人魚おじさん物語Day29 — 騒がしい旅立ち
アマボの、二手に分かれるという提案は、
口うるさいぷる助を納得させ、
誰も答えを見つけられずにいた部屋に、
ようやく“次へ進む形”が生まれた。
「じゃあ私とアマボは薬草採取だ。
おじさんは研究所へ頼んだぜ」
「わかった。
またこの役場で落ち合おう」
「おじさん、資機材も忘れんといて。あと、
連れてくんのはドクター資格を持ってる人やで」
「よし、それじゃあ先に行くよ」
そう言った後、
人魚おじさんは外へと出ていった。
「すぐ動けるドクター、
おったらええんやけどなぁ…」
研究所の慌ただしい廊下が、
ぷる助の頭をよぎった。
「アマボ、こっちも行こう」
「オレも行くで。
ドクターマリネラからのお使いやからな。
アマボー、また手ぇ繋いでどいてやー。
はまち、ほなさいならー」
「まてコラ、ワイも行くに決まってるやろがっ」
煽られたはまちは、一気に沸点を通り越す。

「はー?泳げんお前来ても邪魔やろが。
大人しゅう、みなもと遊んどれや」
みなもにじっと見つめられる。
「ワイはアマボを守るんや。
それに鼻が効くからな。薬草探しは任せとき」
「えーっ、遊んでようよー」
はまちはポケットからおやつを取り出し、
みなもへ放った。
「帰ったら遊んだるから、
それまでコレ食べて待っとき」
すかさず、ぷる助が声を上げる。
「いや、それはオレのおやつやっ」
「わーい、はまちありがとう」
「いや、みなもよ…
お礼を言うならオレにやで?」
ぎゃーぎゃーと騒がしい3匹に、
小さくため息をついたすみれだが、
みなもの笑顔に心は少し軽かった。
そんなすみれに、
心が温かくなるのを感じたアマボだった。
「よし、じゃあ行ってくる」
「くれぐれも気をつけてな」
「早く帰ってきてね」
笑顔で見送るみなもに手を振り、
村長室を後にした。

「採取場所はそう遠くはないが、
異常海流のこともある、慎重に行こう」
「はいっ」
すみれの後に続くアマボと、
手を繋いでもらっている2匹。
「……お前ら見てると、先生と園児みたいだな。
緊張感のかけらもない」
「すみ姉、
そんなん言うけどワイらは真剣なんやで?」
「そうや、ドクターマリネラからのお使い、
きっちりやりきらんと」
「はいはい、迷子になるなよ」
「いや、園児ちゃうわっ」
相変わらずハモる2匹に、
クスッと笑みの浮かぶアマボ。
「それにしても…
はまちは今回は泣かなかったなー。
みなもに墨かけられたのに」
ニヤニヤ顔のすみれに、はまちは顔を赤くする。
「ちょっ、すみ姉ー?」

海流の不安も、
村の問題も、
まだ何ひとつ解決していない。
それでも──
さっきまで重かった空気は、
少しだけ変わり始めていた。
薬草採取の旅は、
まだ始まったばかり。
── Day30へつづく
