【人魚おじさん物語 Day7 — 胸の奥に、ちいさな波】
── 海底研究所・食堂室
はまちは、
皿いっぱいに盛られた
**海藻たっぷりの“擬似たこ焼き”**を、
両手で抱えるようにして、夢中で頬張っていた。
「……っはぁ〜……。
これや、これ……。
タコ入ってへんのに、ちゃんと“たこ焼き”や……」
ふうっと満足げに息をつく、
その顔は至福そのものだ。
「ほんま、この研究所の食堂は反則やで。
海藻が原料やのに、
どんな料理も再現できるなんてなぁ……」
「せやろ?
栄養も味も、ちゃんと計算されとるんや」
ぷる助が得意げに言うと、
はまちはすぐに横目で見る。

「いや、お前が作ったわけちゃうやろ」
「……ぐっ」
そのやり取りを横目に見ながら、
ぷるりは、静かに笑っていた。
「でも……はまちの言う通りです。
ここ、あったかい場所なんです」
人魚おじさんが頷く。
「うん。
それに、ぷるりの気配りがあってこそだね」
「にしても、ぷるりは相変わらずやなぁ」
はまちが言う。
「気ぃ配りの天才や」
「そ、そんなこと……ありませんよぉ」
ぷるりは少し慌てて手を振るが、
やがて、言葉を選ぶように視線を落とした。
「……ただ。
今の私があるのは、
ドクターマリネラのおかげなんです」
場の空気が、少しだけ静まる。
「実は……小さいころ、
水の流れに巻き込まれたことがあって……。
そのとき、私を助けてくれたのが
ドクターマリネラでした」
ドクターマリネラは何も言わず、
静かに耳を傾けていた。
「だから……今度は私が。
誰かを支えられるようになりたいって……
そう思ったんです」

その言葉に、
人魚おじさんとはまちは、
何も言わずに微笑んだ。
──そのとき。
「ぷるり、少し来てもらえるかしら」
ドクターマリネラの声だった。
「はいっ!」
即座に立ち上がるぷるり。
一方で、隣に座っていたぷる助は、
同じように立ちかけて──止まった。
「……ぷる助は、ここに残って。
アマボのそばにいてあげて」
その一言に、
ぷる助の表情が、わずかに固まる。
「……はい」
ぷる助は、
小さく頷いた。
ぷるりは少し振り返る。
けれど、
ドクターマリネラに促され、
そのまま食堂を後にした。
扉が、静かに閉まる。
「……。」
ぷる助は、しばらくその扉を見つめたまま、
動かなかった。
人魚おじさんは、その様子を見て、
静かに声をかける。
「ぷる助」
人魚おじさんは、
静かに声をかける。
「……大丈夫だよ」
「ここにいてくれるだけでも、
ちゃんと力になってる」
「……わかっとります」
ぷる助は笑おうとして、
でも、うまく笑えなかった。
ぷるりの働きぶりは、
新人のぷる助から見ても、目を見張るものがある。
誇らしくて、嬉しくて──
同時に、胸の奥が少しだけ、ちくりと痛む。
「……そやな」
小さく、呟く。
「ぷるりは……
すごい助手や」
その言葉に込められた想いを、
誰も指摘しなかった。

アマボは、
そのやり取りを静かに見つめていた。
胸の奥で、
小さな波が揺れている。
それが何なのか、
まだ、よくわからない。
けれど──
誰かのようになりたいと、
少しだけ思った。
海底研究所の食堂には、
今日も穏やかな時間が流れていた。
── Day8へつづく。
