10年、泥にまみれて辿り着いたこと。――技術とは「人間の意志」を翻訳するための装置だ
AIが「意志」を持っているかのように振る舞う時代になりました。
ICML 2026では、大規模言語モデルが人間の判断を「代替」できるかどうかが熱く議論されました。Samsung Healthがユーザーのデータ収集をほぼ強制する設計になっていたと話題になったのも記憶に新しい。
便利さの対価として、私たちは少しずつ「決める権利」を手放してきているのかもしれません。
でも今日、ぼくが伝えたいのは「AIが怖い」という話じゃないです。むしろ逆の話をしたい。
AIが得意なのは「過去の最適解」だ
AIは本当に優秀です。データから最適解を導き出す能力は、人間が何十年かけても追いつけないレベルに来ています。現場でも実感しています。
ただ、10年間ハードとインフラの最前線にいると、ひとつ気づくことがある。
AIが解いているのは、すでに誰かが定式化した問題だということです。
通信インフラを設計しているとき、机上の計算通りにいかないことは日常茶飯事です。経路が突然変わる、現場で想定外の電磁波干渉が出る、工期が前日に変更される。そういう「計算式に載らない現実」に、エンジニアは毎日向き合っている。
不条理な制約の中で「それでも動かす」という決断。これはまだAIには難しい。道路の幅が変わったとき、地図アプリは迂回路を提案できる。でも「なぜその道を通らなきゃいけないのか」を問い直せるのは、人間だけです。
SpaceXのロケットを設計したのは、計算じゃない
SpaceXの話をするとき、ぼくはいつも「でもあれを最初に信じた人間がいた」ということを思い出す。
再利用可能なロケットなんて、当時の常識では「無駄が多すぎる」とされていた。データも実績もなかった。それでもチームは「やる」と決めた。
それは計算の結果じゃない。意志の産物です。
現場でも同じことが起きています。回路設計の段階で「理論上は無理だけど、こういう迂回路があるかもしれない」と粘り続けるエンジニアを、ぼくは何人も見てきた。その粘りの源泉は、データでも正解でもなく、「なんとかしたい」という執着でした。
正直に言います。
**あのとき、ぼくは焦りました。**
AIがどんどん賢くなるのを目の当たりにして、「このままでは自分の仕事が全部持っていかれる」と本気で思った夜があった。手を動かしてきた10年が、急に砂の城みたいに見えた。
でも今は、少し違う見え方をしています。
技術は「意志の翻訳装置」だ
技術は魔法でも計算だけのものでもない。技術とは、人間が「こうしたい」と思ったことを、現実に変えるための翻訳装置です。
コードを書くのも、基板を設計するのも、インフラを引くのも、すべては誰かの「こうなってほしい」という意志から始まっています。
AIが最適化するのは、その翻訳の「効率」の部分です。でも「何を翻訳するか」を決めるのは、人間だけができること。
若手エンジニアのみなさんに伝えたいのはこれだけです。
**自分の意志を持ってください。**
「何を解決したいのか」「誰のためにつくるのか」「なぜこれじゃないといけないのか」。その熱量こそが、AI時代における最強の差別化になります。
計算は任せていい。でも**野心だけは、渡さないでほしい。**
技術って、やっぱり面白いんですよ。
それだけは、10年経っても、AIが何億パラメータになっても、変わらない。
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