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[学校おとぎ話]虫を知らない子と《足はなんぼん》5 知らないのに,何で教えるのですか?

● 掲示用の絵の描き方
 当時はまだ〈足はなんぼん?〉の絵カードを販売している人はいませんでした。
 先生が授業をしようと思ってから,虫の絵は用意しました。4つ切りの画用紙に出てくる虫の絵を描いて準備しておいたのです。これを使って説明をしたり,教室に飾ったりしたのです。
 この絵の描き方について書いてみます。

 最初は授業書の絵を自分で大きく描いて,掲示しようと思ったのですが,絵に自信がないのでちょっと作れませんでした。だからと言って授業書を拡大コピーするにしても,拡大すればするほど,汚くなってしまいます。絵が2倍になるということは線の太さも2倍になるわけです。思ったよりきれいなものではありません。
 写真にとって(例えば絵本から)それをスライドにして掲示する方法があるにしても,あたりを暗くして映写機で写すのでは面倒です。それに教室に飾るとこもできません。

 初めて特学の担任をした時,紙芝居を作ったときがありました。誕生会用に大きいのを作成したのです。最初はスライドにある作品を映写機で写しながら,それを見て画用紙に描いていったのです。しかし,これがたいしてうまい絵にならないわりに時間がかかり,たいへんでした。

 自分でも自分の絵が嫌になって続ける気力がなくなってしまいそうでした。その時にふと思いついたのです。「映写機で写しているのだから,そこに画用紙を持っていき画用紙に写った絵をマジックインクで描けば,楽で早いのではないか?」と気がついたのです。

 さっそくこれでやってみると,大変良かったのです。作成する時間も短くなりましたし,自分でも「うまい」と思えるような絵ができるので,苦にならなかったのです。
「なるほど,スライドやOHPでスクリーンに写さないで,画用紙に写してそれをなぞれば簡単だ」とここで覚えました。
 今回,授業書の絵を描くときもこの方法を使いました。

 OHPで画用紙に写したものを,上からマジックでなぞっていったのです。(マジックより,ポスカの方がかすれがないので,きれいかもしれません)上から下に向かって描いていこうとすると,自分の手の影で見にくいところがあります。でも,これは下から上へ線をひいていくように心掛ければそれほど問題ではありませんでした。むしろ,描く姿勢が壁に向かって描くことになるので,長い時間続けると手がだるくなってしまうことの方が気になったぐらいです。そういう時は無理しないで,休めばいいわけですね。
 

 写し終わった絵は,絵本『足はなんぼん?』(国土社)を見て,色をつけました。

 この絵はなかなか満足のいく絵になりました。この絵は授業をしている間中,教室にはっておきました。子どもから見て前の黒板にずっと貼ってあったわけです。

● 授業の復習から  
 授業参観の日です
先生「今,動物や虫の勉強をしているわけですね。ちょっと復習をしてみましょう。 A子ちゃん,これはなんていう動物だっけ?」

A子「忘れちゃった」
先生「これはツルという動物です。ツルは足,なんぼんある?」
A子「1本ある」
先生「ツルは足1本ある? E子ちゃん,ツルは1本足ですか?」
E子「違う」
先生「何本足ですか?」
E子「2本足」  
先生「ツルっていうのは足が2本なのです」  
A子「あと,1本ありません」
先生「あと,1本ないように見える?これとこれで2本。ツルはね,休んでいるときは片足を上げているわけ。上げている足も入れると2本なのね」

先生「M子,この動物はなんていう動物だか覚えている?」  
M子「忘れちゃった」
先生「E子ちゃんは覚えている?」
E子「はい,ダチョウ」  
先生「ダチョウというの」  
A子「先生,〈ダチョウ〉って何ですか?」
先生「〈ダチョウ〉っていうのは,こういう動物を〈ダチョウ〉って言うの」
M子「〈ダチョウ〉っていうのは海に入っているダチョウかな?」
先生「海にダチョウがいるの?」
M子「海に入っているダチョウだよ。海にいるんだよ」  
先生「難しいんだよなー。この近くにダチョウがいれば,見に行けるのだけどね。このあたりじゃいないからなー。東武動物公園まで行かないと無理かなー」
M子「あーあーあーあーあーあーあー」
 ーーー正直に言って,びっくりしました。前の時間に復習をしたときは,もっと覚えていました。急に悪くなっています。「授業参観で子どもたちがお母さんの前で少しかっこいい所が見せられるかな?」と思っていたのですが,張り切りすぎて,かえってボケてしまったのでしょうか? そういえば張り切れば張り切るほど,わけがわからなくなりそうな子達です。 

