【片想い文芸部 | あくび】
あくびが出てしまう。
「もう眠い?」の声で目を覚ます。
「ぜんぜん。明日の朝までやれる」
「それは死ぬ」
ケタケタ笑う彼女の声をヘッドホンから聞きながら、まだこちらに気付いてない敵に向けてヘッドショットを決める。
ナイス〜。の掛け声に思わず頬が緩む。モニター上の頭部が吹っ飛んでいった敵を眺めながら完全に眠気が覚めた。
そのあともう一戦やったけど、いまいちパッとしない結果に僕たちはまったりプレイに切り替えた。
「ごめん、お腹空いたからなんか食べていい?」
「いいよ」そう答えるよりもはやくガサガサ雑音が混ざり始め、小気味いい音が響く。
「なに食べてるか当てて?」の後にまた響く小気味いい音。
「……プリッツ?」
おおっ!という驚きの後に「何味?」と意地悪そうな声が届く。
「それは知らんて! 音だけじゃ無理じゃね? 」
ふたりとも堪えきれず笑ってたら、ほとんど同じタイミングでキルされてもう一回笑った。
「てかプリッツて、サラダ味以外あるっけ?」
リスポーンされたのでだらだらプレイしながらなんとなく聞く。
「なんかあるみたい。ご当地限定? 牛骨ラーメン味だって! この前彼氏が置いていった」
あーね。あー。あー。あー。彼氏。
毎度"彼氏"というワードが出てくると一瞬身構えてしまう自分が情けなくて、嫌いだった。
すぐに「あー、おみやげみたいな? いいなー」と極めて平静を装って返すけど、いつもこの後の会話の流れが予想できてしまって憂鬱になる。
ほら、今日も変わらず「別によくないよ、試合試合ばっかりであんまり会えないしこんなおみやげひとつで喜ぶと思ってるとか舐めてない?」
ほら、彼氏への愚痴は聞き飽きた。
それにふたりの関係を簡単に想像できる話は、想いが強く残ってる僕にはかなりキツい。SAN値ゴリゴリに削られる。
だからいつも決まって大きなあくびをする。
音だけであくびだと認識させて、彼女から「やっぱ眠い?」を引き出させる大嘘あくび力を身につけれたのは良くも悪くも片想いのおかげだ。
でも「ちょっと眠いかもなー……」と見えてもいないのに目を擦る演技までしてリアリティを高めていたら、まったく見えない場所からヘッドショットを喰らわされた。
しかも追い討ちでめちゃくちゃに撃ってきやがる。
「えっ!? やば、こいつ。オーバーキルじゃん!」
彼女の驚いた声を聞きながら、僕はまるで自分の姿を俯瞰的に眺めてるような気分になって笑えてきた。
【片想い文芸部】参加作品です。初参加です🙇♀️
