【童話】おかがみさんのやくそく(第40回家の光童話賞・佳作)
もうすぐ、お正月。
ユウタは今年も、なかよしのヒロの家の、おもちつきにむかいます。
じてんしゃで、田んぼ道をすすむユウタ。
いつもより、ペダルがおもたくかんじます。
(今日が、さいごのもちつきなのかな……)
ユウタは明日、ひっこしをするのです。
ヒロの家につくと、にわから、にぎやかな声が聞こえてきました。
「あっ、ユウちゃんおはよう!」
ヒロのニカッとしたえがおを見ると、ユウタはなんだかほっとします。
にわに入ると、ほかほかのもちごめの、あまいにおいがただよいました。
「せーの……よいしょー!」
二人で力を合わせてきねをつくと、ヒロのかぞくがはくしゅをします。
「さすが二年生。たくましくなったねぇ」
「ほいくえんのときは、おもちがつけなくって、しりもちをついていたのにね!」
うれしそうにわらうみんなに、ユウタはすっかり、明日のひっこしのことをわすれていました。
おもちつきのあとに、ヒロのおばあちゃんが二人をよびました。
「今日は、おかがみさんをいっしょに作ろうか」
たたみのへやについて行くと、こたつの上にはつきたてのおもちがありました。
「あの、おかがみさんってなんですか?」
ユウタがたずねると、おばあちゃんは、おもちをてじなのように丸めながら言いました。
「かがみもちのことさ。
知ってるかい? おかがみさんにはねぇ、『年がみさま』がやってくるんだ。
しあわせを、はこんでくださるんだよ」
おばあちゃんは、あつあつのおもちもへっちゃらのようで、二だんにかさねていきました。
「年がみさまって、お正月に来てくれるかみさまのことでしょ?」
ヒロが、とくいそうにしています。
「そうさ。ユウちゃんは、明日ひっこしするんだろう?
でも、新しいおうちでも、おかがみさんがあればしんぱいないさ」
おばあちゃんのことばに、ユウタのむねがちくっとします。ヒロはというと、楽しそうにおもちをころころ丸めています。
「そうだよユウちゃん!
うちのおもちで作ったおかがみさんなら、年がみさまも『おかわり!』ってよろこんじゃうよ!」
「なにそれ。年がみさまって、そんなに食いしんぼうなの?」
二人は思わずふきだしながら、おばあちゃんのまねをして、でこぼこのかがみもちを作っていきました。
いたの上にならべたかがみもちが、ユウタには、とくべつなものに見えました。
「おいしい!」
「あんこもち、さいこうだね」
ようやく、えんがわでおもちを食べていると、お昼のかねがなりました。
ユウタは、うわぎのボタンをゆっくりしめます。
「そろそろ、帰らないと……。
さいごだと思うけど、いっぱい食べられてよかった」
するとヒロが、おしりのところを引っぱりました。
「わっ、どうしたの?」
「ユウちゃん……」
ヒロは、うつむきながらつぶやきました。
「……ほんとうに、さいごなの?」
ユウタも下をむき、何も言えませんでした。
「あっはっは!」
そのとき、部屋の中から、おばあちゃんのわらい声がしました。
「ちょっとおいで! あー、おかしいったら」
二人がだまって戸をあけると、おばあちゃんが、さっきのいたをはこんできました。
「見てみ、これ」
そこにあったのは、てろんとたれた、二つのかがみもち。
ユウタとヒロの作ったおもちのほっぺたが、くっつきあっていたのです。
「これはもう、ずうっととれへんわ」
ユウタとヒロは、顔を見合わせて、とろけるようにわらいあいました。
「ユウちゃん。これさ……ぼくの分もあげる」
「えっ? いいの?」
「うん。ぼく、ユウちゃんにあげたいの。
ユウちゃんの新しいお家、年がみさまに、たくさんしあわせにしてもらいたいから!」
ユウタは、おかがみさんを、だいじにだいじにうけとります。
ふあんだったきもちは、どこかにとんでいきました。
ユウタは、じてんしゃにまたがりました。
「また来年も、おもちつき来てもいい?」
ヒロが、声をはりあげます。
「当たり前じゃん! また、おかがみさんいっしょに作ろ」
二人は、ゆびきりげんまんのやくそくをして、わらって手をふりました。
(おわり)
