【人魚おじさん物語 Day6 — 温かなスープと、ちいさな感謝】
── 海底研究所・食堂室
一行が食堂に入ると、
海底とは思えないほど柔らかな照明と、
落ち着いた空気に包まれた空間が広がっていた。

アマボはまだ緊張の面持ち。
そっと寄り添うように、
人魚おじさんが声をかける。
「ここは安全だからね。
ゆっくりしていいんだよ」
その優しさに触れ、
アマボの表情が少しだけ和らいだ。
「さぁ、あなた達も疲れたでしょう?
何でも好きなものを頼んでちょうだい。
今日は私がごちそうするわ」
ドクターマリネラのひと言に、
最初に反応したのはもちろん、はまちだった。
「ホンマに!?やったーっ!!
ワイ、もう腹ぺこぺこやねん!」
「ちょい待てや。
お前、なんも働いてへんやろ。
図々しいにもほどがあるわ!」
嬉しさ全開のはまちに、ぷる助が即噛みつく。
ぷるりは「また始まった…」といった顔で、
人数分のスープを丁寧に並べていく。
「ありがとう、ぷるり。
ここの海藻スープは元気が出るんだよ!」
「そらもう、この研究所の名物やからな!
味も効果も、
ドクターがきっちり監修しとるんやで!」
人魚おじさんの説明を
遮る勢いで自慢するぷる助。
すかさず、はまちが冷えた口調で返す。
「いや、お前が作ったわけちゃうやろ。
なんでそんなドヤ顔やねん」
「……な、なんやとコラァッ!」

またも火花が散りそうになる2匹(1匹+1体)。
その瞬間──
『ポカッ! ポカッ!』
「もうっ!いい加減にしなさいってば!!
……ほんま、子どもみたいなんだから……!」
想いのこもったぷるりの”必殺グーパン”が、
見事に2匹を黙らせた。
怒りでつい、地の関西弁がぽろりと漏れている。
「……あんた達、本当は仲ええんちゃうの?」
呆れ顔に、
はまちとぷる助は揃って視線をそらす。
「さぁ、
スープが冷める前にいただきましょう」
騒がしい2匹とは対照的に、
ドクターマリネラの周囲には
気品ある静けさが漂い、
優雅にスープを口に運んでいた。
そんな中──
「あ、あの……みなさん」
弱々しいが、しっかりとした声が場を静めた。
アマボだった。
「みなさん、助けていただいて……
本当に、ありがとうございました。
まだ何がどうなっているのか
分からないけれど……
こうして助けてもらえたことだけは、
ちゃんと分かります」
その言葉に、みんながふわっと微笑みを返す。

「いいのよ。今はゆっくり休みなさい。
急がなくていいの」
「そうそう、慌てることなんかないよ。
記憶が戻るように、
できることがあれば何でも言ってね。
ほら、まずはスープを飲もう」
アマボは小さく頷き、そっと一口。
「……すごく……おいしいです」
その素直な言葉に、
ドクターマリネラも人魚おじさんも、
ほっと優しく微笑んだ。
そして、
人魚おじさんはカップを置きながら言った。
「海の流れみたいなもんだよ。
助けたいと思ったら、
自然と手が伸びるのさ」
アマボはスープの温かさだけではなく、
胸の奥がじんわり
ほどけていくような感覚を覚えた。
──こんな気持ち、
どこかで……
経験したことがあるような気がする。
── Day7へつづく。
