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「ネットの資金需要」を世界一わかりやすく解説する:日本経済「30年の停滞」の真犯人は誰だ?

日本経済がなぜ30年も成長していないのか。

その答えは、たった一つのグラフを見るだけで判明します。

それが「ネットの資金需要(資金過不足)」です。

これは、経済学者が使う机上の数式ではありません。日本銀行が四半期ごとに発表している、日本経済の「お金の流れ」を記録した事実の記録です。

このデータを見れば、今の日本で「誰がお金を使い、誰が貯め込んでいるのか」が丸裸になります。そして、巷で言われる「国の借金問題」がいかに的外れな議論であるかも、一発で論破できるようになります。

感情論や印象操作を排除し、この冷徹なデータを使って、日本経済の停滞の「真犯人」を特定しましょう。


1.1分でわかる「ネットの資金需要」

まずは、この聞き慣れない言葉の定義をはっきりさせましょう。

「ネットの資金需要(資金過不足)」とは、一言で言えば「その部門が、金融市場に対して『お金の出し手』なのか『借り手』なのか」を示す指標です。

経済学的には「ISバランス(投資・貯蓄バランス)」とも呼ばれますが、計算式は極めて単純です。

実収入 - 実支出 = ネットの資金需要

ある一定期間(例えば1年間)で、その部門に入ってきたお金から、出ていったお金(設備投資や住宅購入などを含む)を引いた時、結果はどうなるか。これだけのことです。

結果は必ず「プラス」か「マイナス」のどちらかになります。

ネットの資金需要の仕組み
ネットの資金需要の仕組み
  • プラス(資金余剰)=「お金の出し手(貸し手)」

    • 収入の範囲内で生活し、使いきれなかったお金が余っている状態。

    • 余ったお金は銀行預金や国債購入に回り、誰かへの「貸し出し」原資となります。

  • マイナス(資金不足)=「お金の借り手」

    • 手持ちの収入以上に、積極的な支出(投資)を行った状態。

    • 足りない分は、銀行借入や社債発行などで市場から調達します。

つまり、この指標は「その部門が今、経済に対して『攻め(投資)』の姿勢なのか、『守り(貯蓄)』の姿勢なのか」を可視化するメーターなのです。

「ネットの資金需要」の「ネット」とは?

ちなみに、ここで言う「ネット(Net)」とは、インターネットのことではありません。「グロス(総額)」の対義語で、日本語で言えば「正味」「差し引き」という意味です。

日本には何百万もの企業があり、借金している会社もあれば、貯金している会社もあります。それらすべてのプラスとマイナスを合算し、「で、結局、差し引き(ネット)どうなの?」と結論を出した数字。それがこの指標の正体です。

個別の木を見るのではなく、「森全体の形」を把握するための言葉だと覚えておいてください。

資本主義の「常識」を逆転させる

ここで、みなさんの「直感」を少し修正する必要があります。

家計(私たち個人の生活)では、「プラス(貯金)」が良いことで、「マイナス(借金)」は悪いことだと思われがちです。

しかし、企業経営やマクロ経済の視点では、善悪が逆転します。

企業が成長するために工場を建てたり、新しい技術を開発したりするには、莫大なお金が必要です。手持ちの現金だけで投資をしていては、スピード競争に負けてしまいます。

なので、健全な資本主義において、企業部門は常に「マイナス(借金して投資)」であることこそが「善」であり、成長の証なのです。

逆に、企業がお金を借りずに貯め込んでいる(プラスの状態)というのは、「投資する先がない」あるいは「成長を諦めている」という、資本主義としては異常事態なのです。

この「企業は借金(マイナス)をしてナンボ」という感覚を、まずは持ってくださいね。


2.絶対法則「誰かの黒字は、誰かの赤字」

次に、経済全体を支配する絶対的な法則、「ゴッドリーの恒等式(Sectoral Balances)」を紹介します。

地球上の経済プレイヤーは、大きく分けて3人しかいません。

  1. 民間(家計+企業)

  2. 政府

  3. 海外

そして、この世界には「シーソー」のような法則が働いています。 「誰かが黒字(プラス)になるためには、別の誰かが必ず赤字(マイナス)にならなければならない」という法則です。

