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教師の企み〜林間学校二日目に現れたスキンヘッドオジ〜

小学五年生の夏、三泊四日の林間学校があった。

人里離れた山奥の学舎に行って、山登りをしたり河原でカレーを作ったりキャンプファイヤーをしたり、自然の中でアウトドアを満喫しながら四日間を過ごす五年生の恒例行事だった。
親元から離れて四日間も友達と一緒に過ごせるということもあって林間学校を心待ちにしていた生徒はたくさんいた。
しかし、僕はそこで行われたとあるイベントがいまだに許せなかった。

それは二日目の夜に行われた。

事前に配布されたスケジュール表の二日目の夜の時間の欄にはただ「お楽しみの時間」とだけ記載されてあり、それを見て僕は「この時間は自由時間みたいなもので各自の部屋で友達と楽しく過ごすのかな? こりゃトランプ大会開催やでぇっ!」ぐらいに思っていた。
しかしその期待は見事に裏切られることになったのだ......。

二日目の夜。
「さて、まずはババ抜きからでも始めようか」と思っていると、突然担任の先生が僕らの部屋にやって来て、深刻な顔で「今すぐ一番広い部屋に全員で来るように」と伝えにきたところからそれは始まったのだった。
その呼び出しのときの先生の顔はいつもとは違ってどこか神妙な面持ちであり、さらに生徒に有無を言わせないその口調を聞いて、僕らは何か大変なことをしでかしてしまったのかもしれないと不安になった。

「怒られるのかもしれない」とビクビクしながら広い部屋に向かってみると、そこには既に他の部屋の生徒たちも集められており、見回すとどうやら参加している五年生全員が呼び集められているようだった。
「後ろに座るように」
そうぶっきらぼうに言ってきたのは先程呼び込みにきた担任だった。先生は教卓の前に立って列に並ぶ生徒たちを見下ろしていた。
僕らは言われるがままに先に居るクラスメイトに倣って列の最後尾に体育座りをして並んだ。
しかし座ったところで教師は依然として黙ったままで、一向に今から何が行われるのかという説明はなされず、僕らはどうすれば分からないまましばらくの間待機することしかできなかった。

そして一番不思議だったのは、その集められた広い部屋の電気がなぜか消されたままだったことだった。
だから僕らは窓から夜の光が射し込む薄暗い部屋の中で黙って座っていることしかできなかった。
一度、気を利かせた学級委員が電気を点けようとスイッチの方へと向かったのだが、その様子を見るやいなや前に立つ教師が「点けなくていいから。座っていなさい」と一喝し、注意された学級委員は戸惑いを隠せぬまま自分のいた場所へと戻っていった。

教師が醸し出す異様な空気感と暗い部屋の雰囲気から生徒たちの間にいつしか緊張が張り詰めていた。
その緊張感に耐えられず「何? 今から何があるか知ってる?」とおどけるように私語を始めるものがいたが、少しでも声が上がるとまた教師が「静かに待っていなさい」と厳しく叱責して騒いだ生徒を黙らせるのだった。

そうしてしばらく待っていると、ようやく教壇に立つ教師から一言目が発せられた。
「……今日は皆さんに伝えなければならないことがあります」
いつもは朗らかで明るいことから多くの生徒から人気があるその教師は、そのとき部屋が薄暗いこともあって表情が読み取りづらくなっており、まるで脳面のように無表情だった。またいつもとは違って抑揚なく淡々と話すその語り口は、今から何かとんでもないことが起こるのかもしれないと僕らに予期させるものがあった。
そして教師が次に発したその言葉が耳に届くと、僕らは驚きのあまり頭が真っ白になってしまって何も考えられなくなってしまうのだった。

