【人魚おじさん物語 Day5 — 記憶の揺らぎと、海底の賑やかな仲間たち】
── 海底研究所・所長室
人魚おじさんとはまちの
“息ぴったりペット芸”が、
一瞬場を和ませたものの、
その輪に入りきれない者が1人いることを、
クラゲ博士── Dr.マリネラは見逃さなかった。
自らを「アマボ」と名乗った少女だ。
博士はゆっくりとアマボの方へ漂い、
静かに声をかける。
「さて。お話しできるかしら?
頭を打ったようだし、慎重に、
ゆっくりと進めましょうね。
まずは、あなたのことを教えてくれる?」

アマボは答えようとする。
けれど、
言葉は途中で止まり、
自分でも困ったように視線を落とした。
しばらく見守ったあと、
博士はそっと息をついた。
「会話そのものは…
ゆっくりだけれど問題なさそうね。
ただ、記憶に障害──というか、
重要な部分が抜け落ちているわ」
その言葉に、室内の空気がまた沈む。
「き、記憶…喪失ってことですか?」
人魚おじさんの問いに、博士は静かに頷いた。
「えぇーっ、博士ぃ!何とかならんの?
いつもみたいに、チャチャッと治してや〜」
はまちが身を乗り出した瞬間──
「だぁーっ、もう聞いとれんわ!
お前、さっきから何なんや!」
はまちとは違うトーンの関西弁。
その声を遮るように、
青いクラゲが奥の通路から勢いよく現れ、
はまちとバチッと目が合う。
「は?なんやお前こそ!」
「やんのかコラ!」

睨み合いが一気に白熱しかけた、
その瞬間。
『ポカッ! ポカッ!』
ふたつの小気味よい音が室内に響いた。
「いったー!何すんねん!」
文句を言う2人──いや1匹と1体の声が、
見事にハモる。
「ドクター、お騒がせして申し訳ありません。
それと──おじさま、お久しぶりです!」
柔らかなピンク色のクラゲ、
ぷるりが深く頭を下げた。
「おぉ、ぷるり!
背が伸びたんじゃないかい?
すっかり博士の助手が板についてるねぇ」
「いえいえ、まだまだ勉強中です!
ドクターの足元にも及びません」
そこへ青いクラゲが胸を張って割り込む。
「よっ!ぷるり!
相変わらずええ“グーパン”やったわ!
ところで、その青い方は誰や?」
はまちが指すと、
ぷるりは困ったように微笑んだ。
「はまちも久しぶり。あなたも相変わらずねぇ。
この子はぷる助。
ドクターの新しい助手よ。私の幼馴染なの」
『えっへん!』と聞こえそうなドヤ顔で
胸を張るぷる助は、はまちを見据えた。
「それよりお前な。
さっきから聞いとったら、
ドクターマリネラに対して失礼すぎんねん。
口の利き方、気ぃつけろや」
「なっ…何やとコラ〜!」
『ポカッ! ポカッ!』
「もう!ケンカなら外でして!
患者さんもいるのよ!
……本当にすみません、ドクター」
ぷるりが深いため息をつき、博士に頭を下げる。
博士は小さく笑みを返した。
「仕方ないわね、少し休憩にしましょう。
アマボさん、痛みなどなければ、
あなたも一息つきなさい」
「……はい。」

アマボは弱々しく頷いた。
不安、怒り、戸惑い──
それぞれの想いが入り混じるまま、
一行は食堂室へと向かっていくのであった。
── Day6へつづく。