ゴッドリーの恒等式
ゴッドリーの恒等式

想像してみてください。 もし、民間が「100万円貯金したい(プラス)」と願ったとします。 その100万円はどこから来るのでしょうか? 誰かが100万円を借金して(マイナス)、支出してくれない限り、民間の手元に100万円の黒字が残ることは物理的にあり得ません。

つまり、世界全体の収支を足し合わせると、必ずゼロになります。

民間の収支 + 政府の収支 + 海外の収支 = 0

これは経済理論ではなく、1+1=2と同じ「会計上の事実」です。

ここから言えることは極めてシンプルです。 もし、民間(私たちと企業)が「お金を貯めたい(黒字になりたい)」と強く願い、海外収支が変わらないとしたら…… 自動的に、政府がその分の「借金(赤字)」を引き受けざるを得なくなるのです。

政府が赤字を出したくないなら、民間が赤字(借金)を出すしかありません。 全員が同時に「お金を貯める」ことは、地球外生命体と取引でもしない限り、不可能なのです。


3.【データで解説】犯人は「貯金しすぎた企業」と「支出を絞る政府」

では、「ネットの資金需要」を、この3つのプレーヤー(特に「民間」「政府」)の観点でデータとともに見てみましょう。

日本銀行が発表している「資金循環統計」のグラフを見ると、失われた30年の「真犯人」がはっきりと浮かび上がります。

部門別資金過不足
資金循環統計(部門別資金過不足)をもとに筆者作成

1990年代後半の「激変」

グラフを見てください。 バブル崩壊前(1990年頃まで)は、「法人企業」のライン(赤線)は大きくマイナス(下側)にあります。これは、日本企業が活発に借金をして、設備投資を行っていた証拠です。健全な資本主義の姿です。

しかし、1998年の金融危機あたりを境に、 企業のライン(赤線)がゼロを超えて、プラス(上側)に跳ね上がっているのです。

これは何を意味するのか? 日本企業は、投資(借金)をやめ、借金の返済と内部留保の積み上げ(貯金)に走り出したのです。企業が「投資家(借り手)」から「貯蓄家(貸し手)」へと変貌してしまった瞬間です。

政府はまた、ハシゴを外そうとしている

さらに、グラフの一番右端(2020年以降)の青線の動きに注目してください。

2020年、コロナ禍という未曾有の危機に対し、政府は一時的に大きくグラフを下げ(借金を増やし)、特別定額給付金などの支援を行いました。青線が「▲10.5%」まで急降下している深い谷の部分です。

しかし、問題はその直後です。 青線が、猛烈な勢いで「上(ゼロ方向)」に向かって戻っているのがわかりますか?

これは何を意味しているのか。 政府は「コロナが終わったから、もう支援は不要だ」とばかりに、凄まじいスピードで支出を絞り、再び「財政の黒字化(緊縮)」へ舵を切ったということです。

赤線(企業)を見てください。まだ「+1.5%」とプラス圏に浮いています。企業はまだ完全な投資モード(マイナス)に戻りきれていません。 それなのに、政府だけが先に引き上げようとしているのです。

民間がまだ弱っている(貯蓄超過傾向にある)状況で、政府が支出を減らせばどうなるか。 過去30年と同じ過ち、つまり「デフレへの逆戻り」が確定します。 このグラフの右端が示す「急角度のリバウンド」こそ、政府が国民経済の回復よりも「自らの財布(財政規律)」を優先している、決定的な証拠です。


4.政府の赤字は「尻拭い」である

ここまで来れば、「国の借金が増え続けている理由」がわかるはずです。

メディアや財務省はこう言います。 「政府が放漫財政で無駄遣いをしたから、赤字が膨らんだのだ」と。

しかし、データが示す事実は真逆です。 企業が本来行うべき投資を放棄し、巨額の利益を内部留保として貯め込んだ(民間の過剰貯蓄)。 そのままでは経済が死んでしまうため、企業が使わなかったお金を、政府が代わりに「国債」という形で借りて、公共事業や社会保障として市場に戻した。