「みなさん、霊はいます.…..。霊界はあるのです」

あまりの出来事に僕らは自分たちが聞いたその言葉を理解することができなかった。言葉がようやく脳に到達しても、耳を疑ってしまってまだこの状況を信じることができなかった。
わざわざ生徒たちを呼び出して、こんなことを話すなんて先生はおかしくなってしまったのだろうか? これは他の大人が止めるべき事案なのではなかろうか。
「そうだ! そういえば他のクラスの先生たちは何をしているんだ」と思って部屋を見回すと、夕方まで一緒に過ごしていた他の大人たちは誰一人としていなかった。
これは一体どうゆうことなんだ?
自分の置かれている状況がますます分からなくなって困惑するばかりだったのだが、構わずに教師はさらなる驚きの言葉を発するのだった。

「今日はその道に詳しい方に来て頂いてます。どうぞ」

そう教師に呼び込まれて扉が開くと、部屋に招かれたのは見たこともないスキンヘッドのオジサンだった。
そのオジサンは黒い作務衣姿で手には数珠を持っており、どことなくお寺のお坊さんなのかと思わせるような身なりだった。
教師に招かれた僧侶風のオジサンは、前に立つと無言のまま生徒たちを見定めるように僕らをしばらく眺めてた。
オジサンにジッと見られてさらに緊張感が増した僕らは、次の展開を息を呑んで待つことしかできなかった。
しばらく沈黙した後、やがて時が来たのかオジサンは意を決したように「スゥッ...」と息を吸うと、ゆっくりと慎重に喋り始めたのだった......。

「.…..これは私の友人が実際に体験した話です……。その村には、昔から入ってはいけないある場所が…」

何を急に話し始めているんだ。今はそれどころじゃな......ん? この感じ...この語り口調......
ハッ!! まさかこれは...!!
か、か、怪談だぁーーー!!!!
みんなぁー! 騙されたぞーー!
大人が怒ってる感じを演出して子供たちを集めて、緊張感を持たせてビビらせて効果的に怪談話を聞かせてるぞーー!! 罠に嵌められたんだーー!!

しかし「お楽しみの時間」が怪談話を聞かせられる時間であることに気づいた時にはもう後の祭りだった。
なぜならば小学五年という年頃に怪談話は強烈に刺激的であるからだ。皆、自然とそのオジサンの緩急のある語り口にどっぷりと入り込んでしまい、怪談が山場に突入へとすると列のあちらこちらから「ウワー!」や「ギャー!」と叫びながら号泣して助けを求める子供が多発し、薄暗い部屋はあっという間に子供達が泣き叫ぶ地獄絵図となったのだった。

僕はその泣きじゃくる生徒たちとそんなことは構わずに喋る続ける僧侶風のオジサンを見ながら思っていた。
「こ、子供が泣いているのに酷すぎるだろ.....」
そもそもこのオジは一体どこの誰なんだよ!
どこかの寺の僧侶だか怪談師だかよく分からないけど子供が泣き叫ぶぐらいに嫌がってるんだからもうやめろよ!! 絶対心に深い傷を負うだろ!!
この大人がただ楽しむだけのために子供の気持ちとか一切考慮せずに仕掛けてくる感じマジで大嫌いだわーー!! ろくなもんじゃねぇよ、大人って!! 

その後怪談が終わると、僕らは学舎から少し離れた空き地へと皆で移動させられ、今度は男女一人ずつのペアになってやって来た道を学舎まで肝試しさせられることになった。
帰り道の途中では山奥から叫び声が聞こえたり、突然白いシーツを被った幽霊が飛び出してきたり、後ろから髪の毛の長い女性に全速力で追いかけられたりした。
その数々の霊障はもちろんさっきまでいなかった他のクラスの教師たちの扮装だった。
もはや正体はバレバレであるのにも関わらず、幽霊に扮して子供たちを驚かせて楽しんでいる教師たちを見ているうちに、僕は「コイツらとスキンヘッドオジこそマジで霊界にいけぇーーー!!」と飽きれてしまうしかないのだった。

僕は絶対にあのときの大人たちを許さない。
死んだら化けて枕元に立ってやることは確定している。


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