先生「この動物は何ていうのかな?」
M子「知ってるー。カエル!」
先生「A子ちゃん。この動物はカエルでいいのかな」
A子「違う」
先生「じゃあ,何ていうの?」  
A子「カメ」
先生「これはね。〈カエル〉でいいの。カエルって言う動物なの」  
A子「先生,カエルってさぁ,山に住んでいるのですか?」  
先生「山にもいます。お水のあるところなら住んでいます」
M子「はい。はい。はい。はい。はい」
先生「なんだい。M子?」
M子「カエル」
ーーーお母さんが来ているので,M子が張り切っているのですね。
先生「そう。カエルでいいのだよ。カエルって足はなんぼん?」
M子「4本」
先生「そう,カエルは足,4本だね」


先生「次はこの動物はなんていうのかな?」
A子「これはね。トカゲ!」  
M子「アヒル」  
E子「アヒル」  
先生「A子ちゃん,これはね,アヒルっていうの。トカゲって言うのは,こっちの絵なの」
M子「アヒルはね。ア,アヒルはね。足,2本」
先生「そうそう」  
M子「カメが4本」
先生「そうそうそうそうそう」
M子「トカゲが4本」
先生「そうそうそうそうそう」
A子「先生,アヒルってさあ。海にいるのですか?」

 ーーーあんまり,A子ちゃんが知らないので,聞いてみようと思いました。以前にA子ちゃんちでは,アヒルを飼っていたのです。それを思い出させようと思ったのです。
先生「A子ちゃんちは以前にアヒルを飼っていませんでしたか?」
A子「わかんない」  
先生「あれ,そうだっけ。E子ちゃん,そう?」
 ーーーA子ちゃんとE子ちゃんは姉妹です。
E子「犬と猫だよ」
先生「あれー,去年の家庭訪問の時に,先生にアヒルを見せてくれなかった? 耕うん機の中に2羽いたぞ。あれはアヒルじゃないのか?」  
E子「アヒルだ」
先生「そうだろー」
E子「いひひひひひ」  

先生「A子ちゃん,これはなんて言う動物?」  
A子「カエル」  
M子「はい。はい。はい。はい。はい。はい。カメ」
先生「これはカメだよ」
A子「先生,カメってさぁ,車の中に住んでいるのですか?」
M子「だめだー,こりゃ」
先生「A子ちゃんちの車の中にはカメがいるの?」  
A子「わかんない。いるんじゃない?」
先生「じゃあ,今度,探してみて」

● みんな本当に虫を知らないのね

E子「あっ,Tちゃんちのおばさん」
先生「M子,席につきなさい」
M子「わらっちゃうよ。ほんとに」
先生「みんなの勉強を見にきたのだから,座って前を向いていなさい」

先生「これは何ていう動物?」
A子「これね。カブトムシ」  
M子「ドジョウ」
E子「トカゲ」  
A子「先生。はい。これね,クマ」
先生「A子ちゃん,さっきこれをカブトムシって言ったじゃない。変えちゃうの?」
A子「うん,クマ」  
(しつこいようですが,絵には「トカゲ」と書いてあります)
先生「M子はドジョウ? E子はトカゲ? こうバラバラなのも珍しいな。これはね,トカゲなの。カブトムシはこれを言うの。クマはこっちの絵なの。
 M子,すまないけどここにはドジョウはいないのね」
お母さん「ふふふふふ」

先生「これは何て言う動物?」  
M子「カブ」
先生「最後まで言ってごらん」  
M子「わかんない」  
先生「忘れちゃったの?」  
E子「カブトムシ」  
先生「忘れないように3回,言ってごらん」  
M子「カブトムシの足ね。1,2,3,4,5,6,6本」  
先生「忘れないように3回,〈カブトムシ〉って言ってごらん」
M子「カブトムシ,カブトムシ,カブトムシ」  
先生「A子ちゃんもカブトムシって3回,言ってごらん」
A子「うんとー。ワニ」  
先生「〈カブトムシ〉って3回,言ってごらん」
A子「カブトムシ,カブトムシ,カブトムシ,カブトムシ,カブトムシ,
カブトムシ・・・・」  
先生「もう,いいよ。これをカブトムシっていうのだよ」  
A子「カブトムシって水の中にいるのですか?」
先生「ごめんねー。寒くなって,探しにいけなくてねー。夏だったらね,7月ぐらいだったらね。カブトムシを探しに行けたのにね」
A子「Aーちゃん,虫よわい」
先生「〈よわい〉って言っても,弱いから勉強しているの」
A子「Aーちゃん,虫が来るとすぐ逃げちゃう」

