人魚おじさん物語Day11 — まだ名前のないチーム
食堂の隅。二匹は、声を落とした。
「……くっそ。完敗や」
「今のは事故や。まだ勝負ついてへん」
「ついとるわ。現実見ろや」
ぷる助は悔しくて、唇を噛んだ。
「……結論。お前は速すぎや」
「そっちこそ遅すぎるわ。
せやから、ワイが運ぶ。お前が整える」
「……役割、分けるんか」
「分ける。次は、言い合いする前に手を動かす」
「……次は、勝つ気なんやな」
「当たり前や。見返すんやなくて──追いつく」
ぷる助は一瞬だけ黙って、鼻で笑った。
「……言うだけは一丁前やな。
ほな、次は“事故”起こすなよ」
「任せとき。今度は“段取り”で勝ったる」

二匹は、もう一度だけ、ぷるりの背中を見た。
あの静かな手際に、追いつくために。
はまちは深呼吸して、
器を持つ手を落ち着かせる。
「……よし。運ぶ。ワイは運ぶだけや」
ぷる助は布巾を握り直した。
「……整える。オレは整えるだけや」
「言い合い禁止な」
「禁止ちゃう。“後回し”や」
二匹は、さっきより小さい声で言い合って──
そのまま、動いた。
はまちは足音を殺して、器を運ぶ。
速い。
でも、さっきの“速すぎる”やつじゃない。
ぷる助は器の角度を直す。
でも、一ミリずつじゃない。
必要なところだけ、最短で整える。
ぷるりは鍋の前で、横目で見ていた。
何も言わない。
言わないまま、ほんの少しだけ眉がほどける。
「……あ」
はまちが器を置く。
「カン」と鳴りそうな瞬間、
手首だけで吸収して、音を消す。
ぷる助が布巾を滑らせ、
濡れた跡だけを一発で拭き取る。

二匹は、目を合わせない。
合わせないけど、タイミングだけが揃っていく。
ぷる助が小声で言った。
「……おい。次、ドリンク来る」
「了解。先に運ぶ」
「……先に運ぶな。置き場、作ってからや」
「……せやった。ほな、合図くれ」
「……合図って、しゃらくさいな」
「ええから。事故るよりマシや」
ぷる助は一呼吸して、
指でテーブルの端をトントンと叩いた。
それが合図になった。
はまちは笑いそうになって、堪えた。
「……了解や」
二匹は、動き出す。
小さく、静かに、でも確実に。
さっきまでの“泡”みたいな騒がしさが消え、
代わりに、足元から段取りが組み上がっていく。
────成功の気配
スープの配膳が始まる。
ぷるりの動きは相変わらず美しい。
でも今度は、二匹の動きが“邪魔”にならない。
はまちは器を運び、ぷる助は受け取って整える。
並べる。拭く。次を空ける。
流れが、切れない。
ぷるりが短く言った。
「……そこ、右側に二つ」
「了解」
「……了解って言うな」
「言うたら伝わるやろ!」
「声がでかい言うてんねん!」
「小声やんけ!」
「小声の概念が関西やねん!」
言い合いかけて、二匹は止まった。
止まったまま、同時に口を閉じる。
そして、同時に手を動かした。
ぷるりが、ほんの一瞬だけ口元をゆるめた。
すぐ真顔に戻ったけど、見間違いじゃない。

ぷる助は、その表情が気になって、
でも見ないふりをした。
(……今、笑ったやろ。
いや、笑ってない。たぶん)
(…くそ。集中せぇ)
──まだ名前のない“チーム”が、
生まれかけていた。
── Day12へつづく。
