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板倉さんと漢和辞典-1 上田万年『大字典』を勧める

 板倉さんが昔(1994/07/01),発想法講座で漢和辞典について話しているテープを聞いた。(Nさんから会館に送られ,その後Mさんに送ったもののコピー)
 
 〈なぜ,インチフィートマイルくち偏なのか〉という話です。どこからかの依頼で調べている話でした。


 これまだ解決してないんです。調べている最中です。
 で、こういうのがあるんです。上田万年他箸『大字典』という辞典です。この漢和辞典は日本では画期的な漢和辞典です。大正6年初版で、今も出てます。普通だと「漢和辞典」と書くのに「大字典」でしょ。名前を変えたのには意図がある。
 上田万年(1867-1937)という人は漢語学者じゃないんです。国語学者なんです。国語学者が作った漢和辞典というのが特色なんです。
 これはね、〈漢字学者が作らないと漢和辞典はダメなんじゃないの? 国語学者が作ったのではダメなんじゃないの?〉と思うかもしれない。そうじゃない。
 例えば日本で一番大きな漢和辞典として諸橋轍次てつじ(1883-1982)の『大漢和辞典』(大修館書店)というのがあります。正直言ってこれはもっとも悪い本です。世界一収録した漢字の数が多いといばって売ってますけども、これを引いて私が調べられたことはまずない。いつも文句言う。なぜかというと,この辞典には日本人が作った熟語がほとんど入ってない。もう日本人が作ったら漢字じゃない。もう日本人蔑視だね。中国人になりきって書いてある。だからこれは明治時代や江戸時代に日本で書いた本を読もうとしたらほとんど役立たないです。
 江戸時代の人はあんまり漢字を作ってませんけども、少しは作った。例えば「気持ち」とか「気分」なんてのはね、日本人が作ったんですからね。中国語じゃない。おそらく西鶴あたりだったと思っている。
 西鶴という人はね、「気」という漢字が好きでね、漢文の知識が好きでね、とてもひけらかしたんです。やたらに「気」とか「理」を使う。「気持ち」「気分」「陽気」とかね。そうすると諸橋轍次の『大漢和辞典』に出てこない。とんでもない辞書ですよ。
 そういうことに対して、上田万年のような国語学者を作ると、そういうものも入れるんでね、日本語なんだと。日本語の言葉を引くのだから『大字典』、「漢」がつかない。だから画期的な辞典なんです。
 おそらく辞典の後ろに「音訓表」を付けて引けるようにしたのがこれが最初なんです。それまでの漢和辞典は〈字を引くのに訓なんかで引くのはけしからん〉というわけです。〈訓は漢語に非ず〉ってわけだね。
 僕は好きなんだな。買うとしたら、戦前の版が良かったですね。戦前の方は2色刷りで,戦後には一色刷りになっちゃって。で、また最近2色刷りになりました。
 で、この依頼があってすぐにね、今、私のワープロオアシスで「いんち」「ふぃーと」「まいる」と打って漢字辞書で漢字を読み出すと、それぞれ「吋」「呎」「哩」と出てくるんですね。
 諸橋のやつにも出てますよ。出さないわけにいかんから出てますけどね。もうそっけない。ほとんど説明が書いてない。
 そこで上田万年の『大字典』でこれを見るとね、「フィートマイルインチ等,すべて口偏とする由は明らかならねど,単にその音を表し意ならん。」「マイルをマイルとよむ理由は明らかでないが,マイルの原音とマイルの音が近く,かつ里程を示す里を有するためかと「漢字原理」に見える。呎フィート・吋インチを口偏とするのも、単に哩に準じて加えたもので,意義は寸または尺に存する」とあります。
 諸橋轍次の『大漢和辞典』(大修館書店)や、藤堂明保(1915-1985)の『学研漢和大辞典』(学研)、長澤規矩也(1902-1980)の『携帯新漢和中辞典』(三省堂),貝塚茂樹(1904-1987)の『角川漢和中辞典』(角川書店)も私は引きました。でも『大字典』以上の説明は出ていませんでした。


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