A子・E子・M子「はい,はい,はい,はい」  
先生「A子ちゃん,自信あるね?」
A子「うん」
先生「じゃあ,何て言うのだ?」
A子「これねー。ドジョウ」  
お母さん達「ふふふふふ」  
先生「M子,自信ある?」
M子「うん」
先生「じゃあ,何て言うのだ?」
M子「うんとねー。ワニ」
先生「E子ちゃんは何だと思う?」
E子「ワニ」
先生「A子ちゃん,これはね。ワニっていうの。A子だって字が読めるはずだよ。〈ワニ〉って読むの。〈ワニ〉って3回言ってごらん」
A子「ワニ,ワニ,ワニ,ワニ,ワニ,ワニ」
先生「ワニは足,なんぼん?」  
A子「10本」  
先生「どこに10本ある?数えてごらん」
A子「1……」  
先生「それは〈指〉っていうの」
お母さん達「ふふふふふ」
先生「足はどれ?」
A子「足が2本で,手が2本」
先生「あのねー,ワニの場合はこれも足って言って。手と言うのは,物をつかんだり投げたりするのが手だと思って」
A子「先生,これは手じゃないの。手がないと食べられないよ」
 ーーー先生はこれも理屈だと思いました。
先生「ワニはね。M子みたいに直接,ガブッって食べるの。手を使わないの」
A子「じゃあ,何を使うのですか? 」
先生「直接,口でかじっちゃうの。口が大きいでしょう。だから,これでガブッってかじっちゃうの」
ーーー手で口を真似て,A子の頭に食いついてみました。

A子「ああー。痛いよー」
先生「だから,ワニにかじられないように気をつけな」

先生「これは何て言う虫だか知っている人?」
A子「はい」
先生「自信ある?」
A子「うん」
先生「いってごらん」
A子「キリン」  
先生「あれっ,キリンって首が長いのじゃなかった?これ,首が長い?」
A子「長いよ。ほら,ここ長くない?」

先生「これは足」
お母さん「ふふふふふ」
M子「……ゴロウ」  
先生「は?なに?」
M子「グンゴロウ」  
先生「おしいなー」
E子「先生。E子,E子,E子に言わせてー。ゲンゴロウ」
M子「知らなかったんだもん」
先生「だから,これで覚えちゃおう。3回,ゲンゴロウって言ってごらん」
M子「ゲンゴロウ,ゲンゴロウ,ゲンゴロウ」  
先生「これは何ていう動物?」  
M子「コアラ」  
先生「これをゲンゴロウって言うの」
M子「先生,M子ちゃん,知らないのに何で教えるのですか?」
先生「知らないから教えているのでしょう!」
ーーーM子はお母さんがいるので,少し甘えているのかもしれません。

● アリは覚えているかな?  

先生「そのあと,アリを勉強したね。これは何という動物?」
M子「アリ」
E子「アリ」
A子「ミミズ」
先生「アリっていうのだよ。3回言ってごらん」  
A子「アリ,アリ,アリ,アリ,アリ,アリ」  
先生「何と言う動物?」
A子「アリ」
先生「そうだね。外へ行ってアリを見ましたね。アリって足は何本?」
M子「1本,2本,3本,4本,5本,6本。6本」
先生「アリって言うのは足が6本あります。1本,2本,3本,4本,5本,6本。前に出ているこれは足ではありません。ひげです。アリは6本足でした」

