AI時代に、ファッションは何を作るのか
AIによって、画像生成もスタイル生成も容易になった。
かつて、服のイメージを作ることには時間がかかった。資料を集め、絵を描き、素材を探し、シルエットを検討し、試作を繰り返す。そこには、身体と手の速度があった。
しかし今は違う。言葉を入力すれば、数秒で無数のルックが生成される。存在しないブランドの広告、架空のランウェイ、誰かの作風に似たコレクション、まだ作られていないはずの服。画像としてのファッションは、以前よりはるかに軽く、大量に、滑らかに生まれるようになった。
この変化は、単に「AIが便利になった」という話ではない。
VOGUE JAPANでは、新進デザイナー3人がAI時代におけるファッションの意味について語っている。記事では、アルゴリズムがトレンドを予測し、生成AIがコレクションを瞬時に生み出せるようになる時代に、衣服の価値は「どう見えるか」から「何を担うか」へ移り始めている、という問題提起がなされている。
参照:VOGUE JAPAN「新進デザイナー3人が語る、AI時代におけるファッションの意味とは」
ここで問われているのは、AIを使うべきかどうかではない。
もっと根本的な問いである。
AIが見た目を作れるようになった時代に、ファッションは何を作るのか。
服は、これまで視覚の産業として扱われてきた。もちろん、服には素材、縫製、身体、階級、労働、ジェンダー、政治、歴史が含まれている。それでも、消費の入口では、まず画像として見られる。SNSのフィード、ECの商品写真、ルックブック、ショート動画、セレブリティのレッドカーペット。服は画面の中で、一枚のイメージになる。
だが、AIがそのイメージを簡単に作れるなら、イメージだけでは足りなくなる。
問題は、服が何を写すかではない。
服が何を引き受けるかである。
ファッションのサムネイル化
現代のファッションは、かなりの部分でサムネイル化している。
SNSでは、一瞬で理解されることが強い。短尺動画では、最初の数秒で視線を止めなければならない。アルゴリズムは、停止された指、保存された画像、クリックされた商品、再生された秒数を読み取る。そこで有利になるのは、即時に読める服である。
強い色。
過剰なディテール。
分かりやすいシルエット。
ブランドロゴ。
説明しやすいコンセプト。
一枚で意味が伝わる違和感。
もちろん、それ自体が悪いわけではない。ファッションは視覚の文化であり、見た瞬間に伝わる力を持つ。問題は、その競争が進みすぎると、服が「読まれるための情報量」だけで作られ始めることにある。
情報密度が高い服は、画面上では強い。
だが、情報密度が高いことと、意味が深いことは同じではない。
むしろ、情報量が多すぎる服は、時間を拒むことがある。最初の一秒で理解され、次の一秒で消費され、次の投稿に流される。服は、記憶される前に処理される。着られる前に共有される。所有される前にスクロールされる。
この状態を、ファッションのサムネイル化と呼べる。
サムネイル化された服は、一瞬で意味を示す。
だが、一瞬で意味を示す服は、ときに時間を持たない。
この問題は、SNSだけの問題ではない。ECも同じ構造を持っている。検索され、比較され、拡大され、価格とレビューと配送日で判断される。服は、身体に届く前に情報として処理される。画面の中で服を判断する時間は短くなり、服と過ごす時間の価値は見えにくくなる。
つまり、ファッションは今、画像として強くなるほど、時間から切り離されやすくなっている。
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