見出し画像

個別の課題解決を、社会の新しい価値へ|インクルーシブデザイン研究チームが目指す「当たり前のまちづくり」

日建設計の共創プラットフォーム「PYNT(ピント)」は、「さまざまな専門性や課題意識をもつゲスト」と「建築や都市の専門家」をつなげ、まちの未来に新しい選択肢をつくることを目指しています。noteでは、PYNTの日々の様子から共創プロジェクトまで幅広い情報発信を行っておりますが、今回は進行中の共創プロジェクトについてお伝えします。

「バリアフリー」や「ユニバーサルデザイン」といった言葉が一般的になって久しい現在でも、真の意味で「誰もが暮らしやすい社会」の実現はまだ道半ばと言えます。そんな中、PYNTの共創プロジェクト・FUTURE COLLECTIVES(以下、FC)の一つでもある「インクルーシブデザイン研究チーム」は、従来のアプローチとは一線を画す新しい価値創造に挑んでいます。
2024年から本格的に活動を開始したこの取組みは、従来のバリアフリーやユニバーサルデザインを超え、多様なニーズを持つ当事者の参画プロセス(インクルーシブデザインプロセス)や企業間連携を通じて、社会環境の包摂性を高めること(インクルーシブ化)を目指しています。今回はインクルーシブデザイン研究チームのFCに関わる日建グループ社員3名と、PYNTチームとしてその活動に伴走する1名の4名で、理念と実践、そして描いている未来について話を聞きました。

写真1 左から岡、西、車戸、馬場

参加者
インクルーシブデザイン研究チーム
・西 勇|日建設計 DX・GXセンター デジタル戦略室
・車戸高介|日建設計 都市・社会基盤部門 都市開発グループ
・岡万樹子|日建設計総合研究所 都市部門
伴走社員
・馬場由佳|日建設計 イノベーションデザインセンター

個人のパッションが組織の力に

——まず、皆さんがこのインクルーシブとまちFCに関わるようになった経緯を教えてください。

西: 私自身、大学在学中に事故にあったことがきっかけで車いすユーザーになりました。自分が置かれた状況も影響していると思いますが、それ以降、都市や建築におけるアクセシビリティに関する課題感を強くもつようになりました。日建設計以前には、フロンティア日建設計(※1)に所属していましたが、当時からバリアフリーやユニバーサルデザインに関心をもち、できる範囲での活動をしてきました。一方で、バリアフリーやユニバーサルデザインでできることの限界や、個人でできることの限界を感じていました。
そのような中、2023年12月にイノベーションデザインセンターが主催している、新規事業につながるアイデアを募る社内コンテスト「Wedia(ウィーディア)」があって、今日は参加できていませんが、飯田和哉(エンジニアリング部門)さんらと共同でインクルーシブデザインの取り組みを起案したのが始まりです。その後、Wediaで採択され、PYNTチームの伴走支援も得て、2024年から本格的に会社公認の活動を開始しました。

※1フロンティア日建設計:障がい者雇用を目的として設立された、日建設計の特例子会社。CADやBIM、ファシリティマネジメントなど、幅広い分野でサービスを提供しつつ、インクルーシブデザイン研究チームと連携し、建築や都市づくりにおけるインクルーシブデザインの実践に注力している

写真2 日建設計 DX・GXセンター デジタル戦略室 西 勇

岡: 私は日建設計総合研究所(以下、NSRI)に所属しています。以前からインクルーシブに関心は強かったものの、それを扱う仕事は限られていました。しかし最近、ユニバーサルデザインやバリアフリーのプロジェクトを担当する機会があり、当事者のニーズや実態を把握してデザインしていく、おもしろさ、可能性を、改めて感じていました。
そのプロジェクトがきっかけで、西から「一緒にやろうよ」と声をかけてもらい、この研究チームに参加することにしました。インクルーシブというテーマはビジネスにするのが難しいものの、実証研究を通じて、社会にどう価値を生み出していけるかという活動ができるのは魅力的だと思います。