● チョウチョを覚えていますか?
 前の時間はチョウチョをやりましたね。チョウチョっていうのは実際に捕まえなかったけど……」
M子「あーん,チョウチョを捕まえてみたい」  
A子「Aーちゃん,絵を見てもわかんない」
先生「〈絵を見てもわかんない〉って言っても,今は実際に飛んでいないの」
M子「ねー,捕まえてみたい,チョウチョ」
先生「じゃあ,M子ね。家に帰ったらば,ランドセルを置いて,そしてチョウチョを探しにいけば?」
M子「だって,チョウチョ,いないのだもの,家には」  
先生「だから,外へ探しにいくのだよ。学校帰りに探しに行ってはいけません。いいね。いたらば捕まえてきてね。A子ちゃんに見せたいから」  
M子「チョウチョを探してきてやろうか? ~♪チョウチョ~……♪」
A子「うるさい! 先生,チョウチョってクマの仲間ですか?」
 ーーーここでは先生が少し聞いてみようと思いました。
先生「〈仲間〉ってどういう仲間?」
A子「あのね……耳がある」  
先生「〈耳がある〉って言うのなら,チョウチョはどこに耳があるの?」
A子「耳がないと聞こえないのじゃないですか?」  
先生「……音を聞くのを〈耳〉って言うの?」
A子「わかんない」  

● トンボを知っていますか?  
先生「じゃあ,A子,よく考えておいてね。
 A子ちゃん,トンボっていう虫を知っていますか?」  
A子「知らない。〈トンボ〉ってワニですか?」
先生「A子ちゃんはトンボを知らないのか……。E子はトンボを知っている?」 E子「わかんない」  
先生「はあー,〈わかんない〉?」
A子「わかんない。見たことない」
先生「A子ちゃん,〈トンボ〉っていう名前を初めて聞くの?」  
A子「うん。わかんない」
先生「トンボって初めて聞くの?」
A子「うん」
先生「トンボって初めて聞く名前なのね?」  
A子「わかんない」

ーーー前々から気になっていたことを聞いてみました。いったい〈わかんない〉とは何がわかんないのでしょうか?
先生「A子ちゃん,その〈わかんない〉っていうのだけどね。〈トンボ〉って言う名前は知っていたのだけど,どういう虫が〈トンボ〉って言うのかが〈わかんない〉の?  それとも,生まれて初めて〈トンボ〉って言う名前を聞いたの?」
A子「最初に言ったの」  
先生「なるほど。〈トンボ〉っていう名前は今までに何回か聞いたことがあるのだけど,どれが〈トンボ〉って言うのかがわからないのね。 E子ちゃんは〈トンボ〉って知っている?」  
E子「わかんない」  
先生「E子ちゃんの〈トンボがわかんない〉って言うのは,〈トンボ〉って言うのは聞いたことがあるのだけど,……」
E子「聞いたことある。だけど,見たことない」
先生「M子はどう?」
M子「はじめてじゃなくて,聞いてない」  
先生「〈はじめてじゃなくて,聞いてない〉って,どういうこと?」
M子「はじめてじゃないもん」
先生「???・・・〈トンボ〉っていう言葉は初めて聞くの?」  
M子「はじめてじゃないもん」
先生「はじめてじゃないんだね。どれが〈トンボ〉なんだかがわからないのだね」
M子「うん」
先生「そうかー。じゃあ,〈トンボの足は何本?〉って聞くのは大変だな……」
A子「先生,〈トンボ〉って足が 100本あるのですか?」
先生「〈トンボ〉ってわからないのだろう? じゃあ,これから先生が〈トンボ〉の絵を見せるからね。~♪トンボのメガネは水色めがね,青いおそらを飛んだから~♪」  
M子「あっ,その歌は聞いたことがあるのだけど,ねえ,知らない」
先生「じゃあ,〈アカトンボ〉って,全然知らない?」
A子「知らない」
先生「~♪夕焼けこやけのあかとんぼ♪~」
E子「なに,それ?」
先生「こういう歌があるの」
M子「知ってる!」
先生「M子はそういう歌は知っているのだね。だけど,どれがトンボなんだかがわからないのだね」
E子「アカトンボ,見たことない。トンボしか見たことない。青いトンボを見た」
先生「???・・・トンボは見たことあるのだね?」
E子「ない」
先生「だって,〈青いトンボは見たことある〉っていったじゃない。トンボを見たことは?」
E子「ない」

