見出し画像

サステナブルって、もう雰囲気で言えなくなるんか

今日も違和感を見つけた。

EUで、グリーンウォッシュへの規制が強まっている。

かなりざっくり言うと、企業が根拠もなくサステナブル、エコ、環境にやさしい、みたいな言葉を使いにくくなる。

しかもこれは、ただの空気の変化ではない。

EUのルールとして、加盟国に国内法化が求められている。

EU委員会によると、Directive (EU) 2024/825、いわゆる消費者のグリーン移行を支えるためのルールが2024年3月に発効した。

このルールでは、根拠のない一般的な環境表示や、信頼できる仕組みに基づかないサステナビリティ表示などが規制対象になる。

New EU rules to empower consumers for the green transition enter into force

そして加盟国は、2026年3月27日までに国内法へ移す必要があった。

適用開始は2026年9月27日。

ところが、EU委員会は2026年5月、フランスなど複数の加盟国に対して、国内法化の通知が不十分だとして正式な通知を出している。

La Commission demande à la France de transposer la directive sur les règles donnant aux consommateurs les moyens d’agir en faveur de la transition verte

つまり、こういうことだと思う。

ブランドはもう、サステナブルっぽい雰囲気だけでは逃げられなくなる。

ここに、かなり大きな変化がある。

ファッション業界では、ここ数年ずっとサステナブルという言葉が使われてきた。

サステナブルな素材。
環境に配慮したコレクション。
エシカルなものづくり。
地球にやさしい服。
未来のためのファッション。

もちろん、本当に真面目に取り組んでいるブランドもある。

でも同時に、なんとなく緑色の背景を使う。
植物の写真を置く。
リサイクル素材を少しだけ入れる。
それで全体が環境に良いように見せる。

そういう表現も、かなりあったと思う。

消費者側も、それをなんとなく受け取っていた。

この服はサステナブルらしい。
このブランドは環境に配慮しているらしい。
この商品はエコっぽい。

でも、どこまで本当なのか。

何が環境に良いのか。
誰が確認しているのか。
どの工程が改善されたのか。
素材だけなのか。
輸送も含むのか。
廃棄まで含むのか。
売れ残りはどうしているのか。

そこまで見る人は、まだ多くない。

だからサステナブルは、便利な言葉になっていた。

便利すぎた。

良いことをしている感じが出る。
ブランドイメージが上がる。
罪悪感を減らせる。
価格の理由にもなる。
買う側も、少し良い選択をした気分になれる。

でも、その言葉に証拠が求められるようになる。

ここが今回の違和感だ。

サステナブルは、もともと未来のための言葉だったはずだ。

でもいつの間にか、売るための言葉にもなっていた。

服を売るために、環境が使われる。

未来を守るための言葉が、購買を促すための装飾になる。

そこにEUが、待ったをかけ始めている。

これをファッションの文脈で見ると、かなり大きい。

なぜならファッションは、言葉とイメージで売る産業だからだ。

服そのものだけではなく、背景を売る。

このブランドは美しい。
このブランドは自由だ。
このブランドは知的だ。
このブランドは反骨的だ。
このブランドは環境にやさしい。

そういう物語が、服の価値を作ってきた。

でもサステナブルに関しては、物語だけでは足りなくなる。

これからは、言ったなら示せ、という時代になる。

どの素材なのか。
どれくらい環境負荷が下がったのか。
誰が認証したのか。
全体の何パーセントなのか。
比較対象は何なのか。
長く使える根拠はあるのか。

つまり、ブランドの言葉が、雰囲気から証明へ移る。

これはかなり大きな転換だと思う。

今までファッションブランドは、言葉で世界観を作ってきた。

でもこれからは、その言葉に責任が発生する。

サステナブルと言うなら、証明しなければいけない。

環境にやさしいと言うなら、何がどうやさしいのかを説明しなければいけない。

エコと言うなら、ただの印象ではなく、根拠が必要になる。

ここで問われるのは、ブランドの美意識だけではない。

運営能力だ。

サステナブルな服を作るには、素材選びだけでは足りない。

サプライチェーン。
生産量。
在庫管理。
輸送。
販売計画。
修理。
回収。
廃棄。
再販。
認証。
情報開示。

全部が関わってくる。

つまりサステナブルは、宣伝文句ではなく、オペレーションの問題になる。

ここが怖い。

本当に取り組んでいるブランドほど、説明にコストがかかる。
なんとなく言っていたブランドほど、言えなくなる。
そして消費者も、なんとなく良さそうだから買う、では済まなくなる。