馬場:私は日建設計イノベーションデザインセンター、つまりPYNTチームに所属しており、Wediaの企画・運営推進も行っていますが、実はインクルーシブは私自身のライフテーマにすごく近いものなので、このプロジェクトに伴走するPYNTチームの一員という立場として関わっています。
私は内閣府防災に出向していた経験があるのですが、当時から「防災」と「まちづくり」の分野でインクルーシブの考え方が必要だと実感していました。インクルーシブではないまちづくりは、誰かが逃げ遅れてしまう可能性があるため「防災」として不完全なものとしないためにも「包摂性」は必要不可欠です。
西とは入社時に日建ボランティア部(※2)で出会い、一緒に東北の復興支援をしました。今回の話を聞いて共に本テーマへ取り組みたいと思いました。

※2 日建ボランティア部:2011年の東日本大震災、2016年熊本地震などの復興支援活動を行ってきた有志チーム。専門知識を生かし、避難計画の可視化ツール(逃げ地図)の提供、津波被災地の被害立体図の進呈、各種ワークショップ、建築分野以外の方々へのインタビュー、復興計画立案への協力、仮設住宅の居住環境の改善を図るプロジェクトなど、復興地の方々とコミュニケーションをとりながら活動を行っています。

車戸: 僕は元々個人的に、点字ブロックにアートを施し視覚障がい者が外出しやすいまちをつくる活動をしていました。仕事とは関係のないライフワークだったのですが、その活動を広げるために、PYNTでインクルーシブデザインに関するイベント※3を開催しました。そのイベントに来ていた西からWediaで採択されたチームに誘われたんです。

図1 ※3 PYNTで開催したインクルーシブデザインイベント

4つの柱で展開するプロジェクト

——西さんと飯田さんの想いが伝播し、「実は私も」という方々がチームに加わり、プロジェクトが進行している。まさにPYNTが掲げる「個人のパッションを組織のミッションにして社会にインパクトを与える」が体現されているなと感じました。具体的に、現在のインクルーシブデザイン研究のFCの活動内容について教えて頂けますか?

西: チーム全体では10人弱のメンバーがいて、コアで動いているメンバーもいればスポットで参加しているメンバーもいます。活動はポリシー・ガイドライン策定、事例・データの収集と展開、考え方の普及、そして、デザインの開発と実践という大きく4つに分かれています。
様々な活動が動いていますが、基本的な活動の軸としては、日建設計の知見や専門性を活かし、PYNTを通じて社会にスケールさせることで、より良い貢献をしていこうということを据えています。
特に重要なのは、エクストリームをメインストリームにしていくというインクルーシブデザインの思想です。100人いたら100人みんなが使いやすいものを作るのは理想的ですが、現実は難しく、全体として折り合いがつく70~80点のものを作っていくというのがこれまでのゴールだったように思います。でも、この方法では、少数のニーズ、だけれども、重要なニーズを形にしていくことが困難です。誰もが使いやすい(あるいは障碍者にとって使いやすい)ものをみんなにとって使いやすいものとしてデザインする。ある特定のニーズに対する解決策をしっかり提示して、実装にしていく。そこには、みんなが使える、みんなにとって便利になるエッセンスもあるはずですので、それを社会に広げていく。それがインクルーシブデザインのコンセプトです。

——「当事者参画」とは、具体的にはどのような取り組みなのでしょうか?

西: フロンティア日建設計には障がいを持っている人もたくさんいるのですが、これまで日建設計の本業や現場との接点は少なかったんです。しかし、都市や建築の設計において彼らを通じて多様な当事者ニーズを把握したり、ニーズの当事者として共創して提案ができるようになれば、インクルーシブデザインの普及にも、日建設計のグループ会社の取組みとしてもエンゲージメントの高い取り組みになりつつあります。
そうした機会を作っていくことも活動テーマのひとつです。

車戸: 僕も西と一緒にフロンティア日建設計と日建設計を繋ぐ活動をしています。包摂性のある施設を作る場合なるべく僕らが関与して、フロンティア日建設計の当事者の人たちに話を聞きながらインクルーシブな建築やまちを作っていこうとしているところです。

