見出し画像

特許法93条 2021年裁定請求第1号

 特許法93条の条文解説記事に入れていたもののうち、2021年裁定請求第1号に関する部分をこちらに移動させました。特許法93条の条文解説自体はこちらです。


1.工業所有権審議会 発明実施部会(第1回)の開催前

 先ず、2021年12月02に開催された工業所有権審議会 発明実施部会(第1回)の「開催前」までの状況です。

 2021年裁定請求第1号は、特許法93条(公共の利益のための通常実施権の設定の裁定)の請求であり、対象は特許第6518878号(発明の名称:「網膜色素上皮細胞の製造方法」)です。

 この特許第6518878号ですが、特許権者は、株式会社ヘリオス、国立研究開発法人理化学研究所、国立大学法人大阪大学、の3者です。また、発明者は、澤田昌典さん、高橋政代さん、関口清俊さん、の3人です。

 したがって、今回の裁定請求2021-1は、発明者のうちの一人が請求したことになります。なお、分割出願された特願2015-541641が、特許6850455として権利化されています。

  21/09/21位から、多少、公益裁定に関するツイートが見られました。これらは、高橋政代先生(@masayomasayo)の以下のツイートが発端と思われます。

 確認した範囲では、理研さん及びヘリオスさんの共有特許権は、特許6518878号(発明名称:網膜色素上皮細胞の製造方法)、特許6518878号の分割である特許6850455号と、の2つだと思います。また、これらの特許は、上述のツイートをされた高橋政代先生が発明者の一人です。より詳細には、特許6518878号は、発明者が澤田昌典先生、高橋政代先生、関口清俊先生の3名で、特許権者が、株式会社ヘリオス、国立研究開発法人理化学研究所、国立大学法人大阪大学の3者(社)です。

 ヘリオスさんは大日本住友製薬さんと共同開発契約を結んでいたようです。また、2019年6月13日付の発表によると、この契約内容は変更され、RPE細胞医薬品の製造・販促を行う合弁会社である株式会社サイレジェンを設立することになっています(情報元1)。

 一方、株式会社ビジョンケアのHP(情報元2)によると、高橋先生は、元々は理化学研究所に在籍され、2019年8月から株式会社ビジョンケアの代表をされているようです(情報元2)。

 これだけの情報から推測すると、高橋先生は、理科科学研究所等の主導によるRPE細胞医薬品の開発を、外部機関による開発に変更するという方針に納得できず、別の組織(会社)に移られたようにも見えます。

 1.1.個人的な想像

 医療分野は専門外なので、このブロックの記載は想像に基づくものです。
 上記高橋政代先生(@masayomasayo)のツイートによると、網膜色素上皮細胞の製造方法(特許6518878号、特許6850455号)の有効性は、治験で「確認されていない」ようです。有効性が治験で確認されていないのであれば、実際に有効か否かが不明な特許に対して、特許発明の実施が公共の利益のため特に必要(特許法93条)と認定される可能性は低いものと考えます。

 「公共の利益のために特に必要」の判断基準について考えてみました。「公共の利益のために特に必要」と判断する際の基準は、①代替手段がないこと、②即時実施できること、③即時実施しないと(放置した場合)死者が出るなど回復不能な被害が発生すること、を満たす必要があると思います。

 考えた基準の根拠、理由について説明します。
 「①代替手段がないこと」は、代替手段があれば、そちらを使えば良いからです。「②即時実施できること」は、そもそも即時実施できないのであれば、裁定によって実施権を設定する必要はないからです。最後に、「③即時実施しないと(放置した場合)死者が出るなど回復不能な被害が発生すること」は、例えば、薬剤投与などで事後的に回復可能な範囲に維持できるのであれば、その薬剤投与なども検討すべき手段の一つとなりうるからです。したがって、この点からも、公共の利益のために特に必要と認定される可能性は低いと考えます。

 さらに、本件は産学連携の研究開発成果ですが、研究開発費(実際の開発費と、治験費等を含む)を負担している組織・企業に対して、元構成員が公益裁定を請求しているように見えます。この点は、特許法93条の「特許発明の実施が公共の利益のため特に必要」とはあまり関係なさそうですが、請求が認められるとは考えにくいです。

 最終的に、この請求の結果がどのような結果になるかは分かりませんが、結果として、NPE(Non-Practicing Entity)へのライセンス供与裁定(不実施裁定)などが広がることにより、技術の進歩がさらに加速することを期待します。なお、NPEは、パテント・トロールという単語の方が馴染みがあるかもしれません。

 1.2.報道内容など

 先ず、特許権者の株式会社ヘリオスさんのHPの情報です。

 裁定が請求された後も、ヘリオスさんは静観されるようです。
発明実施部会(第1回)の前における特許権者等以外の解説記事等は以下の通りです(抜けが有ったら教えてください)。

2.工業所有権審議会 発明実施部会(第1回)