ファッションは、見た目の産業だった。

でもこれからは、見た目の裏側まで問われる。

この服はかわいいか。
この服は似合うか。
この服は今っぽいか。

そこに加えて、

この服は何でできているのか。
どこで作られたのか。
誰が作ったのか。
売れ残ったらどうなるのか。
本当に環境に配慮しているのか。

こういう問いが入ってくる。

服が、ただの服ではなくなる。

服が、証明書を背負い始める。

私はここに、今後のブランドの大きな分かれ道があると思う。

ひとつは、証明できるブランド。

素材、工場、流通、在庫、廃棄まで、少しずつでも説明できるブランド。

もうひとつは、雰囲気だけで押してきたブランド。

サステナブルっぽい写真。
自然っぽい色。
優しそうな言葉。
曖昧な環境配慮。
でも中身はよくわからない。

これまでは、両方が同じ棚に並んでいた。

でもこれからは、だんだん差が見えてくる。

ブランドにとっては厳しい。

でも、消費者にとっては悪いことではない。

なぜなら、サステナブルという言葉が、ようやく軽く使えなくなるからだ。

ただ、ここで単純にEUすごい、規制すごい、で終わる話でもない。

規制が強まると、大企業ほど対応しやすくなる可能性もある。

法務部門がある。
認証にお金をかけられる。
サプライチェーンを管理できる。
レポートを書ける。
データを出せる。

一方で、小さなブランドは、ちゃんと作っていても、証明のコストに苦しむかもしれない。

本当に丁寧に作っている小さなブランドが、書類や認証や表示ルールに対応できず、大きなブランドの方がサステナブルに見えてしまう。

そういう逆転も起きる。

だからこの流れは、単純な善悪ではない。

でも、それでも大きな方向としては、ファッションの言葉に責任が戻ってくる。

それは重要だと思う。

今までファッションは、イメージの力でかなり遠くまで走ってきた。

ラグジュアリー。
ストリート。
エシカル。
サステナブル。
クラフト。
ローカル。
タイムレス。

どれも強い言葉だ。

でも強い言葉ほど、空っぽでも使えてしまう。

だから、言葉が先に走りすぎる。

サステナブルもそうだった。

本当は難しい言葉なのに、簡単に使われすぎた。

環境に良い服とは何か。

長く着られる服なのか。
リサイクル素材の服なのか。
廃棄されない服なのか。
修理できる服なのか。
少量生産の服なのか。
二次流通に乗る服なのか。
そもそも買わないことなのか。

答えは一つではない。

なのに、サステナブルという一語で全部まとめてしまう。

それが便利だった。

でも、便利な言葉ほど疑われる時代になった。

これは、AI時代の話ともつながる。

AIで文章も画像も作れるようになると、見た目の説得力はどんどん簡単に作れる。

美しいビジュアル。
自然なコピー。
環境に配慮していそうなブランドページ。
透明感のあるキャンペーン。

それらは、以前よりずっと低コストで作れる。

だからこそ、見た目だけでは信用できなくなる。

これから価値を持つのは、雰囲気ではなく証拠になる。

誰が作ったのか。
どこで作ったのか。
何で作ったのか。
どう運ばれたのか。
どう使われ、どう終わるのか。

ファッションは、見せる産業から、説明する産業へ少しずつ変わっていく。

でも、説明ばかりの服はつまらない。

ここも大事だ。

服は、本来もっと直感的なものでもある。

かわいい。
着たい。
似合う。
気分が上がる。
今日はこれで外に出たい。

その感覚は消えない。

だから、これからのブランドに必要なのは、証明だけではない。

証明できる物語だと思う。

物語だけでは弱い。
証明だけでは冷たい。

物語と証明がつながっているブランドが、強くなる。

この服は美しい。
そして、その美しさの裏側も説明できる。

このブランドはかっこいい。
そして、そのかっこよさが誰かへの負荷で成り立っていないことを示せる。

この商品はサステナブルだ。
そして、それが雰囲気ではなく、素材や生産や流通の中で語れる。

ここまでできるブランドが、次の時代の信用を取る。

今回のEUの動きは、ただの規制ニュースではない。

ブランドの言葉が、軽く使えなくなるニュースだ。

そしてファッションが、雰囲気の産業から、説明責任のある産業へ移っていくニュースでもある。

サステナブルって、もう雰囲気で言えなくなるんか。

たぶん、そうだと思う。

でもそれは、サステナブルという言葉が弱くなるということではない。

むしろ逆だ。

軽く使えなくなることで、ようやく重みを取り戻す。

本当に取り組んでいるブランドにとっては、言葉が信用を取り戻す機会になる。

なんとなく使っていたブランドにとっては、逃げ道が減る。

消費者にとっては、買う理由をもう少し深く考えるきっかけになる。

これからの服は、かわいいだけでは足りないのかもしれない。

でも、かわいさが消えるわけではない。

かわいい。
欲しい。
着たい。

その先に、

これは本当に何でできているのか。
このブランドは何を約束しているのか。
その約束には根拠があるのか。

そういう問いがついてくる。

服は、見た目だけで選ぶものから、言葉の責任まで含めて選ぶものへ変わっていく。

そしてブランドは、サステナブルという言葉を飾りではなく、証明しなければならなくなる。

Void Labは、服に現れる時代の変化を観測する小さな研究室です。

ブランドはなぜ物語を売るのか。ラグジュアリーはなぜ生活へ広がるのか。流行はなぜ市場に回収されるのか。

週刊服飾観測・月刊服飾観測を中心に、ファッション、ブランド、消費、カルチャーの違和感を読み解きます。

月額980円で有料記事はすべて読み放題。掲示板では自由に話せます。

完成した答えより、まだ名前のない変化に興味がある人へ。

あなたは、サステナブルという言葉を見た時、どこまで信じていますか。
素材ですか。認証ですか。ブランドの姿勢ですか。
それとも、もう少し疑いながら見るようになっていますか。

明日も違和感を書きます。

いいなと思ったら応援しよう!

Void 地下活動の燃料になります。いただいたチップは、生地代、糸代、絵の具代、画用紙代、制作や執筆のための活動費として大切に使わせていただきます。