馬場: 当事者参画以外にも、社会に働きかけていくためには、私たち民間だけが頑張るのでは限界があります。国交省などを巻き込みつつ官民で連携しながら、具体的な施策として「インクルーシブデザイン」のような枠組みを作れたらいいなと思っています。一番のポイントは「ユニバーサルデザイン」という似ている概念があるなかで、建築・都市におけるインクルーシブデザインをどう定義するか。まさに、いま議論をしているところです。

西: 民間側の動きで言うと、現在日建設計と日建設計総合研究所、LIFULL、STYZと一緒に、インクルーシブデザイン指標を作成して社会提案するための勉強会を開催しています。まずは自分たちでどのような取り組みができるかを議論し、今後対外的に発信していきたいと考えています。

写真3 インクルーシブデザイン指標を作成して社会提案するための勉強会メンバー

「福祉」を超えた新しい価値創造の視点

——インクルーシブデザインは、いまだ「福祉」の枠組みの中で捉えられがちな考え方でもありますよね。

車戸: それが一番の課題です。福祉とインクルーシブデザインは、必ずしも同義ではありません。インクルーシブデザインは、支援にとどまらず、「違いから新しい価値を生み出す創造行為」でもあります。一人ひとりの声を起点に、社会やプロダクトのあり方そのものを変えていくアプローチです。それぞれのニーズやペインを捉えて課題を解決すると、新しい付加価値が生まれるデザインプロセスだということをちゃんと広めていきたいです。
去年、ヨーロッパの視察にも行ったとき、スペインやデンマークの設計者たちは、前提として「当事者のみならずまちに関わる多様な人のことを考えて設計しなければいけない」という考えが根付いていたことに驚きました。

岡:良い悪いではなく、日本と他国では「状況が違う」んですよね。日本は災害大国であり、守らなければ壊れてしまったり安全が担保できなかったりするので、基準をとても重要視します。逆にデンマークやスペインは、日本にあるような細かい基準がありません。だからこそ、ひとつの困りごとをどうするかを考え、設計者もそこに加わりながらクリエイティビティを発揮し柔軟に解決するんです。日本は基準があるおかげで80点のまちはつくれるけど、そこからこぼれ落ちてしまっている人も多くいるはず。n=1の困りごとの解決を通じて、社会的便益の向上へフィードバックしていくための仕組みが作れないか。それが私たちが考えるインクルーシブデザインです。

写真4 日建設計総合研究所 都市部門 岡万樹子

——これから活動を進めていくうえで、みなさんが「チャレンジ」だと思うことを教えて下さい。

馬場:福祉と異なる概念であるという話に近いですが、いま「インクルーシブ」と聞くと、多くの人にとって「付加価値」と思われているのではないかと思っています。しかし、それは違います。「あったらいいもの」ではなくて、「なくてはいけないもの」です。
以前障がいをお持ちの方に「もし災害が起きたらすぐ逃げられないから、その場で死ぬ覚悟を持って生きている」という話を聞きました。その話を聞いてから、人が人らしく生きるために無くてはいけない土台をつくる取り組みであることをより強く感じたし、社会の認識自体も変えていかなければと思っています。

写真5 日建設計 イノベーションデザインセンター 馬場 由佳

西:私は車椅子を利用していて、歩いたり階段を使うことはできないのですが、先日住んでいるマンションの下の階でボヤ騒ぎがあったんです。私は急に逃げられないから、子どもたちだけを先に避難させました。

馬場:なんと、そうだったのですね……。西の実体験を例にすると、そのように誰かが逃げ遅れてしまうかもしれない状況、言い換えると誰かの犠牲をもとに誰かが助かる、もしくは誰かを守るために誰かが犠牲になる可能性をどうにかすることは、「付加価値」ではないと思うんです。すべての建物やまちを一気に変えることは難しいけれど、もしインクルーシブなデザインが実装されたまちであれば、自力で逃げることもできるけど、他力を引き出すこと(他人の助けを誘発する)ができる。そんなまちがどんどん広がっていけば、住みやすい国になっていく。そんなゴールを見据えてやっていきたいです。

車戸: インクルーシブデザインチームだけではダメで、日建グループのデザインチームやエンジニアと一緒にやるからこそ実現できると思います。
福祉やバリアフリーという観点だと「個別最適の対応は大変だからビジネスとしても成立しない」となりがちですが、個別の課題からみんなで使えるプロダクトやソリューションを、デザインを掛け合わせて作っていくことは、日建設計だからこそできることだと信じています。

写真6 日建設計 都市・社会基盤部門 都市開発グループ 車戸高介

次世代への期待と、ビジョン

——このプロジェクトが順調に進んだ先、例えば10年後にはどのような社会が実現していると思いますか?