それだけのことなのです。

政府の赤字拡大は、政府が贅沢をしたからではありません。 民間の(特に企業の)強烈な「貯蓄意欲」の尻拭いをした結果、事後的に、会計上の必然として赤字になったに過ぎません。

これを「将来世代へのツケ」と呼ぶのは、悪質なプロパガンダです。 もし政府がこの借金(尻拭い)を拒否していたら、日本のGDPは今の半分以下になり、失業者が街に溢れ、それこそ「将来世代への地獄」を残していたことでしょう。


5.今の日本に必要な財政出動は「30~40兆円」

では、具体的に政府は「いくら」借金(財政出動)をすればいいのでしょうか?

先ほどの資金循環統計の話に戻りましょう。

現在の日本企業は、GDP比でプラス圏(資金余剰)に居座り続けています。 最も酷い時期には6〜8%もの黒字を出し、直近でも依然としてプラス圏です。本来ならマイナス(投資)であるべき主体が、プラス(貯蓄)になっている。この「異常なズレ」こそが問題なのです。

マクロ経済の原則に従えば、企業がプラスである限り、その分を政府がマイナス(財政赤字)で埋め合わせなければ、経済のお金は消滅してしまいます。

しかし、政府は「財政再建」を掲げて、この埋め合わせを十分に行おうとしません。 「企業が貯め込んだお金(プラス)」に対して、「政府が吐き出すお金(マイナス)」が足りていない。 この「差額」こそが、毎年日本経済から消滅し続けている需要の正体です。これがデフレギャップとなり、私たちの給料を押し下げているのです。

消費税減税と社会保険料の引き下げ

このギャップを埋め、日本経済を正常化させるために必要な金額は、今のGDP規模で換算すると「年間30兆〜40兆円」規模になります。

これだけの規模の「真水」の財政出動を行って初めて、企業が貯め込んだお金が相殺され、経済の血液が回り始めます。

では、この30兆円を何に使うべきか? 公共事業のような「政府が使い道を考える支出」だけでは消化しきれません。より直接的に、家計や企業の懐にお金を戻す策が有効です。

  1. 消費税の減税・廃止(約20兆円規模のインパクト)

  2. 社会保険料の引き下げ(現役世代の手取り直結)

これらを恒久的な財源(国債発行)で行うこと。

これが、「企業が内部留保を吐き出すようになる(借金して投資を始める)」までの間、政府がとり続けるべき唯一の正解ルートです。

「30兆円も借金して大丈夫か?」と心配する必要はありません。

それは「企業が余らせている30兆円」を市場に戻すだけの行為であり、インフレ率が目標(2%〜3%)に達するまでは、何のリスクもないことがマクロ経済学的に証明されています。


6.結論:復活の鍵は「借金」にある

日本経済を復活させる処方箋は、感情論ではなく、この「ネットの資金需要」のデータの中にあります。

経済が成長するためには、誰かがリスクを取って「借金(投資)」をしなければなりません。 解決策は2つだけです。

  1. 企業に、再び借金をさせる 賃上げの強要や、内部留保への課税、あるいは国内投資への強力な減税などを行い、企業を再び「貯蓄主体」から「投資主体(マイナス)」へと引き戻す。これが本筋ですが、時間はかかります。

  2. 政府が、堂々と借金を続ける 企業が投資しないのであれば、その分を政府が国債発行で吸い上げ、科学技術、教育、防衛、インフラへ巨額投資を行う。

最悪なのは、「企業も貯金、政府も貯金」を目指すことです。これをやると日本経済は確実に死にます。今の財務省が目指しているプライマリーバランス黒字化目標とは、まさにこの「日本経済の安楽死」計画に他なりません。

「借金=悪」という、小学生レベルのお小遣い帳の道徳観を捨ててください。 マクロ経済においては、「正しい借金(未来への投資)」こそが、豊かさを生み出す源泉なのです。

企業が野性を失い、守りに入っている今。 政府こそが最大のリスクテイカーとなり、大胆な財政出動で未来をつくる。 それ以外に、私たちが「失われた30年」から脱出する道はありません。

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