっと面白いことが起きそうだなと思います。

仙福:日建設計はボトムアップ型の組織で、下からいろんなアイデアが出てきて、それを拾ってくれる社風があります。GARAGEは、似たような思想を持っている人たちを集めて、まとまった形にしていく場としての可能性を感じています。
実際、同業の中でもサステナブル文脈で面白がってくれる方がいて、PYNTで繋いでいただいたことがあります。業界としてそういう価値観を共有して、仲間の繋がりができているのは本当にいいですね。将来のうねりをつくるための布石になっていると思います。

板谷:GARAGEには、こちらの活動を発信するだけでなく、相互作用と偶発性が生まれるホワイトボード的な場所になってほしい。例えば、「こういうプロジェクトやってほしい!」「こんな知識があるから活用したい人募集」みたいな掲示板があったら面白そうですよね。それは下からでも上からでも横からでも、他の会社の人からでもいい。柔らかい段階のアイデアやコンセプトが浮かんでいて、それを見た人が「あ、これ面白そう」って偶発的に繋がっていく。そういう仕組みがあると、もっと可能性が広がるんじゃないかなって思います。

GARAGEは、初動の接点として大きな価値を発揮しつつあります。そして、社会実装や制度化へと進めていくためには、PYNTのハブ機能をさらに強化し、上位層・制度側・未知のステークホルダーへの橋渡しを深めていくことで、より大きな可能性が開けていくでしょう。
「柔らかい段階」のアイデアを可視化し、偶発的な連結を促す仕組み。展示空間を超えて、組織的に駆動する社会創生のエンジンへ。GARAGEは、そんな進化の可能性を秘めた場所です。

まちの未来に新しい選択肢をつくる共創プラットフォームPYNT(ピント)は、「さまざまな専門性や課題意識をもつゲスト」と「建築や都市の専門家」をつなげ、まちの未来に新しい選択肢をつくる"共創の場"。まちと暮らしを自分たちで良くしていくための新たなアイデアや仕組みを生み出します。
GARAGEでの展示にご興味がある方、協業をご希望の方は、ぜひPYNTまでお問い合わせください。

仙福 孝太朗
日建設計
DDL(Digital Design Lab)

2021年日建設計入社。コンピュテーショナルデザインを専門とし、デジタルとフィジカルを横断するデザイン手法の実践に取り組んでいる。近年は、モノを分離可能に繋ぐ「TUGHUG(継具接具)」や、未利用丸太を活用する「擬角材」プロジェクトなどに従事。あらゆる素材をデジタル技術で新たな空間資源として再構成し、社会実装することを目指して活動している。

木村 征也
日建設計
エンジニアリング部門構造エンジニアリンググループ
構造コンサルティング部

大規模複合用途建築物や難工事建築物等、ステークホルダー多数&設計与件が複雑なプロジェクトに多数従事する傍ら、鋼構造建築物の設計法に関する研究開発を推進。2002年、東京工業大学理工学研究科建築学専攻修了後、日建設計入社。構造設計ダイレクター。

板谷 萌絵
日建設計
企画開発部門プロジェクトマネジメントグループ

PM(プロジェクトマネジメント)や設計を担当、ホテルや商業施設のプロジェクトに従事している。2020年、早稲田大学創造理工学術院建築学科修了後、日建設計入社。在学中にブリュッセル自由大学留学(ベルギー)、IAESTE派遣生(ベルギー)、高校在学時にAFS年間派遣プログラムにてアメリカ留学を経験。認定コンストラクションマネジャー、PMP、認定ファシリティマネジャー

まちの未来に新しい選択肢をつくる共創プラットフォームPYNT(ピント)は、「さまざまな専門性や課題意識をもつゲスト」と「建築や都市の専門家」をつなげ、まちの未来に新しい選択肢をつくる“共創の場”。 まちと暮らしを自分たちで良くしていくための新たなアイデアや仕組みを生み出します。

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