西: 僕はいま14歳の娘がいるのですが、彼女と日々会話をしていると、性別や国籍、貧富などの、これまでのレガシー的な対比意識が少なく、フラットに社会を見れる視点を持っているように感じます。そんな彼女が大人になる時には、社会全体の価値観も変わっていると確信しています。
僕たちがいまできるのは、彼女たちにちゃんと少しでも、よい状態のバトンを渡していくこと。いまできることをしっかりとやっていけば、10年後はいまより成熟した、インクルーシブな社会が実現しているんじゃないかなと思います。

馬場:先に話したように、日本は災害大国ゆえに「この基準を守らないと死んでしまう人や、崩れてしまう建物がある」ことを解消しようとしてさまざまな基準が作られた歴史があります。でも逆に、いまはそれに縛られてしまっているというジレンマがあります。そこに対して、我々がクリエイティブな視点でどう回答できるのかを10年後に示せたらいいと思います。

写真7 左から西、馬場、岡、車戸

——今後のプロジェクト展開について教えてください。

車戸:いま2年ほど活動してきて、僕らの活動に共感してくれた300人以上が入ったコミュニティがあるんです。今後はその輪をさらに広げていくのと同時に、世の中への提案を一緒に作っていくパートナーを増やしていきたいと思っています。
また、日建設計社内に対しては、どんなプロジェクトであれ「インクルーシブ」というキーワードが上がったらまず相談してもらえるような存在になりたいですね。この活動を仕事にできるフレームを作っていき、結果として社会に対して「価値ある仕事」として還元できるような取り組みができるといいなと思います。
最終的には専門のチームが介在せずとも、通常の業務プロセスの中で、インクルーシブなマインドやスキルを持って設計やデザインができるようになることが一番の理想です。

岡: 私自身はこのプロジェクトを単なるボランティアではなく、ビジネスとして成立させることが目標です。インクルーシブにすることが将来のコスト抑制になり、私自身が50年後におばあちゃんになった時、または次世代の方々が住み心地のよいまちをつくるための先行投資として、当たり前に取り入れられる仕組みを作りたいです。
ビジネスにならないと持続可能ではないし、社会がインクルーシブに投資するマインドになりません。いかにインクルーシブにすることが将来の豊かさにつながるかという視点で取り組んでいきたいです。

インクルーシブデザイン研究チームが目指すのは、特別な配慮ではなく「当たり前」の変革です。一人ひとりの困りごとや実現したいことに向き合い、そこから生まれるソリューションを社会全体に展開していく。その積み重ねが、誰もが自分らしく生きられる社会を実現します。
このチャレンジは、建築や都市の枠を超えて、社会のあり方そのものを問い直しています。取り組みを進めるメンバーが描く10年後の未来に向けて、新しい「普通」を創造する歩みは始まったばかりです。
何か一緒にやりたい。こんなことができる。そう思ってくれた方はぜひご連絡ください。一緒にインクルーシブなまちづくりを当たり前にしていきましょう。

まちの未来に新しい選択肢をつくる共創プラットフォームPYNT(ピント)は、「さまざまな専門性や課題意識をもつゲスト」と「建築や都市の専門家」をつなげ、まちの未来に新しい選択肢をつくる“共創の場”。 まちと暮らしを自分たちで良くしていくための新たなアイデアや仕組みを生み出します。

#日建設計 #日建グループ #日建総研 #企業のnote #インクルーシブ #インクルーシブデザイン #多様性を考える #イノベーション #持続可能なまちづくり #包摂性 #新しい価値創造 #社会変革 #多様性の受容


いいなと思ったら応援しよう!