●  セミを知っていますか?
先生「じゃあ,トンボの話は置いておきます。次は〈セミ〉。セミ。 はい,生まれて初めて〈セミ〉っていう言葉を聞いた人?」
E子「あっ,セミ,知っている。家の猫がね,セミをとってくる」
先生「そうか,E子はセミを知っているのか。A子ちゃん,A子ちゃんはセミを知らない? セミが初めてなの」
A子「はい」
先生「M子は初めてなの?」
M子「うん」
先生「初めて〈セミ〉っていう言葉を聞くの。ふーん,A子ちゃんとM子は初めて〈セミ〉を聞くのだ」
E子「だけど,足の数はわからない」
先生「足の数はわからないのだ。でも,何本くらいあった?だいたいでいいよ」
E子「4本くらい」
先生「E子ちゃんは鉛筆をだして,このワクの中に〈4〉って書いておいて。  じゃあ,先生がこれから〈トンボ〉と〈セミ〉を教えます。
 これが〈トンボ〉です。こういう虫を〈トンボ〉って言います」  
A子「先生,これが足ですか?」

先生「それは足とは言わないよ。こういう虫をトンボっていうよ。今までにこういう虫を見たことない?」
E子「はい」
A子「見たことない」
M子「ない」
先生「E子ちゃんは〈アカトンボは見たことある〉って言うけど,こういう虫は見たことないのだ」
E子「見たことある」
先生「先生,不思議なんだけど,見たことあるの? ないの?」
E子「ない。トンボ,見たことないのだけどある」
先生「どっちなの。〈ないけどある〉というその表現は?」
E子「見たことない」
先生「そう,トンボの足は何本ある? 上から見ると足がよく分からないので,横から見ます」

M子「4本」
E子「4本」
A子「10本」
先生「は? 10本と4本? こうも分かれるのも珍しいな。数えてみますよ。足を数えます。M子ちゃん,数えてみて」
M子「1,2,3,4,これ手でしょう?」
先生「これ,足なの」
M子「手かと思ってちゃった」
先生「これ,足なのだよ」
E子「手だよ。それ! トンボ,手でもたなくちゃ,食べられないがに! だから,これ手だよ!」
 ーーー実を言うと,先生もこのE子の意見は〈もっともだ〉と思ったのです。前の2本で実際に捕まえているのでしょう。しかし,それを認めて,これを〈手〉だと認めてしまったら,この後の授業がやりにくくなってしまいます。ここは先生があくまでも〈足〉として押しつけようと決心しました。
先生「……トンボだって直接,ガブリってかじるのだもん。お箸もたないもん」
E子「違うよ。これ,手だよ!」
A子「そうだよ,トンボは手で食べるのじゃない!!」
M子「手で食べるのじゃない?」
 ーーー今までになく,子どもたちが団結をしています。子どもにしてみると〈手で食べる〉という認識があるのかもしれません。でも,ここは先生も意地になって〈足〉だと押しつけようと思いました。
先生「……お前ら,トンボを知らないのになんでトンボの話が出来るのだよ!〈トンボを知らない〉と言っている君達がどうして,〈いや,手だ!手だ!〉と言うのだよ!」  
A子「だって,手がないと食べられないのじゃない?」  
先生「だって,口で直接食べるのだもん!こっちは歩くときに使うから足なんだもん!」  
E子「歩くときは,こっちの4本を使えはいいじゃない!」  
先生「〈使えば〉って言ったって,これも使っているのだもん。これも足なんだもん。
  ……あのね。みんなは〈トンボ〉を知らなかったのだよね。先生の話を聞きなさい」  
A子・E子・M子「はい」
先生「トンボです。これは足なんです。手はないのです。わかったね」
A子・E子・M子「……はーい」
ーーー先生も内心,とっても気持ちが悪い押しつけ方なのですが,この時はこれ以外に思いつかなかったのです。今,思うと,もっと〈手〉と〈足〉の違いを説明しておけばよかったと思っています。 先生「何か不満そうな声だね。これも足なんだから,  
足が1本。
足が2本。
足が3本。
足が4本。
足が5本。
足が6本。
 トンボの足は6本なのです」    

● セミを知っていますか?  
先生「次はセミです。セミを知らない子が多いので,まずセミの絵を見せます」
E子「E子,知ってるにー」
先生「E子ちゃんは知っているんだよね」
M子「私,カブトムシを知っているよ」 先生「カブトムシの勉強はしたよね。 セミというのはこういう虫です。
 ーーー図鑑からセミの絵を見せる。足の本数はよくわからないが,いかにも〈セミ〉という感じがでている絵を見せた。ところが,同じページにセミの幼虫の時の写真が載っていたので,E子がそれを指して聞きます。