 2021年裁定請求第1号の審議のために、2021年12月2日に工業所有権審議会 発明実施部会(第1回)が開催されたようです(情報元)。

 発明実施部会(第1回)では結論は出なかったようです。議事概要は以下の通りです。

(1)発明実施部会の出席者について
 裁定請求2021-1に係る発明実施部会について、工業所有権審議会令第6条5項に基づき設樂部会長により指名された、清水節委員が部会長代理として開催した。
設樂部会長については、工業所有権審議会運営規定第3条に基づき、自己に関係のある事項のため、議事に加わらない。
第1回発明実施部会の出席者については以下の通り(敬称略)。
<委員・臨時委員>
清水節(部会長代理)、井上由里子、岩井良行、辻󠄀淳子、三尾美枝子
<専門委員>
石川浩、加藤暁子、中山一郎

(2)発明実施部部会の運営について
 本発明実施部会について議論が行われ、「発明実施部会の運営について」が決定された。

(3)議事内容について
 裁定請求2021-1については第2回以降も引き続き議論することになったが、議事録や議事要旨については工業所有権審議会運営規定第5条に基づき非公開とする。

https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/kogyo-shoyu/hatumei20211202.html

 残念ながら議事録、議事要旨は非開示のようです。

 また、工業所有権審議会 発明実施部会の委員等名簿も開示されていましたが、こちらもかなりの経験者です。

工業所有権審議会 発明実施部会 委員等名簿
※五十音順、敬称略、◎は部会長、◯は部会長代理

(委員)
 井上 由里子 一橋大学大学院法学研究科 教授
 岩井 良行 公益社団法人発明協会副会長
◎設樂 隆一 創英国際特許法律事務所共同代表パートナー会長 弁護士
◯清水 節 柳田国際法律事務所 パートナー 弁護士・弁理士
 辻 淳子 辻法律特許事務所 弁護士・弁理士
 三尾 美枝子 紀尾井町法律事務所 弁護士

(専門委員)
 石川 浩 持田製薬(株)事業開発本部 知財担当理事
 日本製薬工業協会知的財産委員会 委員
 加藤 暁子 日本大学法学部経営法学科 准教授
 中山 一郎 北海道大学大学院法学研究科 教授

https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/kogyo-shoyu/document/hatumei20211202/meibo.pdf

●参考情報
 ・工業所有権審議会令
 ・裁定制度の運用要領(昭和50年12月1日決定、平成9年4月24日改正)
 ・工業所有権審議会運営規程(平成13年2月20日制定、平成15年6月10日改正)

 2.1.発明実施部会(第1回)後の報道など

  年末にも、日経さんから1件報道がありました。

この報道では、特許専門家のコメントとして以下の基準が示されています。

裁定制度の運用要領は「国民の生命、財産の保全、公共施設の建設など国民生活に直接関係する分野で特に必要である場合」などと判断基準を定める。特許の専門家によると、今回の裁定では主に①患者にとっての深刻さ②代替技術の有無③治療法開発に向けたヘリオスとビジョンケアそれぞれの能力――の3点が考慮されるとみられる。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD2331I0T21C21A2000000/

 この辺りは、弁理士さんが条文に沿って考えれば同じような結果になる、という感じですね。私もここまで緻密にコメント出来ればよかったですが。

 2.2.発明実施部会(第2回以降)

  発明実施部会は、2024年2月の段階では、第22回まで開催されています。第22回で、裁定請求2021-1についての答申案がまとまったようです。

また、2024年02月現在、舞台は総会に移ったようです。

第1回(令和3年12月2日)
第2回(令和4年2月22日)
第3回(令和4年3月10日)
第4回(令和4年4月18日)
第5回(令和4年4月19日)
第6回(令和4年5月10日)
第7回(令和4年5月13日)
第8回(令和4年5月27日、6月1日)
第9回(令和4年10月6日)
第10回(令和4年10月25日)
第11回(令和4年12月22日)
第12回(令和5年2月2日、2月16日)
第13回(令和5年3月9日)
第14回(令和5年4月13日)
第15回(令和5年5月18日)
第16回(令和5年6月8日)
第17回(令和5年6月29日)
第18回(令和5年8月3日)
第19回(令和5年8月31日)
第20回(令和5年9月27日)
第21回(令和5年10月20日)
第22回(令和5年11月14日~16日)

https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/kogyo-shoyu/hatumei.html

 2.3.工業所有権審議会 総会

 2024年02月現在、舞台は総会に移っていますが、まだ、結論は出ません。。。

第5回(令和5年12月25日)
第6回(令和6年2月20日)

●関連記事
裁定請求2021-1についての答申案がまとまったようです

#弁理士 #弁理士試験 #弁理士試験の受験勉強 #知財 #知財法 #特許法
#毎日note #コラム #毎日更新 #note #毎日投稿 #note毎日更新 #毎日 #最近の学び #毎日更新倶楽部 #考察コラム #クリエイティブ #士業


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集