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あなたが欲しいと思ったものは、誰に欲しいと思わされたの?

1. その欲望は、本当に自分のものなのか

あなたが欲しいと思ったものは、本当に自分で欲しいと思ったものなのか。

それとも、誰かに欲しいと思わされたものなのか。

服。靴。時計。車。カメラ。インテリア。旅行。ライフスタイル。

私たちは、自分で選んでいると思っている。

自分の好みで選び、自分の意思で買い、自分の感覚で欲しがっていると思っている。

でも、その欲望はどこから来たのか。

そもそも、なぜその商品を知っているのか。

なぜそれに興味を持ったのか。

なぜそれが欲しいと思ったのか。

考えてみると、かなり怪しい。

本当に自分で見つけたのか。

誰かが持っていたから気になったのか。

SNSで何度も流れてきたから欲しくなったのか。

好きな人が使っていたから欲しくなったのか。

ブランドの世界観に触れて、自分もその空気に入りたくなったのか。

あるいは、自分の中にあった不安や不足感に、その商品がうまく刺さっただけなのか。

欲望は、純粋に自分の内側から湧いてくるものだと思われやすい。

しかし実際には、欲望のかなりの部分には他人が混ざっている。

広告。SNS。友人。恋人。憧れの人。ブランド。映画。雑誌。街で見た誰か。昔の記憶。自分のコンプレックス。

それらが複雑に混ざり合って、ある日突然、自分はこれが欲しいと思う。

でも、その突然は本当に突然ではない。

欲望は、知らないうちに育てられている。

2. 欲望は感染する

人は一人で欲望を作っているわけではない。

誰かが持っている。

誰かが着ている。

誰かが語っている。

誰かが褒められている。

誰かがそれを持つことで、少し特別に見えている。

そこから欲望は生まれる。

たとえば、まったく興味のなかったブランドでも、何度も目にしているうちに、少しずつ気になってくることがある。

最初は、何がいいのか分からない。

高すぎると思う。

自分には関係ないと思う。

しかし、何度も見る。

誰かが熱量を持って語っている。

着用画像が流れてくる。

持っている人の生活が少しよく見える。

そのブランドを知っている人同士が、何かを分かち合っているように見える。

すると、ある瞬間から見え方が変わる。

これは何なのだろう。

なぜこの人たちは、こんなに惹かれているのだろう。

自分も一度見てみたい。

触ってみたい。

使ってみたい。

そう思い始める。

欲望は、感染する。

しかも、かなり静かに感染する。

風邪のように急に熱が出る場合もあるが、多くの場合はもっと遅い。

何度も見る。

少し気になる。

忘れる。

また見る。

誰かが褒める。

価格を見る。

高いと思う。

でもまた見る。

その反復の中で、欲望は少しずつ自分のもののような顔をし始める。

最初は他人の熱だったものが、自分の体温に混ざっていく。

そして気づいた時には、自分が欲しいと思っている。

ここが怖い。

欲望は、他人から来たとしても、最後には自分の声で鳴る。

だから、人はそれを自分の欲望だと思う。

3. SNS時代の欲望

SNSは、欲望の感染速度を極端に上げた。

昔も欲望は感染していた。

雑誌。テレビ。映画。街。店頭。友人。憧れの先輩。

そういう場所から欲望は生まれていた。

しかし、今は速度が違う。

SNSでは、欲しくなりそうなものが先に表示される。

自分が探しているようで、実際には見せられている。

何度か見たブランド。

少し長く止まった投稿。

検索したアイテム。

保存した画像。

似たようなアカウント。

そうした行動をもとに、次に欲しくなりそうなものが流れてくる。

アルゴリズムは、まだ言語化されていない欲望まで先回りしてくる。

本人が、これが欲しいと自覚する前に、画面の方が先に近いものを出してくる。

これは便利でもある。

自分の好みに近いものに出会える。

知らなかったブランドを知ることができる。

欲しかったものを探しやすくなる。

情報へのアクセスは、明らかに広がった。

しかし同時に、自分が欲しいと思ったのか、欲しいと思うように誘導されたのかが分かりにくくなった。

たとえば、ある靴がある。

最初は興味がなかった。

でも何度も流れてくる。

誰かが履いている。

別の誰かも履いている。

レビューが出る。

購入報告が出る。

品薄だと書かれる。

値上がりすると言われる。

今買わないと手に入らないという空気が出る。

すると、いつの間にか自分も欲しくなる。

しかしそれは、本当に靴そのものが欲しいのか。

それとも、流れに乗り遅れたくないのか。

分かる側に入りたいのか。

持っている人たちの空気に参加したいのか。

今買えなかった自分を、あとで後悔したくないだけなのか。

欲望は、商品だけに向かっているようで、実は集団や時間や不安にも向かっている。

SNS時代の欲望は、単なる物欲ではない。

関係への参加欲であり、見逃したくない恐怖であり、置いていかれたくない感覚でもある。

4. Quiet Luxuryですら感染する

派手なロゴや分かりやすい流行だけが感染するわけではない。

Quiet Luxuryも感染する。

むしろ、静かなものほど感染した時に厄介である。

ロゴを消すこと。

静かに見せること。

分かる人だけ分かること。

過剰に語らないこと。

質のよいものを、何気なく身につけているように見せること。

そうした態度は、一見すると反トレンドのように見える。

流行に踊らされない。

分かりやすいブランドロゴに頼らない。

本当に良いものを静かに選ぶ。

そう見える。

しかし、その静けさもまた、ひとつの流行になりうる。

ロゴを消すことが、別のロゴになる。

分かりにくいことが、分かっている人間である証明になる。

目立たないことが、目立つための手段になる。

静かであることが、最も大きな声になる。

この構造については、以前 なぜ今、「引き算」が高級に見えるのか でも書いた。

情報が過剰な時代には、余白や沈黙そのものが価値を持つ。

しかし、余白が価値になると、今度は余白を持つことが欲望になる。

静かな服が欲しい。

ロゴのない高級品が欲しい。

分かる人だけに分かるものが欲しい。

それは、ただ落ち着きたいからなのか。

それとも、落ち着いている人間に見られたいからなのか。

その境界はかなり曖昧である。

Quiet Luxuryは、派手な消費への反動として生まれたように見える。

しかし、それすらも空気として広がれば、模倣対象になる。

欲望は、派手なものだけではなく、静かなものにも感染する。

むしろ現代では、静けささえ欲望の商品になる。

5. でも、欲望そのものを否定したいわけではない

ここまで書くと、欲望はすべて操作されたもののように見えるかもしれない。

でも、欲望そのものを否定したいわけではない。

人は、誰かへの憧れから変わる。

真似から始まる。

影響されることで、知らなかった自分に出会うこともある。

最初から完全に自分だけの欲望を持っている人など、ほとんどいない。

好きな人が着ていた服。

憧れの人が使っていたカメラ。

尊敬する人が乗っていた車。

街で見かけた知らない誰かの靴。

映画の中で見た部屋。

そういうものに引っ張られて、人は少しずつ自分を作っていく。

問題は、欲望を持つことではない。

なぜそれを欲しいのか、考えなくなることだ。

なぜその商品を知っているのか。

なぜそれに興味を持ったのか。

なぜそれが欲しいと思ったのか。

その問いを通らずに、流れてきた欲望をそのまま自分のものだと思い込むことが危うい。

そしてたぶん、そこから先で、人はようやく自分の欲望を持ち始める。

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