E子「これ,ハチじゃない?」
先生「これ,ハチじゃないよ」
M子「やだー。セミ,来ないで」
A子「ここ,ハチじゃない?」
先生「でもね……A子ちゃん,A子ちゃんはハチは知っているんだね?」
A子「ハチは知っている」
先生「じゃあ,ハチの勉強のときは頼んだよ。これはね,セミが赤ちゃんのときはこういう格好をしているの。そして大きくなるとこっちのような姿になるの。確かに赤ちゃんの時はハチににているね。でもね,よーく調べた結果,これはセミなの」
M子「セミ,来ないで!こわい」
A子「先生,セミ,こわい」  
E子「これ,全部,セミだよね。だって羽根があるもん。ハチは羽根がないもん」
ーーーいったい,この子達はどういう認識をしているのでしょうか? 先生も今までこの子達の担任をしていましたが,ここまで何も知らないでいるとは思っていませんでした。

先生「ハチ,羽根がないか?」
E子「ないよ」  
A子「ないよ,先生」
先生「ハチ,羽根がない? ハチって空を飛んでいない?」
E子「飛んでいない。歩くんだよ,毛虫みたいに」
A子「ハチ,こういうふうに歩くよ」
先生「ハチってどれくらいの大きさ?」
E子「これくらい。ミミズみたいなの」
A子「豆粒くらい」
先生「違っているじゃないか」
E子「違っていないよ」
先生「じゃあ,また,ハチの勉強のときにはA子ちゃんやE子ちゃんに聞くから,今はセミについて聞いてください。いいですね」
 ーーーここはもう逃げるしかないと思ったのです。
A子「先生,セミこわい」
M子「こわいよー」
先生「かみつかないから,安心して。見たこともないのになんで怖いの?」
A子「絵をみると怖くなってきちゃった」
M子「私も」
先生「離れて見せるから大丈夫だよ。これをセミと言います」
A子「先生,セミってさあ,カニみたくハサミを持っているのですか?」
先生「これ,ハサミを持っているように見える?」
A子「わかんない。ただ聞いただけだから。ここらへんがハサミみたく見える」
E子「ハチはハサミを持っているよ。だってハチに刺されると痛いもん」 先生「……ハチの話は後でします。今はセミの話なの」
E子「先生,セミは赤ちゃんの時は,羽根も小さいのでしょう。それなのに,こっちは羽根が大きいのになんで体が小さいの?」
先生「小さくないよ。大きいよ。セミは大きくなるの,体が」
E子「気がついた。こっちのセミは羽根がふたつあるのに,何でこっちは一つしかないのですか?」
先生「それはね。羽根を重ねちゃっているから。重なっていると手でも1本しか見えないでしょう?飛ぶときはバタバタと羽ばたくから見えるけど,飛ばないときは羽根を重ねているの。
セミの足は何本かなーと数えてみます。けれども,このままでは足がよく見えないから裏返しになってもらいましょう。セミさん,セミさん,おなかを見せてください。はい,これがおなかです。
はい,E子,足は何本だか数えてみて?」

E子「1,2,3,4,5,6,7」
先生「ちょっと,どこに〈7〉があるの? 1,わかるよ。
2,わかるよ。
3,わかるよ。
4,わかるよ。
5,わかるよ。
6,わかるよ。
どこに〈7〉があるの?」
E子「これ,足じゃない?」
先生「これは先生が絵を書いていて汚れちゃったの。足は6本なのです。
 セミの足は全部で6本なのです。忘れないうちに足の数を書いておきましょう」
 ーーー時間もなくなってきたので,復習をしておわりにしました。

* * *

 ここまで虫を知らないと,絵だけでは難しいです。粘土でそれぞれの虫の足のない模型を作って,着色をして,「この虫の足はなんぼん?」とでも聞かないと,いったいどの虫について,聞いているのか分からないのかもしれません。それも実物大ぐらいの大きさにしないと本当にイメージがつかないのかもしれません。
 でも,それはやっぱり大変なことです。虫ぐらいならいいですけど,へたに大きな動物が出てきたら,先生には作りようがありません。ゾウなんかが出てきたら実物大のゾウなんかできませんよ。
 でも,本当にこの子たちにイメージを豊かに思い浮かばせるにはそれぐらいのことが必要なのでしょう。
 いやー,そうすると〈足はなんぼん?〉という授業書は難しい授業書ですね。

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